9話
「ようこそ我がルーデス商店へ。アレン様いつもご贔屓にして下さりありがとうございます」
アレンの贔屓にしているルーデス商店は、かなり大きな商店だった。
建物は3階建てで、1階が家具と素材、2階が食料、3階が衣服を販売している。
買取は本来ならば入れない奥の部屋で行われ、それだけアレンが特別な客なのだろうと思った。
「そちらのお嬢さんは?」
「彼女はファニー、僕の弟子見習いです。森までやって来て頼み込みに来ました」
「ほぉー」
売り物の値段を算盤で弾いて計算しながら物珍しげに話を聞いていた。
「てっきり若嫁でも貰えたのかと」
「彼女が嫁?勘弁してください。僕が幼女好き趣味の人になってしまう」
「はっはっは、それではもう嫁さんなど貰えませんな」
「貰えたとして相手が永遠を誓えませんよ」
「それもそうだ」
この間ファニーは何も言わなかった。弟子であることも間違いなく、森で頼み込んだのも本当で、ファニーにとってもアレンが旦那なんて勘弁して欲しいし、そんな高齢趣味もない、それに永遠を誓えない。
「はい、しめて白金貨25にはなりますね」
「あと今日は買い物をしたくてね。彼女が服とか食器とか欲しいんだってさ」
「ほう、ならば1階と3階を見て回られるんですね?係のものをお付けしておきます」
「え?アレンとは一緒に行けないのですか?」
「ん?一緒がいいのかい?」
少し小馬鹿にしたような、まるでお子様めと言いたそうな目に苛立ちを覚える。
しかし、ルーデス商店の男主人は少し困り顔でうーんと唸った。
「しかし、少し別のお話がありましてな…毎年恒例の王室からのアレです……本当にひどいったらありませんな」
「………1人で行っておいで」
「はい」
毎年恒例の王室からのアレとは何だろうか?一応第二皇女のファニーも王族なのだから知っていることなのかもしれないが、覚えがない。
「ファニー様、こちらへ。ご案内させていただきます」
係のものがやって来て、ファニーはその人に案内されてまずは3階を見る。
レバーを引くとロープについた籠が動く仕組みになっているものに乗り3階に着くと、煌びやかなドレスからシンプルなドレスまで取り揃えられていた。
それを見に来たたくさんの女性もおり、ファニーも目を輝かせた。
体に当てては係の人にお似合いだと持ち上げられて気分がいい。
ファニーはたくさんの中から悩んで10着ほどを選び抜いた。
次にまた1階に向かい、可愛らしいお皿やティーカップを3セット選び抜いて、その後も少し調子に乗って家具もいくつか選んだ。
「ではアレン様の元へ戻りましょう」
そこでハッとする。
ファニーはアレンの弟子であって、お金の出どころはアレンで、詰まるところこれだけのものを持っていけば、冷やかな目で「調子に乗るな暴れザル」と言われるに違いないのだ。
「まって、やっぱり食器はこのセット一つでいいし、ドレスは…このシンプルなの3着でいいわ、家具も…やっぱりやめときます」
「そう、ですか?」
「はい…」
(私は今、皇女ではなくファニー。アレンの弟子なのよ!抑えなきゃダメ)
本当は欲しかった綺麗なドレスを別の係の人が片付けて行くのを名残惜しそうに眺めた。
そしてそのまま自分の心に負けないようにアレンの元へ向かった。
「こんなに良い方なのに、何でまたそんなものを腕につけねばならないのでしょうか…分かりませんな」
「そう言ってくださるだけでも、僕は救われてますよ」
少し重い空気の中にファニーは帰ってきた。
「戻りました」
「お、早かったね」
サッと手首を隠すアレンを見ると、何か悟られたくないような面持ちだったので気に止めないことにした。
「服3着、食器セット一つ。全部で金貨1程度です」
係の人が報告するとアレンは驚いて目を見張り、ファニーを見つめて来た。
「随分と安く済ませたね、いいのかい?そんなんで」
「ええ」
じゃあちょっとだけ、と増やせば結局落胆されるだけかもしれない。
ドレスなんてみてくれだけだ。
食器なんて使えればいい。
家具は魔法がある、困っていない。
しっかりと具現化された家具は、魔力石のあるうちは燃えない壊れないだけで、魔力石が切れたからと言って消えるわけではなく、壊れたり燃えたりするようになるだけ。その魔力石もスープのお礼として作ってもらえたりもするので必要ない。
「……だとしたら白金貨20枚は君が持ってなよ。僕には使い道なんて無いからね」
「えぇ!?」
簡単な麻袋に入った20枚もの白金貨をドサッと手に渡された。
しかし、こんなに使いはしないのだ。
「1着、1番綺麗なのを買っておいた方がいい」
「何故ですか?」
「じきに分かるさ」
アレンは少しだけ寂しそうに笑っていた。