バサルトスライムの質量戦術1
溶岩部屋から少し離れた部屋に、テーブルが用意してあった。
耐熱袋から取り出したスイカを割ってみる。
「何ともないみたいですね」
カルナは包丁でザクザクとスイカを切り分けていく。
アロッホとエトルアも食べてみるが、なんともない。
一応、実験前に冷やしておいたのだけれど、まだ冷えている。
「ちゃんと冷えてるな」
「溶岩部屋を通って来たとは思えないわね……実験は成功って事でいいのかしら?」
「そうだな」
カルナがスイカを食べながら言う。
「あの、今更こんなことを聞くのもなんですけど、耐火服って本当に必要だったんですか?」
「え? いるでしょう? 私はともかく、あなた達は生身で溶岩部屋に入ったら死んじゃうじゃない」
「そうだけど、そもそも溶岩部屋に入る必要がないのでは……」
「……言われてみればそれもそうね」
エトルアはアロッホの方を見る。
アロッホは答える。
「それは何とも言えないかな。……ただ、今、ドブリンに入口を掘らせているけど、あれが開通したら、外に出る事があるかもしれない。その時に必要になる、と思う」
「そ、外に出るんですか?」
カルナはなぜか怯えたようにアロッホを見る。
「まだ先の話だけど、人がいないようなら採取活動もしてみたいし……」
たぶん、人はいないだろう。
よほどの物好きか、よほど根性ある錬金術師なら話は別だが。
「いえ、そういう事ではなく、すごく危険なのでは? だってあの岩、溶岩と同じものなんですよね」
入り口を塞いでいる岩は、溶岩が流れ込んで冷え固まった物だ。
ダンジョンが完成すると同時に溶岩が流れ込んでくるようでは、外がかなりの危険地帯なのは間違いない。
火山が危険なのは、溶岩だけではない。
「耐火服だけじゃなくて、有毒ガスとかの対策も必要になるかもね」
「そんなのもあるんですか?」
カルナは、怯えたように体を小さくする。絶対外に出たくないと思っているようだ。
「そんなことより、なんか体がベタベタんするんだけど……」
エトルアは自分の左腕を嫌そうな目で見る。
破裂したスイカの破片をもろに浴びたのだから、それはベタベタするだろう。
「これを食べ終わったら、温泉に入ってきたらどうですか?」
「それがよさそうね」
「え? 温泉?」
これはアロッホが知らない話だった。
アロッホがベルナス市に行っている間に、何か新しい物ができていたらしい。
「そういえば、教えてなかったわね。あなたも使っていいわよ。気持ちいいから」
スイカを食べ終わった後に、三人で移動する。
そこは、間欠泉の部屋の三つほど隣の部屋。
岩場を再現したような場所で、高台の上に、石と粘土を組み合わせたような囲いがあった。
間欠泉の部屋から、ドブリンゾンビが二匹がかりで木桶を使って熱湯を運んできている。
溜まったお湯は、少しずつ漏れていて、流れ落ちた先にも、ここと同じような囲いがある。
「最初は上の方がいいと思ったんだけど、水漏れしちゃったのよ。流れたお湯が下の方に溜まり始めたし、人間向きの温度に下がることもわかったから、あっちをお風呂に使う事にしたの」
「なるほど……」
事前に相談してくれれば、錬金粘土か何かで、湯船を作れたのだが。
ただそれだと、湯を適温に冷やす手段に消耗品を提案してしまっていただろう。
これはこれでいいのかもしれない。
「服を脱ぐところはそっちよ。じゃあ、私たちはこっちだから」
エトルアとカルナは別の岩場の向こうへと歩いて行った。
アロッホが指示された岩場に行くと、簡易な木の棚が置いてあった。
アロッホは疑問を感じず、服を脱ぎ、湯船に入る。
途端、エトルアに怒られた。
「ちょっと、湯船に入る前に掛け湯をするのよ!」
「あっ、悪い……今上がるから、って、えっ?」
普通に返事をしてから、どうしてここにエトルアがいるのかと気づく。
エトルアは、そのことには何の疑問も感じていないのか、腰に手を当てて仁王立ちしている。
エトルアの後ろからカルナが出てくる。もちろん裸だ。一応、タオルを体に巻き付けてはいるが。
「そこにある手桶を使ってください」
「い、いや、ちょっと待って? ……男女に別れて、ないのか?」
男女に別れているのは脱衣所だけか。
よく考えれば、湯船の二つ目を用意したという話はなかった。
アロッホは慌てて股間を隠す。
エトルアは見せつけるように胸を張る。
「何を慌てているのかしら?」
「いや、その……」
エトルアが裸でも、特にどうとは思わない。
初対面の時点でそうだったし、カルナが服を作るまではアロッホの上着を羽織っているだけだった。
最近でも時々裸でうろついている。
それでも、胸や腰の辺りは鱗で覆われているから、常に水着を着ているような物だ。
だが、アロッホの側が裸でエトルアの前に出たのは、たぶん今回が初めてだ。
ダンジョンドラゴンに人間の常識が通用しないとしても、カルナは何で平然と裸で出てくるのか。
「い、一応聞くけどさ、おまえら、男湯とか女湯とか、そういう概念はないの?」
「何それ?」
エトルアはもちろん知らなかった。
「王都の公衆浴場は、そういう感じで別れてるんだけど……」
「……そうなの?」
「私の村には、そういうのはありませんでしたね。まあ、覗かないのがマナーとされてはいましたけど」
カルナはあっけらかんとした様子で答える。
エトルアは無邪気に言う。
「これの何がいけないのかよくわからないわ。……とにかく、掛け湯をしなさい」
「は、はい」
アロッホは、既にのぼせ掛けながらも、湯船から上がり、手桶で体にお湯をかけて汚れを落とす。
「私が洗ってあげようかしら?」
「いや、自分で洗うよ」
「何よ、遠慮しなくていいのよに?」
エトルアに腕をつかまれた。逃げようと身をよじった結果、胸を触ってしまう。
「ひあっ……」
小さな悲鳴を上げてエトルアは両腕で自分の胸を隠す。
鱗越しだが、見た目より膨らんでいて柔らかかった。
エトルアは、怒っているのか笑っているのかよくわからない表情でアロッホを睨みつける。
「あ、アロッホ……、私の言う事が聞けないのかしら? これはお仕置きが必要ね」
「あうううう」
捕まって、体中をこすられて垢を落とされた。かなり痛かった。
アロッホは、ほうほうの体で湯船に戻った。
色々思う事がないわけではないが、岩に背を預けて座り、目を閉じて手足を伸ばせば、確かに気持ちいい。
と、誰かが隣に座った。
カルナだった。
もう体にタオルを巻いていない。
「ちょっ……」
「湯船にタオルをつけるのは、よくないとか……」
「そ、そうだね……」
アロッホは動揺しつつ、目を逸らした。
エトルアは湯船の横の岩場に横になり、ごろごろと転がっていた。
「カルナ……アロッホでもいいけど。お湯掛けて……」
「お、俺がやるよ」
アロッホはそっちに行くと、手桶でお湯をすくって、エトルアの背中にかける。
エトルアは眠たそうな目でアロッホを見上げる。
「はあ……、毎日こんな風ならいいのにね……」
「そうだな……」
タイトル詐欺で出番がなかったスライムさん、激おこ




