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4話

「これ、魔法で作ったのかい?」

「それ以外で私のようなか弱い女性がどうやって家を建てるのですか?」

「馬を過労死させて吹っ飛んでくる女性がか弱い?」

「か弱いです」

「そうは思えないけどね」


壁を軽く叩いたり触れたりしながら、アレンはファニーの家に足を踏み入れた。


「そこで座って待っていてください。温め直して持って行きますわ」


ビシッと椅子を指差し、アレンがその言葉の通りにゆったりと腰掛けた。


「これもか…」


何か感心しているアレンを放って、ファニーはキッチンにあるスープを軽く温め直した。


(せっかくだし、パンも持ってきましょう)


魔法でクルクルとお皿を作り上げてスープを移しながら思った。

お皿を少し変形させ、パンを置くスペースをつくり、そこにパンを乗せる。

スプーンもついでにそこに乗せる。

お城ではそれこそテーブルマナーなんてものがあり、堅苦しくて窮屈であったが、今のファニーを縛る存在は無い。


「お持ちしましたわ…って何をなさっているんですかアレン」

「やあ、気になってね、しかしこれは面白い。どんなに魔法で焼いても燃えないんだ」

「他人の家の家具を燃やすような真似は避けてくださいませんか?」

「ごめんよ」


全くの無傷の机にスープ皿を並べる。

ファニーは向かいの椅子に腰掛けると、出された食事をマジマジと物珍しげに眺めるアレンを見た。


「食べないのですか?」

「あ、いやうん、食べる」


スプーンを持ち上げスープすくう。

それを白い肌の薄くピンク色の唇へ滑り込ませ、少しだけ舌の上で転がし、静かに飲み込む。

しなやかで折れてしまいそうなほど綺麗な首の丁度喉のあたりが飲み込むために動く。

黙っていれば格好いいのに、とファニーは残念そうにため息をついた。


「美味しい!食べ物を食べたのは200年ぶりだ!こんなにも美味しかったなんて…嗚呼」

「そこまで言いますか」

「涙が出そうだ」

「そんなにですか…」


しかし、断食のプロも驚く世界記録200年の保持者であるアレンだからこそ、これほどまでに美味しいと喜んでくれるのだろう。

少し後ろにのけぞりながらアレンを観察していると、俯きながらボロボロと涙を流していて思わずがたがたを椅子を離した。


「人が感動してるのに、その反応は酷いだろう?」

「そんな質素なスープでそこまで喜ばれると流石に…」

「そうか、そうだね、これはスープだ。一流のシェフが作ったわけでもない、ただのスープだ…けれど」


顔を上げたアレンは酷く嬉しそうで、第一印象がこれならばときめいてしまいそうな程、美しく笑っていた。


「僕にはとても美味しいと思えたんだ」


(まぁ…)


ふぅっとため息をついて、その言葉を言ったあとすぐにモグモグと無心で食べるアレンを眺めた。

これが大賢者アレン・バルバルトかと思うとなんだか納得いかない気もする。


(喜んでもらえたなら、何よりね)


ようやくファニーもスープを口にした。

口にしたスープはやはりよく出来ていて、うんうんと自分で上出来だと褒めた。


「お代わりは貰っても良いのかい?」

「良いですが、食べるならばその分私にも魔法を教えて欲しいのですが」

「僕が教えられること?」


ふーむと少し悩むアレンを見るが、大賢者アレン・バルバルトだ。教えることがないわけがない。

筈なのだが…


「むしろ何で僕の弟子になりたいのか分からないな。魔力源が違う相手に教わるだなんて効率も悪い。それに君はかなり魔法が使えているようにも見える。確かに僕は空気が魔力だからノーモーションであったり、空気を固めて魔法石を生成したりは出来るけれど、それは全て"空気"だからであって、精神とか感情とかなんていう方法のものは理解し難いし、僕の専門外だからね。助言ぐらいしかできないとは思うのだけれど、それでも良いのならそうだな。まずは感情というのは…」

「待ってください!後で、後で聞きますのでお代わりどうぞ」


いいのかい?と嬉しそうに笑うアレンを背に、皿をひったくってキッチンへ向かう。

そしてあの大量に投げかけられた言葉を整理しながら少し考えた。

確かに、師弟で魔力源が違うのは迂闊だった。

分かりにくい上に相手に合わせるのは難しい。

あと、私はアレンから見てかなり魔法が使えている。それは喜ばしいことだ。

あとアレンは無言のまま魔法を唱え、そんなに疲れることもなく魔法石を作り出せる。

本来魔法石は掘り出すもので、先人の魔法使いが亡くなって土の中で温められて固まった存在だと言われている珍しいものだ。

格が違いすぎるというか、感覚が違うというか、つまり、アレンを師匠にするのは間違えているのかもしれない。


(けれど帰りの馬はないのよね)


スープを器に移して、再びアレンのいる机へことりと置いた。


「いやぁ、嬉しいなぁ。でもそうだな、これなら魔法を見てあげてもいい。スープのお礼ぐらいはしたいからね」


まぁ、224年も生きて魔法使いをしているのだ、少しぐらいの知識はあるだろう。

そのおじいちゃんの知恵袋を少々お借りしたい。

それで弟子として認められた上で、師匠の元から出たい。

馬も、買ってもらわねばならないし。


(耐えるのよ、ファニー・ロジック)


目の前で再び食いつくアレンを見つめながらスープを口に含み、それを飲み込んだ。

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