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水彩プラネタリウム  作者: 渡部 遊雲
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第一章

拙い表現です。温かい目で見守っていただけると幸いです。




「なぁ、天文部入らねぇ?」


彼のその一言で榛介思考は一時止まった。

目の前に笑顔でこちらを見下ろしている彼の名は、尊。


中学生の時、部活のテニスで全国大会優勝を2度も勝ち取ったらしい。


日に焼けた小麦色の肌は榛介と違って健康で、筋肉で引き締まっている。


「は?」


尊の衝撃的な発言からようやく持ち直し、口から出た言葉は冷たいものだった。


それを歯牙にもかけず、彼は笑顔のまま弾んだ声で言葉を紡いだ。


「だって君、部活入ってないんだろう?名前だけでもいいからさ」


将来有望なテニスプレーヤーで、性格も明るく分け隔てなく接する尊はクラスの人気者だった。


人気者に恩を売るのも悪くないと榛介は思った。


名前だけということは部活の活動には参加せずとも良いという条件であろう。

つまり、榛介の日常生活に実害はないわけで特に損を感じなかった。


「まぁ、名前だけでいいなら」


承諾すると尊は嬉しげに「ありがとう」と言い、入部届を机の上に差し出した。


用意周到な準備に、目を見張った。威圧的な要の笑顔に気圧されつつ、机の上に差し出された入部届に名前を記入する。


「へぇ、瀧って字きれいなんだね。書道でも習っていたの?」


感心したように尊はそう呟いた。

榛介は視線を手元に落としたまま答える。


「習ってはいないよ。筆で書くとえらいことになる」


その答えに要は小さく笑い「そうなんだ」と小さく呟いた。

必要事項を書き終え、紙を要に差し出す再びお礼を言い榛介に背を向ける。


嵐のような人だったなぁと感じ手元にある本を開き読書を再開した。



その日の放課後、課外授業が終わりカバンに教科書や宿題のプリントを詰めていると目の前に尊が現れた。

何事かと訝しげに見つめると、要の笑顔は更に濃くなる。


「瀧、今日から部活をするぞ」


予想だにしていなかった言葉に呆けていると、要は強引に榛介の腕を掴む。


「え、ちょっとっ…」


榛介の動揺など気にも留めずに、要は笑顔のまま榛介を引っ張って教室を出た。

廊下を歩いていると人の視線をひしひしと感じ、悪目立ちしたくなかったので黙って付いていく。

掴まれている腕に力が入っていて少し痛かった。

階段を上がり部室が並ぶ第二校舎の3階の廊下に出た。授業が終わり、時間がまだ立っていないせいか学生は誰もいなった。

文化系の部室が並ぶなか天文部と表記されている部室に入る。

ドアが閉まるのを見て榛介は怒りで戦慄く口を開いた。


「名前だけと君の口から聞いたから、天文部入部したんだ。これは一体どんな状況だろう?」


「あれは建前だよー本当に名前だけなわけ無いじゃんー」


要の間の抜けたセリフが小さな部室に響く。

榛介は要の反省の色のない顔とそのセリフに殺意が芽生えた。


落ち着くため深く息を吐き出し、部室に視線を巡らせる。4畳程度の小さいこの部屋には入り口と向き合うように窓があった。その窓には黒いカーテンが覆われ光を遮断している。そのカーテンの両端には榛介と同じくらいの高さの本棚が設けられ、天文学についての本が並んでいる。そして中央にはこの部室の半分を占める大きな木製の古い机が設置されていた。その上には白い五角形が3つ連なった厚紙が置かれている。その厚紙には黒い点々を一本の線がつなぎ、歪な図形がいくつも並んでいる。星座のようだ。

榛介の視線に気づいたのか要はその厚紙を優しく持ち上げる。彼の大きな両手に挟まれた厚紙は少し小さく見えた。


「これはね、プラネタリウムを作ろうとしたんだけど星座の場所を失敗してね。」


要のその優しい声と表情に驚きを隠せなかった。いつも多くのクラスメイトの中心にいる彼の爽やかな表情とはかけ離れていた。


(彼は本当はこんな風に笑うのか)


先程まで感じていた怒りは収まり、代わりに居心地の悪さを感じだ。

要は天文学が好きなのだろう。確かに榛介も天文学が好きだし、一般人に比べ知識があることを自負していた。

しかし、要の表情を見ていると自分が如何に天文学を軽視しているか自覚した。

榛介にとって天文学はただの一種の学問で、暇つぶしの対象でしかない。

彼のように愛情を注ぐ対象ではなかったし、自分のなかに芽生える愛情を要は未だに知らなかった。

要のそばで、彼が天文学に愛情を注いでいるのを目の当たりにすると、自分の足りないものが浮き彫りに見えて嫌気が差しそうだった。


要はふと思いついたように本棚の本を手に取り黙読しはじめた。


真剣な横顔を見つめながら、榛介は物思いに耽る。


人気者でいつも爽やかな愛想笑いを浮かべる彼が真剣な表情をしているのがとても新鮮だった。

要には申し訳ないが、どこか作り物めいた完璧さが彼にはあり、榛介は彼のことが苦手だった。


彼をここまでただの人としてしまうのがあの天文学だと考えると少々腑に落ちないところもあるが納得もする。


確かに天文学は人の知的欲求を満たし探究心を高める色が濃い学問である。

そして、天文学者は空に恋をするかのようにただ直向きに見つめ思いを巡らせているような印象を受けていた。


もしかしたら要もそうなのであろうか。


未知なものに心を奪われ、報われることなど考えもせずにただ自分を注ぐ。


そんな献身的で狂気を感じさせる姿勢が彼にもあるように感じた。


もしそうならば、近くでそれを堪能したい、確かめたい。

己を削って注ぐ無条件の愛を榛介は求めていたのだ。


「分かったよ、入部するし活動も参加する」


要は勢いよく顔をあげ榛介をじっと見つめる。

言葉の真偽を確かめるようだった。その視線を真正面から受け止める。

榛介の本気が伝わったのか嬉しそうに笑い、興奮気味に榛介の手を取った。


「本当かい?とても嬉しいよ!!!」


密室で男同士で手を握りあう光景を客観的に浮かべ、苦笑を浮かべた。

しかし、それよりも子供じみた要の笑顔が年齢相応に彼をみせ要と天文学の関係により一層興味が湧いた。


「しかしなぜ急に活動に参加する気になったの?あんなに嫌そうだったのに」


指摘されたくないところを言葉にされ、少し苛立ちを覚えてたが、抑える。

さり気なく要の手を引き剥がし「なんとなく」と笑いを含みながら答えた。

要は納得できず神妙な顔づきで榛介を凝視する。その視線に居心地の悪さを感じ、彼の気を逸らそうと別の話題を振った。


「そういえば、部員って何名?」


「2名」


短くそう答えた要は不服そうだった。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

プロットなしで書いてますので、思ったことをつらつらと打っています。

こんな展開にしたら面白いんじゃない等アドバイスがあったら泣くほどうれしいです。

正直、この少年たちが打ち解け合い悩みを言う段階まで持っていく自身がないです…


よろしくお願いします。


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