表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/76

ドブリン牧場


ゲルヒニス達はバリアス平原から撤退し、必要な報告を済ませた。


その三日後には「牧場」にいた。

牧場とは言うが、実質、バリアス平原の際ギリギリ、どうにかまだ草が生えるような土地だ。

そんな場所に作られた牧場は、もちろん普通の牧場ではない。

れっきとした軍の施設だ。


その牧場で育てられているのは牛や馬などではない。

ドブリンだ。



レンガ造りの厩舎が立ち並ぶ。


その中に、ロープで壁に固定されてずらりと並ぶのは、メスドブリンだ。

この厩舎の中だけで百、牧場全体では千二百。


メスドブリンは、顔はオスのドブリンと同じぐらいしかないのに、腹周りだけが異様に巨体だ。


メスドブリンは三か月に一度、十二匹の子ドブリンを産む。

一年で四十八匹だ。

つまり、この牧場では一年に五万匹のドブリンを生産できる。


その気になれば、際限なくいくらでも増やせるが、飼育用の餌などで費用が増大し、最近ではむしろ減らせという声すらある。


産まれてくるドブリンの九割はオス。

この軍団を操って


操ると言っても大した指示はできない。

こちらはドブリンを解き放って、「進め」と命じるだけだからだ。

王国の人間がいる所に向かって進んでくれさえすれば、どれだけ損害が出ようが構わない。

何しろドブリンなのだ。

その死を悲しむ者などいない。


ゲルヒニスは厩舎の間を抜けて、牧場中央の建物に入る。


建物二階のオフィスには、一人の女がいた。

書類で散らかった机に突っ伏して寝ている。

マリアンヌ・カーラント。

帝国軍に所属する錬金術師で、この牧場の責任者でもある。


「カーラント、どうなっている?」

「ああ、エウンテンさんですか……、何もかも順調に煮詰まってますよ……」


マリアンヌは隈の出来た顔で変な笑みを浮かべる。


「ちゃんと寝ているか?」

「寝てませんよ、起きてます……」


寝ぼけた顔で書類をかき回し、目当ての物を引っ張り出す。


「あったあった……。もう命令書は届いていますよ。ドブリン五万匹、全部出せとの事ですね」

「五万? 流石にそれは多すぎじゃないか?」


まだ敵の脅威度すら不明だ。

全軍出撃を命じるような状況ではないと思うのだが。


「でも、大臣のサインがちゃんとここに……」

「やけに早いな」

「最近そんな感じなんですよ。たぶん、この施設が表ざたになる前に、規模を縮小したいんじゃないでしょうか」

「そうか……」


去年、ドブリンの一部が暴動をおこし、脱走した。

正確な数は不明だが、数千体の群れが逃げ出したようだ。

ドブリンは、一体一体は大した強さではない。

しかし群れを成し、悪知恵をつければ、脅威となりうる。


ドブリンの何割かはコッコニオ王国の方に向かってくれたようだが……残り三割ほどが帝国内へと散った。

小規模な群れが街道や農村を襲い、少なからず人的被害が出ている。


今の所、国民には人災だとバレていないようだが、この件は貴族の間では公然の秘密と化している。

隠ぺいもいつまで続く物か。


「やっぱり、私も処分されちゃうんですかね。一応責任者だし……」


マリアンヌは気落ちしたように言う。


「今年の戦闘で戦果を出せば、上からの評価も変わるかもな」

「処刑とか投獄は嫌だけど、引退したいなぁ……せめて有給欲しい……」

「そうだな……」


だがマリアンヌは逃げようがない。

退職届を出しても受理されないだろう。

他の錬金術師も、絶対に関わろうとしない。

いわゆるアンタッチャブル案件になりつつある。


「しかし、本当に、今いるドブリンを全部出していいのか? 来年の分……いや、今年の作戦で使う分すらなくなってしまうだろう」

「ここの本来の目的はドブリンメイジですからね、あれはいらない物なんですよ」

「そうか……」


ドブリンの中には、数千匹に一匹の割合で以上個体が発生する。

それがドブリンメイジだ。


高度な魔術を使えるわけではないが、人間の魔術師を見つけ出して育成するよりもコストパフォーマンスがいい。

ドブリンの数を量産すれば、ドブリンメイジもそれなりに確保できるはず、という計画だったのだが、思うほど捗っていない。

そして生み出される数万体の通常ドブリンは、副産物とは名ばかりの厄介者だ。


飼育すれば餌代がかかり、殺すにしても数が多すぎてただ事ではない。

放置して飢え死にさせようとすればこの前の脱走騒ぎだ。


「人間の手で無理やり生み出しておきながら、いらないなんて、酷い言い草ですけどね」

「……」


生き物に対して酷い扱いをしているという自覚はある。

だが、戦争はそういう物だ。

全てが予定通りに進んだとしても、どうせ最後は敵国の人間を殺しに行くことになる。

人間を消耗品扱いせずに済んでいるなら、まだマシな方だろう。


そういう意味では通常ドブリン部隊を量産して戦争に有効活用しようと主張する貴族もいるぐらいだ。

そうすれば自国の兵士の損耗を押さえられるから、と。


そういうグダグダな事情が組み合わさって、この牧場に対する上の方針は迷走していた。

拡大するか、維持するか、縮小するか、閉鎖するか、その結論すら出ていない。


「まあいいさ、仕事を始めよう。こちらにサインを」

「はいはい……」


ゲルヒニスが出した書類を、マリアンヌはろくに確認もせず、さらさらとサインする。

あとは、ドブリンの引き渡しを受けて現地まで連れて行けばいい。


「五万匹か……」

「あの、このドブリンたち、どうやって現地まで運ぶんですか」


マリアンヌの当然の疑問に、ゲルヒニスは適当に答える。


「知らんが、馬車を使うんじゃないか?」

「馬車一台で百匹としても、五百台ぐらい要りません? 本当に大丈夫なんですか?」

「……………………ううむ」


ゲルヒニスが受け取った書類には、馬車の手配については何も書かれていない。


こういう時こそ鉄道輸送が必要なのでは……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ