ドラゴンとの遭遇:後
二人はとりあえず倒木の上から降りた。
「まだ名乗ってなかったわね、私はエトルア・ミレニアム。ダンジョンドラゴン随一のミレニアム族、その族長の義理の娘よ」
ドラゴン族の少女は優雅なしぐさで名乗る。
「えっと、族長の……義理の娘? それって、どれぐらい偉いんだ?」
「……もし族長が死んでたら、私が次の族長になるわ」
「あ、はい……」
本当に族長が死んでいた場合、高確率で人間のせいだ。アロッホは、あまりその辺は掘り下げない事にした。
アロッホは、荷物から上着を引っ張り出して、エトルアに渡した。
エトルアは体をもぞもぞさせながら上着を着る。
「むぅ、温かいわね。ドラゴンに戻った時もこういうの着てれば寒さにも強くなるのかしら」
「どうだろう……」
変温動物が防寒着を着ても意味がないのでは。
「まあいいわ。そろそろ本題に移るとしましょう」
「本題とかあったっけ?」
なんか勝手に出てきて騒いだだけのような気がするが。
「私は用もなく人前に姿を見せたりしないわ。……あなた、何か変な物を持ってない?」
「変な物?」
爆弾のような物なら大量に持っているが、それの事だろうか?
「私はダンジョンを作るために、この辺りを調べていたの。そしたら、スターディアボロスの気配を感じたのよ。だから様子を見に来た、そしたらあなたを見つけたの」
「何の話だ?」
スターディアボロス。
聞いたことのない名前だった。
単語だけで推測するなら、星の世界から来た悪魔、と言った所か。
「気配の源はあなたと一緒に移動している。荷物の中になんかあるんだと思うけど?」
「何かって言われても……」
「まさかだけど、あなたが人間に化けたスターディアボロスだなんて言わないわよね?」
「いや、俺は人間だけど……」
エトルアはアロッホの体にすり寄って、あちこちの匂いを嗅ぐ。
押し付けられる胸が妙に柔らかく、アロッホは迂闊に抵抗できない。
「ここ! この中よ。この中が怪しいわ」
エトルアはアロッホのカバンを開けようと、あちこちいじり始める。
「ちょ、ちょっと待って! わかったよ! 中を見せるから。でも爆発物がかなり入っているから、勝手に触らないで」
「そうするわ」
「でも、爆弾以外で? 俺が持ってる物なんて……数日分の食料と小銭と……あ、もしかしてコレか?」
アロッホは魔神のコアを取り出し、エトルアに見せる。
途端、エトルアは目を輝かせて飛びついてくる。
「これは? うわぁ、これよ!」
「うわ、やめろ……」
アロッホはコアを高く掲げながらエトルアを引きはがす。
この魔神のコアは宝物だ。例え相手がドラゴンだろうが奪われるわけにはいかない。
エトルアも奪う気まではなかったのか、しつこく襲ってはこなかったが、それでも目を輝かせてコアを見上げている。
「あなた、これをどこで手に入れたの?」
「昔、墜落した魔神を見つけたんだ。そこから引きはがしてきた」
「あなた、すごいわね。しかもこれ、まだ生きてるじゃない」
「生きてる?」
「あいつらって、死ぬと自壊するのよ。本体から切り離されて原形を留めてるパーツを見たのは、私も初めてだわ」
「魔神について詳しいのか?」
アロッホが王都の学院図書館で調べても何もわからなかった物だ。
何人か錬金術師や魔術師にも見せたが、ガラクタ扱いされるだけだった。
このコアを見て、こんなに反応してくれる人がいるのは初めてだ。
まあ、人というかドラゴンなのだが。
そうと知っていれば、最初から錬金術師なんか目指さずドラゴンを探したのだが。
「詳しいというか、スターディアボロスは私らの天敵なの。ダンジョンドラゴンが地下にダンジョンを作るのは、空から来るあいつらから隠れるためじゃないかって言う意見もあったぐらいで……」
「げ……そうなのか」
巨大な魔神が空を飛んでいるのを見た時は、絶対ドラゴンより強いだろうと思っていたが……そこまでとは。
「それで? あなた、これをどうする気なの?」
「研究したかった」
「研究? スターディアボロスを?」
「おかしいかな?」
「いえ、気持ちはわかるわ。ドラゴンの中にも、あれと同じ力を手に入れられるなら悪魔にだって魂を売ると本気で言っていた仲間がいるぐらいだし……」
エトルアはここにはいない誰かを思い出すような顔になった後、魔神のコアに手を伸ばす。
アロッホは取られないようにコアを高く掲げる。
「あげないぞ?」
「……どうしてもダメ?」
「俺が自分で調べるって決めたんだ」
「でも、あなた、まだ何も調べてないんでしょ?」
「それは……単に手段がないからだ。中を調べる方法さえ知っていれば、俺はおまえよりも上手くやれる。絶対だ」
「ふーん? そう? そうかもしれないわね」
エトルアは少し考えるようなそぶりを見せた後、もったいぶるように言う。
「あなた、スターディアボロスがどれだけ魔力を使っているか知ってるかしら?」
「え?」
「私も正確な数字を出せるわけじゃないけど……かなりの魔力が必要になるのは、わかるわよね? 人間には手に負えないぐらいの」
「そうだな」
アロッホの記憶の中では、魔神は何十トンもありそうな金属の巨体でありながら、軽々と空を飛んでいた。
必要な魔力は、錬金術の百万倍とか言われても仕方がないレベルだ。
コアの研究にそこまで必要とは思わないが、アロッホの最終目的、魔神の複製にまで至るなら、いつか直面する問題だった。
エトルアは蠱惑的な笑みを浮かべる。
「どうしてダンジョンドラゴンがダンジョンを作るか知っている?」
「魔神から身を守るため、じゃないのか?」
「そういう説もあるけれど、本来の目的は強い子孫を残すためよ」
「子孫?」
まあ、子育てするなら、どこかに身を落ち着ける必要があるというのはわかる。
「何もない所で卵を産んでも、所詮はオオトカゲにしかなれないわ。いい孵化場を作るためには、魔力の高まりが必要なの」
「魔力の高まり?」
「だから、ダンジョンには周囲の魔力を集める機能があるわ。それはもちろん孵化場のためなんだけれど……」
エトルアは少し背をかがめて、アロッホの顔を横から見上げる。
「私には相手がいないし、いるとしてもまだ先の事だと思うし……今からダンジョンを作っても魔力の使い道がないのよ」
「つまり、俺に協力してくれると?」
「スターディアボロスはドラゴンにとっても天敵だもの。あなたの研究、手伝ってもいいわよ」
ドラゴンが味方になってくれるとは、心強い。
「ありがとう、研究でわかったことは真っ先に教えるよ」
「もちろんよ。一緒に頑張って、スターディアボロスに一泡吹かせてやりましょう」
アロッホとエトルアは握手する。
ここに人間とドラゴンの契約が結ばれた。
「じゃあさっそく、ダンジョン予定地に行きましょう」
「あれ? まだダンジョンは作っていないのか?」
「最後の確認のために周囲を飛んでる時に、あなたを見つけたのよ……」
エトルアは上着を脱ぎ、アロッホに渡す。
「ここから歩いてたら日が暮れるから飛んでいくわ。特別に、私に乗せてあげる」
光の渦が瞬いて、エトルアはドラゴンの姿に戻った。
アロッホは急いで荷物をまとめるとエトルアの背中にまたがった。
ドラゴンに乗るのだけはやめておけ
それは人類に適した乗り物ではない




