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アップキープ待ち


ここ数日、アロッホは、格納庫の隅に置いたテーブルを作業場にして、ひたすら錬金術を繰り返していた。


今やっているのは、鉱石からの金属の抽出だ。

金属を扱う場合、一般的には、鉱石を赤熱するまで加熱してからハンマーで叩く手法が使われるが、薬品をうまく使えば低温でもできる。


まず砕いた鉱石に水銀をかける。

すると水銀が金属を融かす。

その後、濾過してから、加熱して水銀だけを蒸発させると、鉱石の中の金属だけが手元に残る。

蒸発させた水銀は冷やして液体に戻して再利用する。


水銀は有毒なので扱いに注意する必要がある。

気化した水銀が機材の外に漏れないように細心の注意は払っているけれど、絶対はない。

というか、液体の状態でも、普段から少しずつ気化している。

エトルアたちにはここに近づかないように言ってあった。


多少は危険でも、作業はしなければならない。


壊れたメカアームを早めに直さなければいけないし、弾丸も補充しなければいけない。

それが終わったら、ようやく錬金爆弾の製造を開始できる。

今までは、王都を脱出した時の持ち出し分でやりくりしていたが、これからは、本格的な戦闘に向けて備えていく必要がある。


とりあえず、ヴォルトクラッカーあたりから作っていくつもりだった。

バサルトスライムのおかげで、材料だけは大量にある。


作業がひと段落したので、アロッホは今日の分は終わりにすることにした。

回収した水銀を密封容器に戻して、集まった金属の欠片を別の容器に保存してから、作業場を離れる。



格納庫の反対側には大量の石が詰みあがっていた。

ドブリンゾンビたちが、手押し車で石を運んでくる。

空になった手押し車を押して出て行くドブリンゾンビの流れに交じって、廊下を歩く。


たどりついたのは間欠泉の部屋だ。


部屋の中央には巨大な岩がある。

これはバサルトスライムの成れの果てだった。

既に解体は9割以上終わっている。

ドブリンゾンビたちがツルハシを振るって、岩を砕いて、その破片を別のドブリンゾンビが部屋の端まで持っていき、手押し車のドブリンゾンビが後を引き継ぐ。


作業の指揮をしているのはエトルアだ。アロッホの姿に気づくと手を振る。


「そっちの作業はもういいの?」

「今日の分は一通り、って感じだな。こっちはもう終わりそうか?」

「そうね。明日あの辺りを削って、あとは運び出すだけにしようと思っているわ。もともと、どこまでがダンジョンの岩なのかも、よくわからないから……」

「確かにな……」


バサルトスライムの襲来から一か月近くが経っている。

アップキープが来てもいい頃だった。


「ここさえ終われば、アップキープできるのか?」

「ええ。今朝の時点で、魔力充填率は既に580%を超えてるわ……いつでもいいわよ」

「580?」

「100%あればアップキープできるけど、ダンジョン拡張するなら、300%は欲しい所ね」

「という事は、二回分か……」


さすがに同時に二つの駅ができたりはしないと思うが……。


「三日も待てば次のアップキープが来ると思うから、大丈夫よ」

「その間に敵が攻めてこなければ、だろ?」

「……まあ、そこは場合によるとしか言えないわね」


エトルアは肩をすくめて見せる。


「やっぱり、火山は立地が悪かったかな?」

「そんな事はないわ。確かにバサルトスライムは厄介な相手だったけど……、この辺りは、地上に大量の魔力があるし、火口から定期的に補充されてるみたいだから、寝てるだけでも魔力が溜まっていくわよ」

「ダンジョンは安泰って訳か……」

「でも、またバサルトスライムが攻めて来たらと思うとうんざりするわね。スプリンクラーがあれば撃退はできるけど、跡片付けが面倒くさすぎるわ」

「何があれば楽になるんだ?」

「そうね。岩を砕くのを一日で終わらせる事が出来たら、あとは運び出すだけで済むわ。今よりずっと楽になるんじゃないかしら」

「岩を砕く、なるほど……」


アロッホはそのうち削岩用の爆弾でも作ってみようかと考える。



数日後。

アロッホは今日も錬金術をやっていた。

今日はウィノーラが隣で見学している。


エトルアからアップキープが近いと言われていたので、いつでも中断できるよう、水銀を使う作業は控えていた。

今日は、綿花から布を錬成する作業だ。

ここ数日、チキンカリー駅の周囲を探索していたウィノーラが、自生している綿花を見つけてくれた。

それを少しだけ採取して、錬金釜に放り込み、様々な薬品を入れてひたすらかき混ぜる。


「よし、できたぞ」


アロッホは鍋から布を取り出す。

厚みは均等で穴もない、手触りは良好、完璧だ。


しかし横で見ていたウィノーラは、目の前で起こったことが理解できなかったのか、首をかしげている。


「なんで、ドロドロした鍋をかき混ぜていたのに、平らな布ができてるの? ずっと見てたのに変わる瞬間を見逃した」

「……これはそういう物なんだ」


アロッホもあんまり深く考えたことはなかった。

世の中には、追及してはいけない物があるのだ。


と、床がカタカタと小刻みに揺れた。

ウィノーラが不安そうにあたりを見回す。


「何? 敵?」

「いや、これはアップキープが来たんじゃないか?」


今日は、ドブリンゾンビが格納庫に岩を運んでくる様子はなかった。

間欠泉周りの片付けは昨日までに終わっていたのだろう。


実際、その通りだったようで、天井からエトルアの声が響く。


『アロッホ、新しい駅ができたみたいよ。今から見に行くつもりだけど、それ、手を離せる?』

「今から片付ける、10分ぐらい待ってくれるなら、行けるぞ」

『わかったわ。でもできるだけ急いでね』


機材を手早く片付けて、から駅長室に向かう。

エトルアはダンジョン端末を操作して、待っていた。


「遅いじゃないの」

「悪かったよ」


カルナは藤籠を用意していた。


「それは?」

「ここからだと、往復するだけでかなり時間がかかると思ったので、お弁当を用意しておいたんです」

「もう。ピクニックじゃないって言ったのに」


エトルアは口ぶりではそう言うが、ちょっと楽しそうだった。

一方、ウィノーラはまだよくわかっていないようだ。


「ダンジョンって増える物なの?」

「増えるのよ。ここのは……」


エトルアは口先ではそう答えるが、自信がないのか目が泳いでいた。



増えないと地下鉄っぽくならないからね

仕方ないね

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