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邂逅  作者: 時乃 遙
1/3

前編

短編のつもりで書き始めたんですが

思いの外長くなったので前後編に分けました。

 

 私は世界を救う為に呼ばれて、そして世界を救った。

 なんとも文字にするととても簡潔であってそしてなんとも嘘っぽいとも思う。

 まだほんの少し前……一ヶ月も経っていない。そのはずなのに、あの世界は

もう私にはとても遠くて、苦くて切ない記憶しか残していない。


「莉那、莉那ってば!」


 心ここに在らずだった私に隣から声が上がる。幼い頃からの友達の香枝は、

気がつくと私を心配そうに覗き込んでいて、その可愛らしい顔の眉間に皺が寄っ

ている。


「ああ……ごめん、何?」

「ぼーっとしてたみたいだけど、大丈夫?熱でもあるの?」


 さらに言い募ろうとする香枝に大丈夫、と言葉にして軽く首を左右に振ると、

そう……と小さく呟いた香枝は安心したような笑みを浮かべた。

 もう少し自分が若かったら、このずっと昔からの親友と呼べる香枝に私の身

に起こった出来事を相談するのだろうと思う。

 けれどもそうするには私はもう十分に年を取りすぎていたし、彼女だってき

っと私の話を受け入れないだろうと想像できた。


 それを体験した私でさえ、それはもう霞んだ夢の片鱗な様なものだと感じて

いるのだから……――






 よくある異世界召喚物だと思う。ある国の平和を脅かす存在が現れたから、

それを退ける勇者を呼ぶ……若しくはそれと同等の者を異世界から、国から募

る……そんなもの。

 都合よく呼ばれて勝手に期待されて、勝手に向こうの都合ばかりを押し付け

て、でも結局最後は相手の望む通り世界を救ったり国を救ったりするのだ。


「もうすぐ結婚記念日でね、尋君がプレゼント用意してくれてるらしいの、

 楽しみだわあ」

「はいはい、ご馳走様!!所で今日は何時に待ち合わせだっけ?」


 違う世界に意識が行きそうになるけれど隣にいた声に一気に現実に戻された。

 香枝は旦那さんの話になると途端に顔がにやける。結婚して三年以上経った

けれどまだまだ新婚さんも顔負けのいちゃらぶだ……爆発しろ!とは思わ

ないからずっと幸せでいてくれたらいいなと思う。

 二人を見ていると私も幸せになれるので、今のところ独女は毒女、と言われ

る事はきっとないと思いたい。


「19時にここっていってたから、もうすぐ来ると思うよ~」

「お、そっか……って、あれ、来たんじゃない?」

「尋君!こっちこっち」

「はずかし!大きな声で呼ぶのやめて!」


 存外男の人の方が女の人よりも恥ずかしがり屋さんのようだ、とこんな時に

実感する。それを言葉にすると、嫌そうに眉を顰める尋君をみて私は少しだけ笑

みを浮かべた。


「ささっと移動しよう、ささっと!俺はビール飲むから!冷えたビール」

「私も久しぶりに少しだけ飲もうかな、莉那も飲むでしょ?」


 少しからかう感じのやり取りを、私が尋君としていても香枝は何も言わず楽

しそうに眺め自然と会話を続ける。

 周りから見ると三人してどんな風に見えるか判らないけれど、この目の前の

二人はれっきとした夫婦であり、私はその夫婦に付いているお邪魔虫みたいな

ものだ。

 もっとも二人が全然そんなことを思っていないので私からすれば邪魔じゃな

かろうか?といつも思うのだが何かと私を気遣ってくれている。



 他愛ない最近の出来事を言い合いながら進む道は、苦でもなんでもなくて仲の

良い二人を盗み見た。最近はそろそろ子供が欲しいと香枝の方は言っていて、尋

君の方もそれは同じみたいで同意はしている。しているが中々出来ないらしく

て不満を零していた。原因を調べても判らないらしくて、唇を軽く尖らせる香枝

は年下の旦那さんである尋君に慰めてもらうように頭を撫でられている。


「二人はいつまでたっても新婚さんねー」

「そうでしょ?尋君は嫌がるんだけどねー」

「いい年してって思ってます、俺はもう落ち着いていたいんです」


 隙あらば腕を組もうと腕を伸ばす香枝を巧みに交わしながら歩いている二人

の横

で微笑ましく、というか生暖かい目で見守ってます、的な態の私に尋君が険し

い顔をする。微笑ましくて良いじゃないか、私はそんな二人を見るのが好きだ

よ……と言葉にすると香枝は幸せそうな顔をするけれど、やれやれ、と肩を尋

君は竦めた。


「莉那はいい人いないの?紹介してくれるの楽しみにしてるんだけどなあ……」


 もうほとんど会った時には一度は言われるその言葉にいい人がいたらね、と

言葉を返すのも定番になってしまった。もう若くない私達……香枝がよくもっ

と早くに子供を作りたかった、と言葉にするたびにそうだね、と言葉を返す。


 二人の会話に時折相槌を打ち雑談をしている間に、百貨店の入り口が見えてき

て思わず足を止めてしまった。いつもなら普通に入るその入り口の横に、ひっ

そりと占い師的な人が大を構えて座っていたからで、思わず首を傾げてしまう。

 何時もはこういった所に人がいることがない、まず店を出すことはかなわな

いと思うだろうから違和感が付きまとう。


「珍しいね、百貨店の入り口に占い師がいるとか」

「あまりいないだろっていうか……普通店の中の店舗とかにそういうのってあ

 るよな、莉那さん気になるの?」


 二人もやっぱり気になったのかそんな風に声にする。一番最初に気づいたの

は私だったからか、尋君がこちらを見てそんな風に訊ねてきた。違う、と声を

発する前には香枝が占い師のおじさんの所に近づいていってしまい私を手招き

する。

 楽しそうな香枝とは裏腹に尋君は面倒くさそうに呟く。元々占いなんて信じ

てない尋君。大体占い好きなのは女性の方だと相場は決まっているけどね……

そんな風に私も思いつつ香枝に近づくと、その占い師の男性と目が合う。思わ

ず会釈をしてしまう私に小さく笑みを浮かべたおじさんは私を見た。


「逢いたかった人に逢えるよ……未練を残している人がいるだろう、逢えるよ」


 聞き逃しそうになるほどに遠ざかっていくおじさんの声から発せられた言葉

に、私は問いかけを返しそうになる、最も胡散臭そうなそれに尋君は香枝の手を

引いて引き離しているし、それに私も倣ってしまったから。



 『逢いたかった人に逢える……』


 それは二度と叶わない人であることは自分で判っている。だからこそ胸が締

め付けられる。それなのに逢えるかもしれないと心のどこかで思っている自分

が居る事に頭を振ってしまう。

 そんなことを考えている間に目の前の扉が開いて条件反射でそのまま外に出た。


「え?」


 そこは見知ったレストラン街ではなくて駅のホームだった。思わず声が零れて

後ろを振り返る。

 先ほどまでエレベーターがあって、その扉だった所は階段に変わってしまって

いた。頭の処理が追いつかない間に階段を上ってきた香枝が私の姿を認めて顔を

綻ばすのが見える。


「待った?……莉那?待ち合わせに遅れて怒ってる?ごめんね?」


 呆然としてしまった私から返事がないのが心配になったのか、心配そうな香枝

が私の顔を覗き込んでくる。


「貴女……誰?」

「莉那?……怒ってるからそんなこというの?言っていい事とそうじゃない事が

 あるでしょ?」


 私の言葉に気分を害したのか、香枝が表情を変えるのが判る。けれども丁度私

の後ろから香枝を呼ぶ声に目の前の香枝の表情が明るくなった。


「尋君!!聞いて、莉那ったら私の事誰?って聞くの!!」

「……香枝が莉那さんを怒らすようなことしたんじゃないの?」


 拗ねる彼女と彼氏、これはいつも見ている光景……確かにそうだけど、違うの

は明らかに違う。そう……だって香枝達が何時もと違う。


「そこのお嬢さんには通用しないみたいだからそろそろ止めた方が良いんじゃな

 いかな?」


 困惑している私と香枝達に声が掛かったのはその時。声の方へ顔を巡らすとそ

こには先ほど出会った占い師がベンチに座っていて思わず目を見開いた。


「残念……久しぶりに普通の人に出会えたのにねー」

「あまり困らせても悪いよ、目が落っこちそうだ」


 吃驚している私をそう揶揄した尋君はいつの間にか尋君じゃなくて全然知らな

い人物になっていたし、それに合わせて隣に居た香枝も香枝じゃない人になって

いた。

 不思議なことにそれが女性化男性化の区別が付かない。しっかりとした人物が

そこに居るのになんだか曖昧に感じる。


「驚かないのかな?」

「不思議な経験をしたのは、これが初めてじゃないので……ここは……いったい

 どこなんですか?」


 思っているよりもずっと小さな声が出た。目の前に居るおじさんも怪しいとい

えば怪しいのだし、話しかけるのはどうだろうか、と自分の中で猜疑心を持って

いるからかもしれない。 


「私も君がここにくることになるとは思ってなかったから少々驚いているのだけ

 どそうか……」


 納得したようなおじさんの言葉に、首を傾げつつもどう言葉を続けようかと思案

し始めたその時、大きな音がしてホームに電車が入ってきた……いや電車かと思

ったら大きな蒸気機関車で、そんなものはもう動いてないとばかり思っていたが、

どうしてかその汽車が来たとき、やっときた、そう思って思わず腰を浮かす。


「乗らなきゃ……」

「おっと……」


 まるで見えない何かに指示されているかのように、思考に霞が掛かってうまく思

考が纏まらないけれど、なぜか私はそれに乗らないといけない気がしていて無意

識に思っていて誘われるように立ち上がってしまったのだ。

 けれども立ち上がった自分を引き止めるようにおじさんが腕を掴む。まるで邪

魔された風に感じてしまった私は不快感を露にしてその手を振りほどこうと身を

捩った。


「いや!離して!!……私、あれに、あれに乗らなきゃ!!」

「落ち着いて!あれに乗ってはいけない、戻れなくなる」


 暴れ始めた私を宥めるかの用に声をかけるおじさんを煩わしいとしか思わず、

無理やり解こうとした私をおじさんは立ち上がって抱きしめた。一瞬何をされて

いるのか判らずに目を瞬かせてしまったが、抱きしめられているとわかった途端

羞恥が襲ってくる。不思議なことに嫌悪感が一切ないことには驚きを隠せない。


「よく見なさい!……あれに乗ってるのは人じゃない」


 抱きしめられているおじさんの肩越しに見える汽車に乗り込む人たちは、モノト

ーンのままけれどもどこか安心したような顔に見える。何が駄目なのかよく判らな

いが人ではないといわれると穏やかな顔をしているけれど、どこか生気のない顔を

しているように思う。よく見たら時折足が変な方向に曲がっていたり、服がぼろぼ

ろだったりするそれに目が行く。


「あ……」


 私が若い頃の香枝と尋君と思っていた二人も仲良く汽車に乗り込む。こちらを

見た香枝だったものは残念、と小さく呟いているように聞こえた。

 よくよく見てればそれが異常な光景であることに気づけた。モノトーンの世界

に色づいている私とおじさん、そしてその蒸気機関車も色づいているのだ、黒で

わかりにくいけど室内からもれ出る光は淡い黄色で安心感を与えてくれる。


「迎えに来たんだよ、でも君はまだあれに乗ってはいけない……そのためにここ

 に来たわけではないだろう?……私もね、ずっとここで妻を待っているんだよ」

「奥さん、ですか……」


 落ち着いたとわかったのか、おじさんは腕を解いて私を解放してくれた。あれ

だけ乗らなきゃいけない、と思っていたのが今は嘘のように心が落ち着いている

のが判る。


「ここは生と死の狭間でね……ずっと何処かを彷徨っている妻を待っているんだ

 よ……中々出会えなくて、色んな所を探してしまったけどね」


 その過程で君にも逢った、と先程の束の間の邂逅の事も口にしたおじさんは、

どこか楽しそうであり寂しそうでもあった。

 どう言葉をかけていいか判らないでいるとああ、と小さく呟いたおじさんの声

に、先程とは違う種類の声色が含まれていて首を傾げてみれば、私の後ろに視線

を向けていて、私がそれにつられるように視線を向ければ、其処に居たのは妙齢

の綺麗な格好をした女性だった。


「こんな所まで、迎えに来てくれたの?」

「どこにいても君を迎えに行くのは、僕の役目じゃないか……」


 私を間にして交わされる会話に居た堪れなくなるのは必然で、私はそっと二人

の間から距離を取る。見つめあった後、まるで壊れ物を扱うようにお互いの手を

取る二人を見て、うらやましいなあ、と思った自分を誰も責められないと思う。

 所在なさげにしていたのが二人に伝わったのか、それとも気を遣ってくれたの

かは判らないけれど、二人が手をつないだままこちらを見て思わず、あ、と小さ

く声が零れた。


「ああ、ごめんごめん、脅かしてしまったね……僕はもう逢いたい人に逢えたか

 らそろそろ妻と行こうと思う」

「行く、ですか……」


 何処に?と聞く必要はなさそうだった。今でも止まったままの蒸気機関車に二

人の視線が注がれている。親しげに手を取り合って微笑み合うと二人して汽車に

乗るべく歩き始めた。


「でも……それに乗ったら」


 何処に行くのか、というのはおかしな話かもしれない。生と死の間……おじさ

んは確かにそう口にしていて、先程乗り込んだ二人も今は此方を見もせず楽しげ

に談笑しているのが見えた。

 きっとあの乗り物は、死者を運ぶための物に違いないと確信している。歩き始

めた二人に掛ける言葉が見つからず視線を彷徨わせれば、ふと足を止めておじさ

んが肩越しにこちらを振り返った。


「逢いたかった人に逢えるよ……そういったことを覚えているかい?僕は占いを

 齧っていた事があってね、これでも予想は外れたことないんだよ?」


 それはどういう意味だろうか……そう尋ねる前に幸せそうに見つめ合った二人

が汽車の中に乗り込んでいくのをただただ見送るしかなかった。


「死者を運ぶための汽車……」


 それは非現実的にも思え、かと言って否定できるほど私は強くもなかった。逢

いたかった人……そんな人がいるとしたら、私には一人しか心当たりがないんだ

から。

 汽笛が鳴り、あたりがにわかに騒がしくなる。話している間にもずっと乗り込

んでいた人は多かったらしく、最初に見た時よりも人が多いように思う。

 慌てて駆け込むように乗り込む人もいて、そんな人達を呆然と見送るしかない

私の視界に映った人物に思わず駆け出した。


「マリナ……?」

「乗っちゃ駄目!乗らないで!!」


 大きな声を上がてしまったせいか何事だ、と言わんばかりに汽車の中の視線が

私に集まるのが判る。でも譲れないのだ、こればかりは譲れない……声に気づい

ても汽車に乗ろうと足を進める彼に必死にしがみ付く。先程おじさんが私にそう

してくれたように。


「いや、私はこれに乗らなければならない……マリナが一番よく知ってるはずだ」

「それでもいや、いやだよ、乗っちゃ駄目だったら!」


 聞き分けのない子供の様な物言いに彼は困ったように眉を寄せ、しがみ付く私

の両肩に手を置いて身体を離させた。


「馬鹿な事を言うな……――大体、私が死んだのは……君が一番よく知っている

 だろう?マリナ」


 彼の言葉が胸に刺さった。何時までもホームに残っている私と彼を、急き立て

るように再び汽笛が鳴る。

 顔をあげて再び汽車に乗り込もうとする彼の身体を離すまいと必死にしがみ付

いている私……困ったように眉尻を下げる彼を見ながら歯を食いしばった。今度こ

そ、譲らないのだ。私は私自身の本当の望みを知っているのだから。



なるべく早くに後編も書き上げたいです。

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