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フラグ


メルワーレは村の中を歩いていた。


これから会う魔術師については、最低限の説明は受けていた。

四年前に宮廷魔術師になった男、パリクス・エルメット。

その妹に当たる人物だという。


宮廷魔術師の選抜は、いつも表面上はあっさり決まる。

しかしその裏では、目を背けたくなるような、汚い争いが行われているという。


誘拐、脅迫、暗殺、流言……そして賄賂。


四年前は、あちこちで物凄い額の賄賂が飛び交ったと言う。

それがなければ、ディスオルトが宮廷魔術師になっていただろうという噂もある。


つまりパリクス・エルメットはあのディスオルトのライバルと言えなくもない。

会った事はないが、それなりの問題人物に違いないとメルワーレは思っていた。


その妹という事は、まあ……覚悟しておいた方がいいだろう。

そんな事を考えながら、村の中を歩く。


村が小さいので、一分も掛からないうちに、端の方にある小屋までたどり着いてしまう。


小屋の裏手で、四人ぐらいの子どもが遊んでいるのが見えた。

ボコボコのボールを蹴って走り回っている。


こんな村でも子供がいるんだなぁ、と思いながら微笑ましい思いで見ていると、その中で背の高い少女が驚いたようにこっちを見た。

そして慌てて子どもたちの輪から抜け出して、こっちにやってくる。


「え?」


メルワーレは自分が何かしたかと思い、その少女の顔を改めて見て、ようやく気付いた。


よく見ると、他の三人の年齢は10歳になるかならないかぐらいだが、その背の高い少女は10代後半ぐらいだ。

むしろ、年齢にしては背が低いと言うべきか。


それによく見れば、着ている服は、多少汚れているものの、それなりにいい布を使っているように見えた。

平民ではない、貴族だ。


「レーリア・エルメットさん、ですよね?」

「そ、そうよ」

「あの、別に急ぎの用ではないから、続けてもいいですよ」


メルワーレが言うと、レーリアは目を逸らしながら言う。


「し、知らないし? あいつらが勝手に絡んできたのよ」

「そうですか? 楽しそうに遊んでいるように見えましたけど……」

「うるさいわね」


子どもの遊び相手をするのを見られてそんな恥ずかしがる必要はないだろうと思った。


「それで、何の用なのよ」

「いえ、単に挨拶をしておこうと思っただけですよ」

「それだけ?」

「だから急ぎの用じゃないんですって……」


本当にそれだけだったのだが、せっかくなので、今のうちに情報を集めておく。


「レーリアさんは一か月ぐらい前からここにいたんですよね? 何か、気づいたこととかありませんか?」

「何もないわ。平和過ぎて不思議なぐらい」


レーリアはため息をつきながら、近くの壁に背を預ける。


「何も、ですか?」

「何かあったら、こんな事していられないでしょ」


レーリアは遊んでいる子どもたちを指さす。

確かに平和だな、とメルワーレも思った。


「あなたはどうしてここに呼ばれているんでしょうか?」

「どうしてって?」

「つまり、それなりの戦力が必要だと判断したから派遣されたわけですよね?」


モロトロス伯爵は、同じ派閥のミルアーヌ男爵の発言を無視できない。

だからメルワーレを使って調査させたという事実が必要になる。

それはわかる。


だが、曖昧な報告だけで、宮廷魔術師が動いたというのは、どうにも解せない。


レーリアは宮廷魔術師ほどでないとしても、それなりの実力を持った魔術師だと聞いている。

それが曖昧な理由で仕事もない場所に派遣される物だろうか。

一応貴族だし、言ってはなんだが、こんな何もない辺境の村に送り込むのもどうかと思う。


レーリアの派遣は宮廷魔術師の会議で決まったそうだが、その内実までは、メルワーレは聞いていない。


「貸しを作った、とでも思っているんでしょ」


レーリアは言う。


「あの場にいる連中は、自分たちが世界を支配していると思い込んでるのよ」

「世界を支配、ですか?」

「椅子に座って命令をしてるだけで、何か立派な事をした気分になってるんでしょ。実際に働かされている末端の事なんて考えもしないボンクラよ」

「はあ……」


そのボンクラの中にはレーリアの実の兄も含まれていると思うのだが。


「お兄さんとは、仲が悪いんですか?」

「そんな事ないわ。普通よ」


レーリアはそっけなく言うが、仲が良かったらそんな言い方はしない。


レーリアの兄は、この状況をどう思っているのだろう。

常識で考えれば、身内を死地に送り込んだり、閑職に回したりはしないだろうと思うが……

貴族の場合、むしろ身内だからこそ、という事もあり得るので断言はできない。


「私は逆に、過剰戦力過ぎるような気もするんですが」

「過剰? ……まあ、それはあるけど宮廷魔術師に依頼が来たら、魔術師を派遣するしかないでしょう」

「まあ、そうなんですけど」


つまり、ミルアーヌ男爵が宮廷魔術師をつついた時点で、魔術師の派遣は確定していたという事になる。

直接ミルアーヌ男爵に面会できない立場のメルワーレには、そこから先の情報を掘る手段がない。


そもそも、メルワーレはダンジョンドラゴンの件を知りながら報告していないという負い目がある。

それ繋がりだとしたら、事が明るみに出た時、かなりの厄介ごとに巻き込まれるてしまうような気がした。


「どうしたの?」


レーリアが、心配そうにこちらを見ている。


「いえ、」

「……あえて私が送り込まれた理由があるとしたら、何が出ても火力で対処できる、ぐらいしか考えてないんじゃないの?」

「何が、出ても?」


メルワーレは現状想定できる最悪の事態を考えて身構えたが、レーリアは気楽そうに笑う。


「心配する事はないわよ。どうせ、イノシシが増えすぎたとか、クマが増えすぎたとか、そんなつまらない話よ」



中世、ヨーロッパ、子どもの遊び、でググったら

死んだ動物の膀胱に羽を詰めたボールで遊んでいたとか出てきてそっ閉じ


いや、確かに革製品は死んだ動物だろうけど、言い方……

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