7話
朝、目を覚ますとアレンの寝室だった。起き上がって見ると壁に寄りかかり小さくうずくまって寝るアレンがいた。
なんだか申し訳ないことをした気分だった。
Dファングの解体に慣れておけば、ほかの何かでも応用が聞くと思ったから見たのだが、臓物の事を思い出すと途端に吐き気がする。
それでは肉など食べれやしない。
「アレン、アレン」
眠る彼を軽くゆすり起こす。
驚いて起きた彼は後ろにあった壁に頭をぶつけ、抱え込んで痛がっていた。
「昨晩はごめんなさい、それからありがとうございます」
座り込む彼と目線を合わせるために座り、顔を覗き込むようにして言う。
覗き込んだ顔は少し戸惑いがあった。
「……」
アレンは何か少し言おうとして口を閉じ、目をそらした。
そして、一度深く呼吸をしてからいつもの彼に戻ったように見えた。
「暴れザルでも皇女様なんだねやっぱり」
「ハイ?」
バカにしているとしか思えない言い草に思わず怒りがこみ上げた。
「それより、荷車の荷物を早く下ろしちゃってね。あの荷車返さないと行けないから」
「それもっと早く言ってください!」
「昨日言ってたけど集中力凄すぎて」
怒りたかったが、この人はいつもこんな感じか、と何も思わないことにした。
それよりも荷車の荷物、と急いで外に出て下ろして運ぶ。
早くしないときっとアレンの事だ。いつもの様に「ご飯マダー?」と家へ押しかけてくるに違いない。
あの時の自分は優しすぎたのだ、とスープを初めて飲ませた日を思い出す。
『僕にはとても美味しいと思えたんだ』
(…………)
そう言えば毎日美味しいと言って嬉しそうに笑って食べてくれている。
お城では、どうだっただろうかと1人思うが、プロのシェフに叶うはずもなく、食べてもらってもいい顔をしていなかった気がする。
なんだか、寧ろダメな子のような扱いだった気もするような…
「ご飯マダー?」
「アレン…まだですよ」
思いのほか長く考え込んでいたようだ。急いで荷物を運び終え、Dファングのトラウマになど負けない!と肉をふんだんに使ったミネストローネを作った。
アレンはそれに酷く驚いていたが、いつものように美味しいと優しく笑って食べた。
「アレン、アレンは何故この森にいるの…?」
ふと、何故か知りたくなった事を口にする。アレンはミネストローネを食べるのをやめ、先ほどの笑顔ではなく少し真剣な面持ちになった。
「特に理由はないけれど、強いて言うなら国の中心だからかな」
「そんなのを答えるためにそんな顔する?」
「国の中心、この国は僕を中心にして回るんだ。こんな事が知られたら、ここに城を建てられちゃうだろ?密かに中心で優越感に浸りたいんだよ。秘密を知ったからには君はここから出せないな」
「良く分からない理由で閉じ込めないでください。父もその程度でしたら笑い飛ばすと思いますので」
本当の理由かどうかはさて置き、大した理由では無さそうだと思った。
けれど、少し考えると思い当たる事があり、言うべきか悩んだ。
「なんか悩んでる顔してるよ?」
「いや、その」
気が付かれてしまったのなら言う他ない。
「国土が広がって、今国のちょうど中心は街だったと思います」
「な!なんだって!?」
ガタリと立ち上がって目を見開くアレンを見ると、本当にそれが理由なのかと確信してしまう。
「一体何年前からだ?!君が知ってるということはここ最近??そんな簡単に中心を譲っていたなんて…」
ストンとまた座り直し、見るからに落ち込んでいるアレンは大賢者とは本当に思えない。
さらに噂で聞いていた"冷静沈着"というのは幻でしか無かったんだなと確信もしている。
子供以下の発想をもつアレンに冷静沈着イメージなど持てるわけがない。
その後無言のまま、もそもそとミネストローネを食べる彼は、本当にいじけた子供のように見えた。