帰る場所
あっという間に日は沈み、気温が下がり始める。雪に覆われた地面からは生命のにおいもしない。赤々とした月が妙に明るくて、その光を頼りに歩いていた。四人分の足音は、瞬く間に地面に吸い込まれてゆく。時々視界が暗くなるのは、闇を裂くように翔けているセイロウの影だ。セイロウはオリヴィア達を導くように、一行の少し先を飛び続けている。気を紛らわすように、それぞれの旅の顛末について話し合っていた。
「で、ちゃんとランタナ領の近くまでは着いてたんだけど、あの地震。魔物が出てきたこともそうだし、公路は妙に騎士団がうろついてるし、一度引き返した方がいいねって。それで僕達は戻ってきたんだよ」
アルフレッドの説明に、オリヴィアは納得していた。それで、ウェステリアよりはるかに遠いカトレアから、こんなにも早く戻ってこられたのだ。馬で向かったが、魔物による襲撃のいざこざで失ってしまったとアルフレッドは言った。
「で、他に何か無かったの?」
セオドアがレナードに問う。オリヴィア達は碌に人里に近づいていないため、情報というものから長い間切り離されていた。
「……そうだな。気になる噂が、一つ」
レナードが、少し考え込むように顎に手を当てた。
「曰く、国王が姿を消したと。出入りの業者だか、下働きか、その辺りが情報の出所らしい」
「はあ……それ、信じられるの? レナード」
「まさか、与太さ。だが、そう仮定すると説明がつくことがある」
レナードがオリヴィアを一瞥する。考えてみろ、といわんばかりの目だった。少し思考を巡らせて思い出したのは、あの出来事。ここしばらくの出来事は、一通りレナード達にも話したところだ。
「……例の騎士団長、とか?」
セオドアと別れた直後に出会ってしまった、騎士団長オーウェン。単騎であんな人里離れた場所に居たことに、些かの不自然さを覚えたのは事実である。レナードはオリヴィアの返答に満足したように頷いた。
「国王を探しているとすれば、あり得ない話ではないだろう。あの男の忠誠心は並大抵では無い。そう簡単に王都を離れるとは思えん」
レナードの推論に、オリヴィアは素直に納得した。では、もし国王が消えたのが本当だとすれば、それは何故なのだろうか。
「動くには情報が少なすぎるが言えることはある。王都は今、間違いなく揺れている。……時化が来るぞ」
ブライアンが引き起こしたであろう魔物の出現。彼が恣に操ってきた国王は姿を消したと噂され、騎士団は魔物の対応に追われる。そして民は未知の脅威に怯えている。これら全てが、大いなる嵐の前触れに過ぎないのかもしれない。
オリヴィアは、空を一羽舞うセイロウを目で追った。
「……気になっていたんだが、あの鷹はいったい何なのだ?」
レナードが、心底不思議そうな顔をする。どことなく、会えるはずの無い人と再会したような表情だった。
「青龍神に、御守に連れて行けって言われたんだ。助けてくれてる」
「いいなあ。僕も朱雀神に会えてたら、そういうのもらえたのかなあ?」
アルフレッドが、いつもの調子で適当に相づちを打った。普段であれば呆れ顔で小言でも並べそうなレナードは、ただじっとセイロウを眺めていた。
「セイロウ」
オリヴィアが短く呼べば、セイロウはオリヴィアの腕にふわりと降り立つ。そのままレナードに差し出すように腕を伸ばすと、鷹は彼の肩に収まった。
「……もう隠れ家も目と鼻の先なんだし。お前はそこで休ませてもらうと良いよ、セイロウ」
そう声を掛けると、セイロウは甲高い声で鳴いた。実際のところ、生物と呼べるかも怪しい彼が、休息というものを必要とするのかは分からないが。戸惑い気味のレナードを後目に、オリヴィアは先を見た。暗がりの中、視界の奥の奥に、不自然な明るさがある。人が居る証だった。
「ほら、あそこ」
オリヴィアが指差すと、安堵と疲れの入り混じるため息が、誰かから聞こえた。
――戻ってきたのだ。新たな、「帰る場所」に。
オリヴィアは、新たに宛がわれた寝台に腰掛けて、セイロウの羽毛を撫でていた。旅の疲れを癒やすため、就寝の準備は早めに済ませてしまった。ならば眠る気になるまで何かすれば良いのだろうが、話し相手もおらずこうしてぼんやりと過ごしている。新しいレジスタンスの拠点は、小さくて静かだ。多くの者が去った組織に、大きな入れ物は必要ない。大きく変わったことと言えばそれだけで、相も変わらず隙間風の吹き込む洞穴が住処となったが、それがとても寂しいことのように思う。いつだってオリヴィアは組織の異物でしかなく、特定の相手としか話すこともなかったが、それでも周囲の会話や環境音の無さが嫌でも感じられる。
隠れ家に戻ってきたのだから、長く会っていないクロエと会えることを期待していたが、彼女はあいにくの不在だった。レナードの身分が明かされた後も残ってくれた数少ない友人は、生まれ持った癒やしの力は全て人のために使うべきものと心得て、為すべきことをしている。「戦う」だけが「戦い方」では無いのだというのを、オリヴィアは彼女から知った。魔導士が、人間と理解し合うための第一歩。クロエの優しさは、僅かにでも確実に人の心を動かしている。オリヴィアはそんな彼女が好きだった。フランの村で会った人達は、確かにクロエを信頼して、良くしてくれている。それはきっと、クロエの能力だけで為せるものではないのだ。無理して体調を崩していないと良いが。
ふと、手元で撫で回されても文句一つ言わなかった鷹もどきが小さく身じろぎした。セイロウはその嘴で、オリヴィアの二の腕の辺りを遠慮がちにつつく。遠慮されても痛い。「何だよ」とセイロウを見ると、口元で何かが光を反射している。怪訝に思って顔を近づけると、何かが口に咥えられていた。飼い主に気付いて貰って満足したように翼を一度大きく動かすと、セイロウはオリヴィアの腿にそれを落とした。見事な翠玉の嵌まった、美しい髪飾りだ。
「きらきらしてるから、拾ってきたのか? いつの間に。烏じゃあるまいし」
そう言うと、抗議するようにセイロウが小さく声を上げた。どこか人間味を感じておかしい。また、セイロウを手慰みに撫でる。
「こんな高価そうなもの、落とし主が可哀想だ。元の場所に戻しておいで……痛っ」
また刺される。頑固な鷹もどきの説得は諦めたほうが良さそうだ。どうしたものかな、と思ったがこうなってしまっては仕方がない。とりあえず髪飾りは枕元に置いて、ついでにセイロウも腿から降ろす。燭台の方に目を向けると、蝋燭の長さからして、それなりに時間が経ってしまったことがわかる。
もう寝てしまおう、などと考えて、オリヴィアは腰掛けていた寝台から立ち上がった。イアン達の安否の分からない今、どうすべきかをレナードとセオドアが話し合っている。今後のことはわからないが、のんびりしていられるような状況ではないのは間違いない。今できることと言えば、いつでも動けるように心構えと準備を済ませておくことくらいだ。
寝る前に喉を潤したい。面倒だが、少し離れた場所にある川まで行く必要があった。外へ出ると、月の破片が夜空に浮かんでいた。じきに新月だろう。そんなことを考えながら水を汲んでいると、背後から何者かの気配がした。今オリヴィアは、身を守るものを何も持ち歩いていなかった。魔物か人か、と警戒して振り返ると、相手もオリヴィアの存在に気がついたように足を止める。
「――誰だ!」
威嚇するような男の声。オリヴィアは、その声の主を知っている。ほっと胸をなで下ろす。
「私だ、ルーク」
「お前か……」
声の主――ルークは、安心したようにずかずかとオリヴィアの元へ歩いてくる。足音が複数であることに気がついて、オリヴィアは首を傾げた。青年に遅れて姿を現したのは、黒衣に身を包んだ少女だった。エレノアである。ルークとエレノアという組み合わせに、オリヴィアは少し驚く。
「カトレアの人も外に出ること、あるんだな」
「……初めてです。教えて下さい、オリヴィア様。……イアン様は」
エレノアは、言いながらオリヴィアの手を取った。黒衣が、少女の動きに合わせてふわりと舞う。黒い頭巾の奥から覗く金の瞳の真ん中に、オリヴィアの姿が映っている。
「まだ、分からない。ただ……」
余りに時期が良すぎるのだ、全てが。身体の負担が消えたこと、ひときわ大きな地震、時を同じくして出現するようになった異形の怪物。オリヴィアが言わずとも、そんなことは彼女らも重々承知しているのであろう。言葉に詰るオリヴィアの様子で察したように、エレノアの顔も険しくなる。
「……そうですか。ありがとうございます」
エレノアが、丁寧にお辞儀をする。互いに黙り込んでしまいそうになるのを、ルークが割り込んで阻止する。無言が怖いのだ。
「お前に会えて良かった。隠れ家の位置はある程度把握してたが、何せこの辺りには一度も来たことがなかったからな。迷わずに済んだ」
彼は、レナードが場所を教えてくれたのだと言った。セオドア辺りはいい顔をしないだろうが、今や事態は組織の問題の範疇を出ている。魔導士が一丸となって対処すべきなのだ。
「私も、こっちには日暮れ方に着いたところなんだ。二人とも疲れてるんだろ。共有しておきたい情報も多いけど、もう休もう。案内するよ」
オリヴィアは、疲れがたまっているのであろうエレノアを見て言った。恐らく、オリヴィア自身も同じような顔をしているに違いない。欠伸をかみ殺すと、隠れ家の方角につま先を向けた。
「……オリヴィア様に、お聞きしたいことがあるのです」
歩きながら、エレノアが口を開く。
「呼び方。オリヴィアでいい」
カトレアにいた頃から、居心地の悪さを感じていた。オリヴィアは様をつけて呼ばれるほど偉くも、立派でもないのだ。
魔導士としての誇りを強く持つ者ほどオリヴィアを嫌うが、彼女ならば仲良くなれる気がした。カトレアを飛び出してきた彼女のことだ。閉じた世界と思考に籠もる魔導士達とは違って、異物のこともある程度受け入れてくれるのでは、という淡い期待を持っていた。
「えっと……」
明らかに困惑したエレノアに、オリヴィアは少し寂しさを覚えた。
「……すまない。忘れてくれ」
「い、いいえ。嫌なのではないんです。こういったことには慣れないもので」
慌てて首をぶんぶんと振るエレノアに、思わず表情が緩む。
「私たちくらいの年の人が、そんなにいないんだよな」
「はい。それに、私には巫女としての役割がありましたから」
カトレアを出立する前に、ルークに色々と教えてもらっていた。エレノアは土の一族の出身だが、全ての霊の力を少しずつ引き出すことの出来る希有な能力を持つのだと。四霊と黄龍の力を感じることの出来る彼女は、黄龍の封印を見守る巫女として、幼い頃からその役目に忙殺されてきたのだという。オリヴィアにとっては居心地の悪い丁寧な言葉遣いも、周囲に大人しかいない環境で育ったせいなのかもしれない。
「……じゃ、友達。よろしく、エレノア」
オリヴィアは自分でも驚くほど、素直にそう言った。きっと疲れているせいだ。そう脳内で言い訳をしながら、横で黙って話を聞いていたルークが向けてくる意外そうな視線に気付かないふりをした。
「よ、よろしくお願いします。オリヴィア………………さん」
どうしてもむずかゆいのか、小さく「さん」を付け足したエレノアが可愛らしい。思わず吹き出すと、エレノアは羞恥に顔を引きつらせながら、
「もう、何が可笑しいんです…………ぷっ」
最後の方は、自分でも可笑しくなってしまったらしい。堪えきれずに、エレノアまで笑い出してしまった。一頻り笑ってそれが落ち着いたときには、ルークは手近な木を背に腕を組んで、オリヴィア達を待っていた。隠れ家に向かう目的も忘れて、すっかり足を止めてしまっていたのだった。
「すまない、ルーク。もう行こう」
反射的に謝る。ルークにも疲労は相当溜まっているはずで、うっかり付き合わせてしまったのを申し訳なく思った。
「別にいいさ。……カトレアの連中に対して良い印象を持っていないと思っていたから、意外でな」
ルークは、オリヴィアに小さく笑ってみせた。彼の言いたいことも分かる。だが、それはオリヴィア自身が嫌うことなのだ。
「そりゃ、あまり得意じゃない人も多かったけど、集団と個人は切り離して考えるべきことだと思う」
「……そういうものか?」
「私は、血筋とか出身で一括りにされたくない。そんなものじゃなくて『私』を見てほしい。だったら、私が率先してそれをしちゃ駄目だ」
ドロシーは、オリヴィアの目を見て嫌がらなかった。アルフレッドも、クロエも、対等な友人として受け入れてくれた。院長先生は、オリヴィアが魔導士の子と知っても拒まずにいてくれた。ルークだって、切っ掛けがあったからとはいえ、今はきっとオリヴィア自身を見てくれている。そういう人達が、「オリヴィア」を作ってくれているのだ。どこに行っても爪弾きにされるオリヴィアが、今まで人として立っていられるのも、きっと。
出会った頃からは考えられないほど穏やかにで接してくれるようになった青年は、オリヴィアの言葉に優しい顔で頷いた。一方のエレノアは、少しの間を置いて、
「……仲良くしましょうね、オリヴィア」
エレノアの周囲はどうだったのだろう。特別な彼女を特別に扱う人ばかりしか、居なかったのかもしれない。これはオリヴィアの想像でしかないが、そう思うほど気張らない顔でエレノアは笑った。
イアンと共にコルチの方角へ向かっていたコーデリアは、その日の夜遅くに、一人で帰ってきた。彼女自身も見ていられないほど怪我を負っていたが、確実に急所は外されていた。傷だらけで血に塗れた身体を引き摺って、ここまでたどり着いたのだ。レナードの顔を見るなり泣き崩れたコーデリアは、少しして意識を失った。
そんな様子を見るのが辛くて、オリヴィアはひっそりと屋外に出ていた。耳を塞いで俯いて、足早に。人の死というものを、初めて肌で感じた。怖いと思った。元よりイアンと多く関わりがあったわけではない。彼の死、それ自体が悲しいかと言われれば、オリヴィアにとってはそうとは言い切れなかった。たった数ヶ月前に出会って、共に行動した時間もとても短いのだ。
それでも胸が苦しいのは、彼にとって身近な人が深い悲しみの中にいるからだった。守り切れなかったことに対する罪の意識で、呼吸もままならない程の涙を流していたコーデリアも。ただ黙って俯いていたアルフレッドも。死を経験しすぎたセオドアも。あまり自分のことを話さないのに、彼だけは長年の得がたい友人なのだと珍しく言及していたルークも。そして、そんな仲間達の様子を見て、自分こそ冷静でなければならないと、そう振る舞わなければならないのだと、感情を殺そうと無理するレナードも。堪えようとして、堪えきれなかったのであろう彼の頬を伝う一筋の光が、オリヴィアの胸に突き刺さっていた。
夜が更けた世界は全てが黒く塗りつぶされたように暗く、静寂に満ちていた。外で一人、膝を抱いて座り込んでいた。普段であれば室内から聞こえる談笑は無く、風の切る音一つ存在しない。
記憶にある限り、人の死というものに触れたことはなかった。正確には、身近な人の、と付くが。兵士をしていたときも、レジスタンスに来てからも、排除すべき敵はいた。直接的に手を下したことは無いが、オリヴィアが生き残るために命を奪われた者は少なくない。結局のところ、自分の人生に大きく交わるか交わらないか、それだけの違いに思えた。
一つの死が計り知れない心の傷を生むのだという、至極至極当たり前のことを、今更になってオリヴィアは実感していた。
魔物と呼ばれる生物たちは、人の命を蹂躙してゆくという。襲われた村や街も少なくはないのだという。糸を引いているであろうブライアンを止めない限り、この先もきっとそれは続くのだろう。フィオーレに死が満ちる。フィオーレに、悲しみが満ち続ける。
見たくない、と思った。涙に濡れた横顔を。心に傷に歪んだその表情を。
守りたいと思った。誰かにとって大切な誰かを。――いや、違う。自分にとって大切な人を、だ。それは結局のところ自己満足で、利己的な感情に過ぎない。こうして身近な人が傷付いているのを見るまで理解できないような、浅はかな自分に嫌気が差す。
昔から、どこか孤立していて、どこか孤独だった。心から受け入れてくれると思える人など、両の手で数えられるほどしか居ない。だからこそ、少なからずそういう人に心の内で縋ってしまっているのは自覚していた。オリヴィアを受け入れてくれた、数少ない大切な人達が傷付くのが、溜まらなく嫌だ。
もう、奪われるだけの子供ではない。泣き喚くだけの子供ではない。レナードに教え込まれた剣は、少なくとも魔物を消し去るだけ振るえるようになった。自惚れではない。奢りでもない。ただ、「オリヴィア」を築いてきたものが、黙って壊されるのを見ているわけにはいかないと思った。
止めなければならないのだと、オリヴィアは静かに決意していた。
そんなことを考えて、随分時間が経ったように感じられた。うんざりするほど寒い山のことだ。気がつけば、とうに指先の感覚は無い。かといって、今すぐ皆の元へ戻るのも気が引けた。無意識に漏れたため息は、白かった。
「……こんなところに居たんだな」
オリヴィアを思考の底から引きずり戻したのは、ルークだった。どこか、安堵したような顔だった。
「談話室に居ないから、探した。お前まで居なくなったら……」
「私は、まだ何処にも行かないよ」
長い間声を発していなかったせいで、妙に乾燥した喉を自覚した。肩に感じた暖かさは、ルークに掛けられた上着だ。自分の身体を抱き締めるように上着に包まると、人心地が付いた気がした。
「まだって、なんだ」
ルークは、オリヴィアの横に腰掛けて、月の欠片が浮かぶ夜空を見た。結局殆ど寝られないままで、横顔を見ただけで彼が心も身体も疲弊しきっているのがわかる。何時になく気弱な彼を、慰める言葉をオリヴィアは持たなかった。それがとてももどかしい。口を滑らせたことを誤魔化すように、首を振った。
「言葉の綾だ。いつまでも此処に居るとは限らないって意味」
疲れている人に悩みを打ち明けるなんて、追い打ちを掛けるようなものなのだ。せめて日を改めたいというオリヴィアなりの気遣いだったのだが、ルークは疲れた顔でふっと笑った。
「お前は嘘が下手なんだから、隠し事をしたいのなら黙っていた方が得策だぞ」
「わかった参考にする。ルークとはもう喋らない」
「……拗ねるなよ」
青年の手が、猫にするようにオリヴィアの頭を一度撫でた。
「ルークはこれから、どうするんだ。エレノアの護衛が目的だったなら、もう此処に居る理由も無いんだろ」
黄龍を再び封印するという魔導士の目的も、同時に潰えたことになった。ルークはどうするのだろうか。また魔導士の地に戻るのか、それとも。
「カトレアに帰るのが、現実的なところだろうな。隠れ家に居座るつもりはない。隊長たちもそんなこと望んでないだろうし、許しもしないだろう」
「……そうだよな。じゃあ、私は部屋に戻るよ」
オリヴィアは、上着に礼を言ってルークに返すと立ち上がった。と、ルークが、
「待て。お前は、これから……」
そこまで言って、少し考え込むように言葉を切った。
「いや、今度聞くことにする。……おやすみ」
オリヴィアが「なんだよ」と尋ね返すと、面倒そうに手を振られてしまった。肩を竦めて、会話は終わりとした。去り際に、「おやすみ」と返すことだけは忘れずに。




