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包囲殲滅陣


「キャンピングが始まったわね」


エトルアはうんざりしたように言う。

ここはデストローパー駅、駅長室。

内装はカステラ駅とあまり変わらない感じだ。


「キャンピングって何の事だ」


アロッホが聞くと、エトルアはうんざりしたように答える。


「見ての通り、アレのことよ」


映し出されているのは、荒涼としたバリアス平原。

そして木の柵だ。


頑丈そうな木の柵が、ダンジョンの入口を取り囲むように、延々と続いている。

柵は、半径100メートルほどの円形になっているようだ。


柵を建てているのは帝国の兵士、もしかすると雇われた民間人。

どちらにしても、人間であるのは確かだ。


「まさか、ダンジョンの正面に基地を建設し始めるなんて」


カルナは呆れたように言う。


だが、悪い手とも言えない。

ダンジョンは簡単に落とせるような物ではない。

本格的に攻撃をするとなれば、長期戦を見据えて、陣地を構築するのは当然と言える。


「でも、あれは……陣地構築というより、俺たちが外に出てこれないようにしようとしてないか?」

「それは違うと思う」


ウィノーラが口を挟む。


「こっちから攻められると思っていたら、ノンキに柵なんか作らないんじゃない?」

「まったく舐められたものよ……ゾンビでもけしかけてやろうかしら」


エトルアはそう言うが、実行しようとはしない。

今、戦力を無駄に消耗するのは得策ではない。


「じゃあ、あいつら、何を始めるつもりなんだ?」

「解らない……何か普通じゃない事を始めようとしている気がする」


と、大型の馬車が到着したのが見えた。

荷台に何か生き物が詰め込まれている。


柵にある扉の部分が開いて、そこに馬車の後部を人力で押し込む。

馬車の後部が開いた。

棒をもって、緑色の何かを追いやっている。


アロッホたちはしばらく、その光景を眺めていた。

だが、ようやくそれの正体を理解し、戦慄した。


「あれは、ドブリンに見えるわよ? なんで? なんで人間がドブリンを連れてくるの?」



ゲルヒニスがバリアス平原に戻った時には、例の不審な物体を囲むように柵ができていた。

ただの柵ではない。

不審な物体を百メートル程の距離で取り囲む、厳重な柵だ。


この柵の目的は、不審な物体から出てくるかもしれない何かを阻むための物ではなく、この地に連れて来たドブリンを逃がさないための物だ。


「いいのか、こんな堂々と姿をさらしたりして……」

「何もしてこないですからね。休憩する時はできるだけ距離を取るようにしていますが……」


アイストは暢気な物だ。

口笛を吹きながら現場の作業を監督している。


馬車が到着し、ドブリンの群れが柵の中に押し込まれていく。


十台の馬車が一日二往復。

一日で合計二千匹のドブリンがやって来る。

資材搬入がもうすぐ終わるので、明日から馬車の数は三倍に増える。


ゲルヒニスは頭に手を当ててため息をつく。


「……正気とは思えん」

「戦争なんて正気じゃできませんよ」

「そういう意味じゃない」


楽をするために策をめぐらした結果、とてつもなく無駄な苦労をさせられているような気がする。


そもそも、ドブリンを戦争に使う事は、輸送規模を減らす事によって軍隊の移動を敵に見つかりにくくする、というメリットがあったはずだ。

そうでもなければ、一からドブリンを生み出して、面倒な事はしない。


ここまで輸送が大規模になるなら、普通に人間の兵士を使った方がいいのではないか。


「このままだと、ドブリンの計画そのものが潰れる事になるかもしれない」


ゲルヒニスは苦々しい思いで呟く。

今年生み出されたドブリンのほぼ全てをこの地に投入する。

それはつまり、ラストチャンスという事だろう。

なんとしても、これまでドブリン牧場が積み重ねた失点を回復するだけの成果を上げなければならないのだ。


「それはそうと、アレをドブリンで囲んでどうしようって言うんだ?」


ゲルヒニスが聞くと、アイストは答える。


「あのですね。ここからだとわかりづらいんですけど、地下に続く階段がありまして……」

「階段?」

「俺もちょっとだけ入ってみたんですけど、思ったより広いんですよ」

「広い?」

「五万匹のドブリンが中に入れるぐらいの空間はありましたね。出て来た四人組の姿は見なかったから、もっと広いんじゃないかと思いますけど」

「そうなのか?」


どうやら、王国の連中は、この地に地下施設を作り上げたらしい。

見た事もない魔術の開発に成功したのだろうか。


その秘密を解き明かすことができれば、成果としては破格と言える。


「とりあえず、地下施設の中でドブリンを暴れさせて、その間に俺たちが調査すると、そういう段取りみたいですね」

「誰だ、そんないい加減な計画を立てたのは……」

「あれ? 隊長は命令書を受け取っていないんですか?」

「いや、まだだ。もしかすると牧場の方に届いてしまっているのかもしれない。……ちなみに、誰の名前があった?」

「ブロッケン大佐です」

「ああ、あいつか……」


ドブリン牧場を縮小しようと主張している貴族の一人だ。

まさか失敗させるために、こんな無茶な作戦を立てたのではないか……。


できれば従いたくなかった。

だが、命令書が届いてしまえば逆らえるものではないし、逃げ回れるような状況でもない。


無茶だとしても、従うしかない。


「せめて情報を共有して成功率を高めよう。アレの中に入って、他に何か見たか?」

「巨大なナメクジがいましたね。滅茶苦茶弱かったです」

「そうか……」


中で魔物を飼っているのだろうか。

帝国がドブリンを飼育するように、王国も魔物飼育に手をしたと考えれば、ありえない話ではない。


しかし、どうしてナメクジなのか。

ドブリンよりは扱いやすいのかもしれないが、弱かったら意味がない。


「まあいいか。とりあえず、準備を進めてくれ。明日には俺宛ての命令書も届くだろう」


ゲルヒニスは、そう言って、王国の物と思われる不審物体を睨む。


「王国が何を考えているかはわからん。うちの上層部も信用ならん。だが、アレさえ叩き潰してしまえば、俺達の勝ちだ」



ここまで現地調査されたうえで、ダンジョンドラゴンだと気づいてもらえない悲しみ

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