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8話

(魔法石嬉しいー!剣許さない!涙悲しい…)


「大分良くなってきたね」

「そうですか?」

「うん、ブレも少なくて感情コントロールしているから強くなってるはずだよ」


褒められると嬉しいが、今は剣を想像しているから怒りだ。

すっと想像をやめてから喜びに浸る。

こんなに素直に褒められることがあっただろうかと考えれば、不思議と城であまり褒められた試しがないなと思う。


「今日は御褒美に街にでも行こうか。Dファングの毛皮のこともあるし、掘り返したら魔法石になっていたし丁度いい頃合だ」

「本当?洋服とかも買っていい?」

「いいよ、いつも頑張ってるし、スープ美味しいし」


堪えようのない喜びに、ニンマリと顔が歪む。


「……やっぱり」

「何か?」

「いや、何でもないさ」


ふふっと微笑むアレンを見るとつくづく勿体ないと思う。

"黙っていれば美男"なのだから、と。


「支度をしておいで、僕も僕で支度をするから」

「はい」


支度とは言ったものの、それほど用意するものは無い。魔法使いらしくローブを羽織るぐらいしかない。持っていくものも少ない。

簡単にすませて外で待つとアレンが家ではなくて魔法陣から瞬間的に現れたので少し驚いた。

荷車を引いていたので、次の瞬間には理解して、毛皮や骨、魔法石やその他の売るであろうものをせっせと詰め込んだ。


「じゃあ行こうか」


詰め込み終えてすぐにアレンが動き出す。慌ててアレンの隣を歩けば、地面に複雑な魔法陣が見えた。

アレンはその魔法陣の中心に来て、トンと杖で突いた。


ふわりと浮く感覚があったと思うと、見たことのない景色に一瞬で変わった。


「すごいだろう?」

「すごいです!」


素直にそう思った。ファニー自身が魔法を使える身だから分かるが、これは本当にすごいことだ。便利な使い方は、今回のように荷車に乗せて飛ぶだけで国のあちこちに行けるというもの。恐ろしい使い方なら戦争の時、背後から攻められる。


「さて、まずは売りに行こう。一応贔屓にしてる店はあるからね」

「あるんですか?」

「まあね」


荷車をガラガラと引きながら街を歩く。

街になどそうそう行かないファニーは、ふと、どこかの伯爵か子爵かの令嬢が、煌びやかなドレスを身にまとって、街の人から恐縮されているのを見た。

そしてそれを気にしないアレンは無視して進む。

ちょっとこの感じを知っている気がするファニーは困った様に笑った。


「まぁ!私に挨拶もしないんですの?そこの牛引き」


そしてそれすら気に求めないアレンの図太い精神にファニーは頭を抱えた。

そして大いにその令嬢を哀れんだ。この男に喧嘩を売るのは良くない。


「ちょっと!あなたの話をしてるのになんで無視するのよ!?そこの黒髪!」

「アレン、呼ばれてますよ」


堪らずそばに居たファニーはアレンの腕を掴む。

アレンはさも面倒くさそうに仕方なく止まった。


「そこの金髪は良くわかって居るわね」


本当なら皇女だと言ってやりたいが、言わない約束があるから黙る。


「そこの黒髪の牛引き、私が誰か知らないの?」

「逆に聞くよ、知ってると思ったのかい?初対面なのにプライベートまで知られてたら怖いだろう?で、誰?」

「わ、私に馴れ馴れしい口調!?失礼よ!」

「初対面に黒髪とか牛引きとか言う女の方がよっぽど失礼だよ」


(……やっぱり、止めない方が優しさだったかもしれない)


冷やかなまま可憐にカウンターを打ち続けるアレンと、哀れなどこかの令嬢。

そう言えば私も知らない、と思うとより哀れに見えた。


「貴方の家ごと日の当たらないようにしてやるわよ!?」

「元からそんな日当たりのいい所に住んでないから好きにすればいいよ」

「物理的な話じゃないわよ!」

「精神的?精神的日当たりってどんなものなんだい?」

「貴方何様よ!!」


埒が明かなさそうだ。

アレンは自らをバルバルトと名乗り、大賢者だと言ったりしない。

理由はわからないので手出しは出来ないが、これでは贔屓にしてる商人がこの人になにかされそうだとも思う。


「君の店のお客様だよ、最近もよく来てたんだけど…こんなに威圧的なら別の店を当たろうかな。折角のDファングだからって贔屓にしてる店に行こうとしたんだけど…残念」

「まっ、待ってください!Dファング?それから、いつも贔屓にして下さってる?あ、アレンって…父が話してたあの方?」


目に見えて動揺して、私はほーっと感心した。

これから向かう場所が、この女の家だったなんて思いもよらなかった。

しかし、なんて高圧的で威圧的な人だろうか。


(立場が分かってないわね)


そう思うとなんだか不思議になる。

アレンに弟子にしたくない理由の一つにこんなのがあった気がするのだ。


「君のお遊びに付き合う時間が無駄だから行くね」


相手が何かを言い出す前に再び歩き出すアレンをファニー追いかけた。


「君は一応弟子なのだから、僕が面倒だと避けてるものをわざわざ構う必要はないよ」

「ごめんなさい、今後は相手のためにもアレンを呼び止めません」

「僕のためじゃないんだね」

「あの令嬢、可哀想なことをしてしまいましたわ」

「……」


アレンはなんとも複雑そうな顔をしていたが、ファニーは気にもとめなかった。

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