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最終話

(平気、やれるわ、やってやるの!よく想像するの、魔法石よ!魔法石!)


たくさんの喜びをまずは体に溜め込む。

喜ぶことで魔力が回復するのではないかとアレンが言っていたのを信じてみることにした。

事実、喜びを集めると体が軽くなるので、その可能性が高い。


(魔法石で喜ぶ所から空気で喜ぶように変えるのよ)


嬉しい気持ちで一杯にしたまま空気で喜ぶようにする。

アレンが空気を扱えるのはもしかしたら、もしかしてと仮説を立てたのだ。

アレンにとって10歳の時、もしくはもっと昔の生まれた時。

呼吸したその瞬間。

その世界に感動したのではないだろうか。

抑えられない喜びが、空気の中にあったのではないか。

そして、いくつか分からない頃、不老不死の魔法を唱えてしまったのではないだろうか。

それはどんな理由なのかはこれから聞けばいい。

答え合わせも後でいい。


(私にも、時間がたっぷり手に入るのだから)


自分の感情が空気で喜んでいると上手く勘違いするようになるまで何度も試す。

しばらくすれば自分の意識もぐるぐるとわからなくなってきて、ある時ふっと体が軽くなった。

息を吸うとその新鮮な流れが体を通り抜け、ファニーはじっとある1箇所に力を集中させる。

風を巻き起こし、それがじわじわと固まり、一つ小さめの石が落ちた。


「……疲れてない、体は軽いまま。媒介も…必要なかったわね」


これは仮説が本当だったのだろう。まるでアレンのように空気で魔法を唱えたのだ。


「それだけじゃないわ!」


やってやるのよ!と強い喜びを感じながら禁術の書物を開く。

複雑なその魔法陣を広げた大きな紙に書く。

1字1句間違いがないかと何度も見直し、その紙を床にしいて上に立った。

そして小さな魔法石を自分の胸に当てる。

そのまま魔法陣と自分に強く強く魔力を流して激流を作る。


集中力が必要なこの魔法は、感情や精神の魔法ではとてもじゃないが唱えきれない。しかしファニーはいまや空気が魔力源で、集中力はアレンすら驚く程にあるのだ。

失敗するはずがない。


「強く願え強く願え、望むものは永久の生、失うものは永久の死」


ガチャリと扉が開く音がしたが、透明な壁を展開、その音を遮断する。


(私は、彼の弟子でありたいから)


魔力が透明な壁の中に溢れかえり、もう壊れそうになったその瞬間、強く光り輝いた。

その輝きは次第に収まり、地面を見れば禁術の魔法陣は消え失せていた。

顔を上げて姿見をみやれば、そこには暗く沈んだ髪と、真っ黒の瞳。

姿は変わったとはいえ、ファニーであることに変わりはないのだが、どうも金髪赤目の頃から見れば違和感はおおいにあった。


壁を叩く音がする。

見ればそれは自分の母親で、振り返ったファニーを見ると怯えて後ずさった。

廊下には父も兄もいて、とても怯えている。


「お母様、お父様、お兄様、今までお世話になりました。私は、今後は魔物として師匠の森で暮らします。それではごきげんよう」


ティーカップを抱え、小さな魔法石を手紙の裏に置く。展開されたゲートへ乗り、杖を取り出す。

トンとつつけば2度目になる浮遊感。


(嗚呼)


消えていく自室に泣きそうな母の顔を見る。


(とんだ我儘な暴れザルね私)


地面につくとそこは見慣れた森の中で、ティーカップを抱えたままファニーは自分の家に入る。

一食分だけ残っていた食料をふんだんに使い、スープを作る。


出来上がった頃に、アレンの家にある透明な壁を叩いた。


「アレン、アレン、スープが出来ましたよ」


驚いたように扉を開けたアレンは、ファニーの容姿をみて更に驚いていた。


「食べるんですか?食べないんですか?」

「君は……そうか、うん………頂こうかな」

「ただ、食料がもう無いのでスープはこれで最後ですよ?買いに行くにも出てはいけないんですよね?嗚呼!私はまだ出れますね、定期的にルーデス商店から送ってもらうように手配しましょうか!白金貨も20枚ありますし、問題ありませんね!それから」

「ファニー」

「なんですか?」


アレンをみやれば、楽しそうに笑っていた。


「スープが冷めてしまうよ」

「嗚呼、確かにそうですね」


ファニーは自分の家にいつもと変わらないでアレンを招き入れた。

そして今までと変わらない机と椅子で、今までと変わらないお皿でスープを食べた。


今までと少し違うとすれば、

ファニーの黒髪と黒目、それから、使い込まれたアレンのティーカップ。

それだけだろう。




あれから行く年が経ったが、王家から何か言われることは無い。彼も彼女もいつも幸せそうにそこで魔法のことを話しているそうだ。


「ファニー、君なら永遠を誓えるだろう?」

「確かにそうですね、しかし嫌です」

「これでフラれたのは100回目だ。どうして?」


ふふふと彼女が笑いながら彼を見上げる。


「私は貴方の弟子なのと、老人趣味は無いからですよ」

「その理由も100回目だ。僕はあと何度君にこの思いを言えばいいのか」

「そうですね、あと124回です」

「それっぽっちでいいのかい?」

「私とアレンの出会った記念の数字ですからね」




「まあ、焦ることは無いですよ。私たちにはたっぷりと時間がありますから」

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