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狩猟村


べリアート樹海は王都から歩いて一日ぐらいの距離にある巨大な森だ。

ただし、森の外周は植物の育成が早く、道らしきものがない。

歩いて出入りするのは不可能だろう。


一番いいのは、船で進む事だ。

森の中を貫くように流れているリトーノ川を、船で遡れば、通り抜ける事ができる。

リトーノ川は王都へ納税品を運ぶための輸送路にもなっている。

だが、森の中には危険な魔物が繁殖する事もあるため、安全に通り抜けるためには警備が必要だった。


そこで設置されたのが狩猟村だ。

狩猟村にいるが、森の中の魔物の状態を調査し、必要なら討伐する。



「よ、ようやくついた……」


船に揺られる事、およそ半日。

メルワーレは狩猟村にたどり着いた。


船に乗りすぎて平衡感覚がおかしくなったのか、桟橋に上がると足が少しふらついた。

それでもメルワーレは、どうにかまっすぐに立ち、あたりを見回す。


丸太小屋のような建物が、十数軒ほど立ち並ぶ、見るべき物もないような小さな村だ。


「あなたがメルワーレさんですか?」


60歳ほどの老人から声を掛けられた。


「はい、そうです。えっと、あなたが?」

「村長のワトスです。お待ちしておりました」


ワトスはにこやかな笑顔を浮かべる。

しかし、その目は猟犬のように鋭いように、思えた。



ワトスの家は、他の家とあまり変わらない、こじんまりとした感じだった。

部屋の中央にテーブルがあり、その上に、ボロボロになった羊皮紙の地図が置かれていた。


「しかし、思ったより若い方が送られてきましたな」

「いけませんか」

「そういうわけではありませんが、ミルアーヌ様の手配と聞いていたので、少し驚きましたよ」

「それは、まあ、いろいろあったので……」


そもそもの始まりは、このワトスが王都に送った報告書にある。

森の中で何か異変が起こっていると主張しているが、異変の内容に具体性がなく、王都の側でも対処に困った。


貴族の間では、報告書を切り捨てるべきとの意見もあったが、ミルアーヌ男爵が待ったをかけた。

ミルアーヌ男爵は、貴族としての階級は低いが、それなりに発言権を持っているため無視できない。

結果、魔術師を一人送り込む事で合意させたらしい。


しかし、異変の正体については未だに判明していない。

それでしびれを切らしたミルアーヌ男爵があちこちに働きかけた結果、追加の調査員を送ることになった。

それがメルワーレだ。


だが、メルワーレの専門は魔物ではなく人間だ。

この人数の少ない村で何をどう調査しろというのか。

もしかして、新手の左遷なのでは、と思わないでもない。


そんなメルワーレの内心を知ってか知らずか、ワトスは地理を説明してくれる。


「この森は大きく分けて三つのエリアに分かれています」


森は青い線で三分されていた。

森の北東から流れ込んでくるリトーノ川

森の北西から流れ込んでくるルルト川


二本の川は森の中央付近で合流して小さな沼地を作り、溢れた水が南へと流れている。

これは王都の横手を流れる川で、リトーノ川と呼ぶ事になっていた。

帝国側は、これをルルト川であると主張し、ルルト川の西側の領地を明け渡せと戦争を仕掛けてくる。


もちろん、王国側がこの要求に応じる事は絶対にない。

単に黙って領土を明け渡す気がない、というだけではない。

リトーノ川は王都の隣を流れる川でもある。

その川の対岸を渡したら……次は王都を奪われるだろう。



リトーノ川は、沼地より上流側と下流側で同じ名前だが、区別が必要な時は、中リトーノ、大リトーノ、と呼ばれる。

ちなみに小リトーノ川、と呼ばれる川もある。


これは国の北東の方から流れてくる川で、森に入る手前でグレイド湖に流れ込む。

このグレイド湖から流れ出し、沼地に入るまでの間を中リトーノ川と呼ぶ。


「この村のある位置が、ここです」


村長は地図の沼地の近くを指で示す。

そこに村の位置を示す印がつけてあった。


「そして私が異変を感じたのがこの辺りです」


次に村長が指さしたのが、森の西側のエリア。

ルルト川と大リトーノ側に挟まれた区域だ。

メルワーレは地図を見て顔をしかめる。


「もしかして、川の向こう側ですか」

「ええ、川は船で渡ります。一艘、用意してありますのでご心配なく……」


「あれ以来調査はしていないんですか?」

「簡単な調査なら、二度ほど行いました。しかし、報告書を書き替えるような事実は何も見つかっていません」


追加の情報はないが、取り下げる気もないという事らしい。


「もう少し奥まで入ってみようと準備してたところで、あなたが来ると連絡があって……」

「なるほど」


つまり、メルワーレも森の奥に同行することになるだろう。

できるだけ動きやすい格好で来たつもりではあったが……


「あなたは、異変を何だと思っているのですか?」

「そうですね……帝国の関係ではないかと」


メルワーレを送り込んで調べるという事は、そういう事だろう。

少なくともモロトロスはそう考えているに違いない。


もう一つ、可能性があったが、それは口にしなかった。

モロトロスが村の人間に不信を抱いているとしたら?

それの調査こそ、メルワーレにはうってつけの仕事だ。


それとなく村人を観察しておこうとメルワーレは心に決める。

もちろん、一番の監視対象は、報告書を書いた目の前の老人だ。


「調査隊は、明日出発する事になっている。構わんかな?」

「ええ」

「とりあえず、今日はよく休んでおいてください。村の端にある小屋が開いていますので……」

「わかりました」


メルワーレはワトスの家から出て行こうとして、その途中で思い出して聞く。


「そう言えば、魔術師が来ていると聞きましたけど……」

「ええ。もちろん明日の調査にも参加します。今も村のどこかにいるでしょう」

「今日のうちに会っておきますね」


聞いた話が本当なら、一か月以上、この村に滞在しているはずだ。

もちろん、その間に何の成果もあげることなく……。


まあ、成果が上がらないのはその魔術師のせいではないのだけれど。



息抜き回(嘘)

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