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新たな駅、新たなダンジョン


二人はホームの階段を上がる。

上がった先は、カステラ駅と変わりない、タイル張りの通路だった。


通路、部屋、通路……ごちゃごちゃした作りは大差ないように見えるが、隣の部屋に行くために階段を上がって、すぐに降りるなど、より意地の悪い構造になっているようにも思えた。


ダンジョン内を、歩いているとやはりナメクジが多いが……それ以外の魔物にも遭遇する。

目立つのは人型のゾンビだった。

特に大部屋、ぞろぞろと大量のゾンビが蠢く姿は世紀末感があった。


「これは、なんなんだ?」

「地上に出てみないとわからないわね。上に本物の墓地があるのかもしれないわ」


歩いているうちに、行き止まりについた。

正確には行き止まりではなく、上に向かって長い階段が続いている。


「この階段、たぶん出入り口よね」

「先に外を確認しておいた方がいいな……」


長い階段を登りながら、エトルアは呟く。


「この階段、どのあたりに出るのかしら」

「大まかな見当がついたりしないのか?」

「わからないわ。地下鉄に乗っている間に、どれぐらいの距離を移動したのかわからないし……。そもそも、どっちの方に進んだのかしら?」

「たぶん、南東の方だな……」


アロッホは断言する。

これは方向感覚の問題ではなく、駅長室に表示される立体像を調べておいたからだ。


直線距離で言うと、王都に少し近づいたかもしれない。

アロッホにとってはあまり考えたくない状況だった。

外に出る時は気を付けなければならない。人がいたら、顔を見られる前に帰らなければ。


ようやく階段を上り切った。

外に広がるのは森林。

まばらに立ち並ぶ大木、生え繁る下草。

どこかから聞こえる鳥の声。

そんな中を朽ち果てた鎧を着たゾンビが何体も、ノソノソ歩いている、穏やかな昼下がりの森だった。


「どこかの森だと思うけど、見覚えある?」

「いや、木を見ただけで地名がわかるわけないだろ……それより、ダンジョンの外にゾンビが漏れ出してるけど、いいのか?」


こんなんじゃ、ダンジョンがすぐに見つかってしまうのでは、とアロッホは思ったが、エトルアは首を振る。


「ありえないわ。私が命令しない限り、ダンジョンから魔物が外に出ることはないはずよ。そもそも、入り口付近にはほんとんど魔物はいなかったじゃない」

「じゃあ、あれは?」

「元々この辺りに生息している天然のゾンビじゃないかしら?」

「なんだよ、天然のゾンビって……」


エトルアの滅茶苦茶な物言いにアロッホは呆れかけ……それからまずい事に気づいた。


「まさか、ここはバルトリー村の周辺なのか?」

「知ってるの?」

「ああ。俺にとっては非常に良くない展開だ」


バルトリー村は、この王国と隣接する帝国、そして人類生活不能圏とされる暗黒領域。

その三つが接する点の近くに作られた村だ。


村とは言っているが、住人の半分は王国騎士団の関係者で、諜報部隊の拠点になっている。

民間人の行くような場所ではない。


アロッホは、王都を脱出する時、この近くのベルナス市まで、乗合馬車に乗って逃げた。

そこからバルトリー村の方に歩いて、国境越えをしたように見せかけてから、クワワント山の方へと逃げたのだ。


それがバルトリー村付近に戻ってしまうとは、大誤算だ。


「人間は、なんでゾンビが出るようなところに村を作っているのかしら?」

「国境線に近い土地だから、毎年のように戦闘が起こるんだ」


争いを無視すれば、それは土地を奪われる結果につながる。


「戦いが起これば兵士が死ぬ。そして死んで埋葬されなかった兵士がゾンビ化するんだ。それが、なぜか引き寄せられるように、この森に集まってくるんだ」

「それはたぶん魔力のせいね。この土地にも濃い魔力が漂っているから、魔物はみんな引き付けられるのよ」

「そこにダンジョンの出口が開いたのは偶然かな?」

「ある意味では必然かしら。ダンジョンも魔力を求めるから、そういう場所にできやすいの」

「そっか……」


それにしても、一時間でかなりの距離を移動してしまったようだ。

クワワント山とバルトリー村は、歩いて一日でたどり着けないぐらいの距離がある。


この様子では、ダンジョンが拡張されるたびに、新しい地下鉄駅が発生してしまうのではないか。

それも魔力が濃くて魔物が多い場所ばかりを選んで……。


アロッホは、国内の魔力濃度が高そうな地域をいくつか思い出してみようと頑張ったが、無理だった。


「地図が必要だな……」

「人間の地図が役に立つかしら?」


この時代の地図とは、ろくな測量技術も使わず、人間の感覚で適当に描かれた物が多い。

しかも、地図は基本的に軍事機密の塊だ。

町と町の位置関係はどうなっているか、谷を抜けた先がどこに繋がっているか、この川の上流はどこなのか。

そういう情報を他国に握られるのは戦争で不利になる。


「軍用の地図なら、それなりに役に立つはずだ。まあ、手に入れる宛てなんてないんだけど……」


軍用の物を手に入れようとすると、盗むしかない。

そんな危険は冒せない。


エトルアは動き回るゾンビを見ている。


「ところで、このゾンビって、私のダンジョンに悪さをしたりしないわよね?」

「それは大丈夫だろ……。ただ、ゾンビの討伐を目的に近づいてきた誰かが、ダンジョンを見つけてしまうかもな」

「困るわね……、いっそ私たちの手で倒した方がいいかしら?」

「そこまでする必要は……いや、待てよ?」


アロッホは一つ思いついた。


「逆にこのゾンビをダンジョンに誘き入れてから倒したら、魔力が稼げるのか?」

「それは面白い提案ね、今度試してみましょう」



二人は、とりあえずダンジョンの中に戻る。

まだ調べていない場所を歩いて、駅長室を見つけなければいけない。


ダンジョンの中を歩いていると、異様な部屋に出た。

かなり広くて天井も高い。

足元は土で、木がまばらに生えていて、草も生えていて……どうやら、外の森を再現しているようだ。


「この森は妙な雰囲気を感じるわね……なんだか、カエルの池を思い出すわ」

「ここにも特殊なモンスターが沸くのか?」


辺りを見回しても、草を食べているナメクジしか見えない……と思っていると、頭上でがさがさと音がした。


見上げると、そこにヘビがいた。何本もの木の枝を伝うように巻き付いている。


巨大なヘビだった。

頭の大きさはワニか何かを想像させる。


『シャー……』


アロッホたちに気づいたのか、ヘビは、先端が二股に割れた舌をちろちろと揺らした。

エトルアは飛び上がって喜ぶ。


「やった、やったわ。ヘビの魔物が生まれているじゃない。爬虫類ダンジョンに一歩近づいたわよ!」

「あのヘビも、結構強そうだしな」


ヘビは見かけよりも大きな生き物でも丸のみにしてしまうそうだ。

あれだけ巨大なヘビなら、人間どころか、ゾウでも一呑みにできるだろう


前回のドブリン戦では、カエルも思った以上に活躍していたし、このヘビの戦闘力にも期待できそうだ。


だが、アロッホは気づいた。

ヘビはアロッホたちの方を一切見ていない。

では、何を見ているのかというと、近くで草を食べているナメクジだ。


ひゅばっ、どさっ、ぱくっ……


ヘビは素早い動きでナメクジに飛び掛かり、一呑みにしてしまうと、体の真ん中あたりを大きく膨らませたまま、草の中へと消えて行った。


「「な、ナメクジぃぃっ!」」


有名な三すくみに「ヘビ → カエル → ナメクジ → ヘビ」という物がある


しかし、生物学的には、ヘビがナメクジを苦手とする根拠はないらしい


それどころか、ヘビの中にはナメクジを主食とする種類もいるとか……

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