山賊たちの略奪戦術2
金貨百枚と捕らえたメイドを引き連れて、意気揚々とアジトに戻った山賊たち。
彼らが見たのは大量のゾンビの群れに踏みつぶされた、自分たちのテントだった。
『あうー』『がー』『うぎー』
変な声を上げながら、うろうろ歩き回るゾンビの大軍。
「えっ、あの、これは……」
「くそっ、ここはもうダメだ」
エドイックは苛立ちで木を殴りつけた。
一体や二体なら、バリスタで撃ち殺せる。
だが、百体ぐらいにうろつかれたら、矢を装填している間に攻撃を受けるし、そもそも矢が足りない。
このゾンビはどこかから引き寄せられたものだろう。
しばらくしたらいなくなるかもしれない。
だが、それを待つのは無理だ。
水や食料がないし、捕虜までいる。
アジトがない状態で捕虜を捕まえておくのは難しい。
手下たちも疲労が溜まれば、性欲を発散させたいと考えるようになるだろう。
いや、こいつ一人を生贄にする程度で、山賊団が維持できるなら安いか? とエドイックは考える。
別にこのメイドが処女を散らせようが、廃人になろうが……それは奴隷商人から受け取れる金額の問題でしかない。
とりあえず、今夜安心して眠れる場所が必要だ。
「アレは無理だ。移動する……」
「せめて水と食料を……」
手下の一人が、身をかがめて小走りで、端の方のテントに近づいていく。
「バカ! やめろ!」
エドイックが止めたが遅かった。
ゾンビは匂いと振動で獲物を察知する。隠れるのは不可能だ。
「あっ、しまった、あっ、ぎゃあっ!」
ゾンビは、一体一体の動きは遅い。だが、輪の中に自ら入ってしまった者にとっては、それは逃れられない包囲網となる。
手下は、追い詰められ、群がるように襲ってくる
「親分、あれは、どうすれば? 助けないと!」
「無理だ。見捨てろ!」
手下の何人かが助けようと前に出るが、ゾンビの数体と刀で戦うのがやっとだ。
囲まれている手下に近づく事さえできない。
「お頭、これはまずいのでは?」
マルコットが辺りを見回しながら言う。
ゾンビはアジト跡地から離れた所にも、散らばっている。
それらが全て、エドイックたちの方に向いて動き出していた。
ここはもうゾンビの包囲網の中なのだ。
「おまえら、勝手に戦うな! 今すぐこっちに戻って来い! 全滅したいのか!」
エドイックが叫ぶと、手下たちは悔しそうに戻ってくる。
「とにかくここを離れるぞ……」
山賊にとって敗走は恥ではない。だが無駄死には恥だ。
山賊には守るべき物などない。存在しない物を守るために死ぬなど、愚かの極みだ。
逃げ続ける山賊たち。
ゾンビは動きこそ遅いが、確実に追ってくる。
「あの……どこに向かっているんですか?」
メイドが不安そうに聞く。
首に縄をつけられて、あてどもない逃避行に付き合わされる方は、たまった物ではないだろう。
「あのゾンビをどこかに擦り付けられればいいんだがな……」
いっそ、バルトリー村かベルナス市までトレインしてしまおうかとすら思う。
そんな事を考えながら、ゾンビの姿が見えない方に歩いていたら、森の中で現在位置がわからなくなっていた。
さらに、東西南北どちらを見ても、ゾンビの姿がある。
どちらに逃げても戦うことになるし、倒しきる前に他の方向からのゾンビが追いついてきてしまう。
そして囲まれて死ぬことになるだろう。
万事休すか。
「親分、あれ、なんだと思います?」
マルコットが何かを見つけた。
森の向こうに妙な物がある。
それは白い素材で作られた小さな建物だった。
地下に向かって続く階段だ。
「なんだこの階段は……くそ、怪しすぎるが、ここを降りるしかない」
ここ以外にゾンビから逃れる道はない。
この時のエドイックはそう判断した。
山賊たちは、怯えながらも長い階段を降りる。
階段を降りた先は、長い通路だ。
その通路を塞ぐように、巨大なナメクジが一匹、這いつくばっていた。
いや、ナメクジは死んでいる。
「なんだこれは……」
「魔物だと思いますぜ……」
「それは見ればわかる。誰かが戦って倒したんだろう。だが、誰が?」
戦った相手の死体がここにない。まだ生きているのだろう。
そして外にいるならゾンビに襲われているはず。
つまり、まだこの地下施設のどこかにいるのだ。
その正体は、人間であると思いたい。
だが味方とは限らない。
こちらが山賊だと知って、好意的に接してくれる相手はあまりいない。
ましてや、ここから一番近い人間の居住地は軍事施設だ。
軍人である可能性は高い。
「気を付けて進むぞ。人間に出会っても油断するな」
得体の知れない魔物より人間の方が危険かもしれない。
通路を進むと大部屋にたどり着いた。
階段を下りた先には百体のゾンビがうろついていた。
しかも、ゾンビ同士がお互いを襲い合っている。
「な、なんだここは……ゾンビの地獄か?」
「どうするんですか?」
「どうもこうもねぇ。こっちに気づかれる前に、向こうの階段まで行くぞ……」
地上に戻るという選択肢はないのだ。
進むしかない。
山賊たちは、ゾンビをよけながら、進んでいく。
だが、部屋中に散らばったゾンビを避けきれる物ではない。
山賊たちの火力なら、ゾンビなどほとんど一撃だが、それでも二体三体が同時に襲ってくれば、勝ち目はない。
「あっ、あっ、うわぁぁっ!」「離せ、こら、離せぇ!」
一人、また一人とゾンビに襲われ押し倒されていく。
もはやここまでかと思われた。
「うおらぁぁぁっ!」
マルコットが棍棒を振り回して強引にゾンビを追い払い、道を切り開く。
エドイックはその後をついていく。
部屋を突破して階段を上り切った時に残っていたのは、六人しかいなかった。
戦闘に一切役に立たないメイドを入れて六人だ。
絶望しかない。
「なあ、部屋を突っ切ったのは失敗だったんじゃないか……」
「これ、絶対外に戻れないぞ」
手下の二人が、ひそひそと話し合っている。
普段なら、反乱の兆候だと思う所だが、今は無視することにする。
この状況で粛清などしても、逆効果だ。
マルコットとガシアスも少し不安そうな顔だった。
エドイックは士気を上げるため、なんとか言葉をでっちあげる。
「あの部屋にも、先に来た侵入者の死体はなかったじゃないか。進んで、そいつに会うしかない」
「味方かも解らないって言わなかったか?」
「言ったさ。けどな、もう、そういう状況じゃないんだよ」
「どこにいたってゾンビに襲われるんだ。そいつが軍人だったとしても、俺は尻尾を振って従うぜ。少なくともここを出るまではな」
それ以外に生き残る方法なんてないのだ。
エドイックは手下たちを置いて、次の通路へと進む。
だが、通路の先は行き止まりだった。
銀色の金属でできた壁が道を塞いでいたのだ。
あの大部屋に、別の道があったのかもしれない。
だが、それを探しに戻るのは不可能だ。
「くそっ……」
エドイックは苛立ち紛れにシャッターを叩いた。
ゴォンと妙な音が響く。
「ん? 何だ今の音は? まるで……」
「うわぁっ!」
後ろから手下たちの悲鳴が聞こえた。
大部屋のゾンビたちが、階段を上ってこちらに近づいてきているのだ。
今はマルコットが一匹ずつ叩き落しているようだが、限界を迎えるのは時間の問題だった。
「ガシアス、今すぐこっちに来い!」
エドイックは手下の一人を呼ぶ。
「な、なんですか!」
「この壁を叩いてみろ!」
ガシアスは半信半疑で壁を叩き、驚く。
「う、薄い? ……どこかに隠し扉があるんですかね?」
「たぶん、そうだ。早く見つけてくれ」
ガシアスは周囲を調べ、下の方に取っ手があるのを見つけた。
上に持ち上げるように引っ張ると、シャッターが開いた。
「なんだこれ? 壁ごと動く扉なんて初めて見ましたよ……」
「なんでもいい、今すぐこっちに行くんだ」
全員がシャッターの向こう側に逃げて、シャッターを下ろして……どうにかゾンビを締め出すことに成功した。
大丈夫?
こいつら、もしかして主人公より頭よくない?




