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邂逅  作者: 時乃 遙
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後編

やっと最後の話に辿り着きました……


 暖かな黄色い光の満ちる車内は不思議と寒さを感じず、多幸感のみを感じるものが多いのか、騒がしい車内は賑やかな声に溢れている。


「賑やかね」

「君だってはしゃいでもいいと思うよ」


 その車内の一角、向かい合わせの木でできたベンチに似た椅子は、随分と年季を感じさせるものの傷一つなく、車内の灯りを受けて仄かに光る座席に腰かけ呟いた彼女の言葉に返した彼の言葉は、すぐに辺りの賑やかな声に飲み込まれていく。

 けれど向かい合わせに座っている二人の距離は遠くなく、油断すれば膝が触れ合う程には近い為、問題なくお互いの声が買わせる距離だった。

 木枠で誂えられている向かい合わせに必ず一つある窓から見えるのはどこまでも続く闇で、それを見てしまってからは彼女は室内へと目を向け、それから彼の方へと目を向けると改めて笑みを浮かべる。


「賑やかなのが苦手なの……貴方も一緒でしょう?」

「確かにそうだな」


 落ち着いた雰囲気の男女、年は60前後といった所だろうか……先程駅のホームでひと悶着を起こしていた二人を思い出すと彼女は目尻の皺を深めて笑みを浮かべた。


「それにしても懐かしい姿……私、あんな風に貴方を引き留めたのね」


「泣いて仕方なくて大変だった」


 小さく溜息を零すその所作が、変わらないままの彼の癖だと気付けば自然と頬が緩む。

 この姿でお互いを見たのは初めてで、どちらももう人生の半分は生きた姿だった。着ていた服装や言動、髪や肌の色から察するに、お互い今度は同じ世界の同じ国にいたのだと判断できる。


「今度は日本に居たってことね、私達……本当に、因果って面倒」

「業というのか、因果というのか……もしくはそれこそ運命というのかは気持ち次第だと思うけどね、僕は」

「そう言うとこがロマンチックだと思うんだけど、本当に魔王かしら、貴方」



 言いながら彼女が笑みを零してしまえば、ふと落とした視線の先に彼が、今まで刻んできたであろう人生の証ともいえる手に浮かんだ皺を見て手を伸ばした。

小さく彼の手が跳ねて驚いたのが伝わったがそのまま彼女は自分の手を重ねると頬を緩め、良かった、と小さく呟いた。


「ねえ、そっちへ行っていい?」

「構わない」


 彼女が顔を上げた頃には、先程まで優し気な表情を浮かべていた妙齢の彼の姿はそこに無く、遥か遠い昔、彼女が自分が住んでいた世界とは違う何処かで、自分が自ら手を下してその命を奪った彼の姿がそこにあった。

 驚きに目を瞬かせ思わず手を引けば、そんな彼女の手も先程までの年老いた手ではなく、先程ホームで別れたばかりの昔の自分の姿になっている事に気付き、急に恥ずかしさを覚えてしまう。


「……――おいで、マリナ」

「その呼び方は、反則だと思うの」


 彼女の方から持ち掛けた場所移動だったが、外見が変わってしまえばその時までに精神も引かれてしまうのか、急に気恥ずかしくなり躊躇していた彼女にかけられた彼からの声に眉を不満げに寄せ、それでも彼の隣へと改めて腰を下ろすと今度は彼が彼女の手を取った。


「無事に……逢えて良かった、本当に君は凄い」

「……実を言うと、何度も諦めそうになったのよ……」


 実際諦めた事もあったのだと彼女は彼に告げる。彼が握っていた手に力が籠り、眉を寄せたのが判り慌てて首を左右に振り彼女はさらに言い募った。


「けど、そんなときに限って貴方が出てくるのよね、知らなかったでしょ?」

「でてくる?僕が?」

「そう、例えば死の間際……ああ、もう逢えないなあ、ってなる度に、傍に居る気がするの…

…きっと貴方の魔力のお陰ね、だから死なずに生きてた」

「君は、後悔してない?……――僕は、後悔してばっかりだけど」

「後悔なんてしてないわ……あの時、私が貴方に言ったことを覚えてる?」


 彼の言葉にそう返しながら、先程の駅での光景を思い出すと彼女は静かに目を閉じる。そうして少し間をもたせた後、薄く唇を開く。


「ここで諦めて貴方を見殺しにするくらいならいつか逢える事に賭ける、たとえ……何年かかっても貴方を探して見せるから」


 そうして告げた彼女の言葉に目を細め、頬を緩めた彼が懐かしいな、と小さく呟いて返し掴

んでいた彼女の手を改めて強く握りしめた。


「そういっても……死ぬ予定だった僕の魂をなかった事にするには随分と長い時間が必要だ、

僕がいくら優れた魔法使いでもそれは変わらない、生命の神がそれを許さない……そうするに

は、とても長い時間が必要で、ともすれば君の方がずっと先にあの汽車に乗ってしまうかもし

れない」


 そうして紡いだのは、彼女の言葉にあの時かけた彼の言葉。


「そんな事しない、ずっと探し続けるから、逢えるまで諦めないから……お願いだから死なないで」

「君には本当に驚かされてばっかりだった……――でも、そんな君だから僕は君を好きになったんだ……――と思う」

「そこは肯定して?!」


 最後の最後で頼りない言葉になってしまった彼に、思わずそう彼女が突っ込みを入れて、お互いの顔を見合わせた後小さく噴き出した。繋いだ手の温もりと、長い間交わしてなかったお互いの、その言葉のやり取りに思わず泣きそうになりながら彼女は甘えるように彼に軽く凭れ掛かる。


「ねえ、どんな世界を渡り歩いたか……教えてくれる?お互いの冒険話をしましょうよ……

まだ着きそうにないもの」

「そうだな……どこから話そうか……マリナの話も聞きたいから、ちゃんと教えて欲しい」

「良いわよ、じゃあお互いに一番最初の世界から順番に話していきましょうか」


 手を繋いだまま二人の交わす話は、あの日、駅のホームで別れた時から始まるとても長い旅の話。彼の最後の大魔術、残った魔力を神に捧げ、赦された唯一の彼と彼女が再び同じ時を生きる為に課せられた二人の冒険譚。

 時には乾いた大地での小さな村のはなしであったり、発展した街での幻想的な未来の話であったり、農村から始まる大冒険だったり……尽きる事無く紡がれるお互いの話は目的地に着くまでずっと続けられた。


 お互いの手をずっと握り合ったまま。

滅茶苦茶悩んだ結果、こう落ち着きました

駅のホームでの最後の一幕を後編にするか、汽車の中での一幕を

後編にするかで悩んだ結果、随分時間がかかるという


多分書きたいことが多すぎた結果……この二人の話は色々あるのに

うまいこと文章に纏められなかった結果……詳しく読みたい人がいるかは、謎

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