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5エルフの男

馬車が揺れる、御者台にはギルドの冒険者だ。老夫婦の奥さんが話しかけてきた。


「大変だったねぇ、お父さんとお母さんは無事なのかい ? あたしらは娘が帝都に住んでるからやっかいになりに行くのよ」

「そうだよぉ孫が産まれて丁度坊やくらいさ、これでもくいな~」


蒸かした芋を手渡された。エミリアと半分こして食べていると、町から出て6時間が経過しただろうか。村が見えてきた、ただおかしなことに焚火でもしているのか村が明るい。


馬車を停めると、御者台の男と皮鎧を着た男が村へ向かって歩いて行った。残ったのは若い兄ちゃんだった。そして、全員を見渡して言った。


「心配いらない、御者台にいた男は先輩だ、Dランクの冒険者で腕も立つ。いざとなったら引き返すから、落ち着いて待ってるんだ」


遠目に見ていた村は焼け落ちて、向かった男たちは朝になっても帰ってこなかった。


水や食料の補給をしなければこの先、港まで行けない。そのため迂回することもせずに村に近づくしかなかった。村の中は、屋根は燃え落ち。壁や扉は破壊されていた。人らしきものは、その原型を留めてはいなかった。


「……酷い」


誰もが口々にそう言った。ボロボロになった皮鎧が落ちていたが、中身は無かった。ロングソードを手に取った兄ちゃんがロイスに投げてよこした。


「俺は持ってるから、お前も持っとけ。無いよりかはましだろ ? 」


手渡された剣は80cmほどのただの剣が鞘に収まっている。老夫婦と若い娘あとはローブのフードを深く被った男がいた。確かに武器を持っておらず、使えそうなのはロイスぐらいだった、エミリアはすでに自分の剣を持っている。派手なローブの男は馬車から降りてこなかった。


「う、うわぁあああ」

「イヤ―」


馬車の方向から悲鳴が聞こえた。派手なローブを着た男はこちらへ逃げて来ようとした、が猪人オークと呼ばれる獣人に捕まっていた。肩口から咬みつかれ、食べられている。その隙に若い女性はこちらにたどり着いた。


『火炎連弾』


フードを目深にかぶった男が詠唱破棄で魔法を放った。派手なローブを着た男諸共、消し炭にしてしまった。その背後から、新たなオークが顔を出した。それを見た全員が北を目指して走る。5歳児の体力ではその内に追いつかれるだろう。オークの手にはクワやこん棒、ナタなど多様な獲物を持っていた。彼らが本能的に武器を手にして戦う習性があるからだ。


北の出口へと近づくと右手には森が広がっていた。オークの鼻は効く、森に逃げたとしても追いつかれて殺されるだろう。


「カンナ、頼む。獣人を倒してきてくれ」

「わかった」


言った瞬間、カンナは振り返りオークを倒していった。しかし、この瞬間にもオークはそこら中から現れ、ローブの男が魔法を当てている。少しでも生存確率を上げるために、森に入らざるを得なかった。


山を登っている、村が小さく見えるほど登った。だが安心はできない。カンナが戻ってこないということは、戦っているのだろう。できるだけ遠くに、見つからないようにエミリアの手を取って逃げる。エミリアは怒りを爆発させていた。


「はぁ~信じられないわ、せっかく休めると思ったのに。なによあの豚、ありえないんだけど。カンナさんも帰ってこないし、ここで襲われてら死んじゃうじゃない。いやよ、こんなところで死ぬなんて。もぉ、何とか言ったらどうなのよ。ロイス、あんたがしっかりしてないからこうなったんだからね」


なぜか、最終的にロイスが悪いことにされてしまった。ロイスもその勢いに「ごめん、急ぐから声落として」とだけ言って先に進む。一山越え、登山を続けていると開けた場所に出た。走り通し疲労が溜まっていたため、ここでキャンプを張ることになった。


兄ちゃんが薪を集め、老夫婦が食料を提供してくれた。若い女性は食事を作ってくれた。ローブの男は、地面に手を付くと土でできたドーム状のテントを作った。ロイスとエミリアは落ち葉を集めて、本日の寝床を作った。食器は兄ちゃんが多めに持っていたので助かった。ローブの男と老夫婦は自前で持っていた。


簡単に食事を済ませて床に就くと、ローブの男はまた地面に手を付き入口を閉じた。天井には明り取りの窓が付いている。冬が来るまえ、日本で言うところの秋に相当する気候で助かった。


朝何事もなく、入口を開けるとそこにはエルフと思われる男が倒れていた。


「どうした、獣人にやられたのか」


若い兄ちゃんが駆け寄って抱き起すと、「うーん」と唸った。テントの中に入れて葉っぱのベッドに横にした。すると、男女2人組のエルフが現れた。


「ここに、エルフの男が来ませんでしたか」

「ええ、先ほど全身から血を流して倒れているところを見つけて、ほらそこに寝てますよ」

「よかった」


安堵の表情で目で合図をした二人は、テントの中に入っていった。


「若様、帰りますよ。起きてください」


遠慮のなく揺さぶり、顔をパシパシと叩いている。


「ここは ? 私はどうしたんだろう。たしか、獣人に……ゴホッゴホッゴホッ」

「これこれ無理するでないよ、怪我人なんだからほれ干し肉のスープだあったまるぞ」


若いエルフを押しのけて婆様がスープの入った器をエルフの男に持たせると、男は一気に飲み始めた。


「ブッ、ゲホッゲホ、ヒーヒー。ゴクゴク」


熱いスープを吹き出しつつも落ち着きなく飲み干すと、話始めた。


「私はルーク。この先にあるエルフの里の長の息子だ。そこにいる男はエンダと女がミームだ近々オークとの戦闘を考えてこの周辺にすんでいるミノタウロス族を訪ねて来たのだ。助けて頂きありがとう。この礼はエルフの里で返したい、一緒に来てもらえるだろうか」


真剣な顔でロイス達の顔を見回すと、青筋を立てた若いエルフの男女が目に入る。すると「イタタタタ」といって背を向けてしまった。


「若が無事でよかった。放っておくと何をしでかすか分かったものではありませんからね」

「そうよ、どれだけ探したと思ってるの ? たまたま焚火とテントがあったからよかったものを、そのまま死んでたらどうするのですか……ぃゃ弟君がいたか」


心配しているそぶりを見せていたミームはぶつぶつと言い始めた。


「ああ弟君は優秀でお優しいからな。確かにあの方が当主になって頂けたらと毎晩考えずにはおれんよ」


エンダも本人を目の前にして酷い言い様だった。


「と―も―か―く―。私はこの通り無事だ。エルフの里に伝えに行き賜え、私もこの体では動けんからな」


若いエルフの2人は頷いて、テントの外に出た。すると、すぐに驚きの声を挙げた。


「な、ミノタウロス族だと。なんの用だ」

「ワレラ、コノ地オサメル。オマエタチ、ココカラサレ」


身の丈3mはある頭に角を生やしたミノタウロスが2体いた。手には人よりも大きな斧を持っている。獣人族でも力の代名詞とも言われる種族だ。逆らえば一瞬で粉々にされるだろう。


「待ってほしい、傷ついた者がいるんだ。里から人を呼んでくるからそれまでここにいさせてほしい」


若いエルフのエンダが叫ぶ。


「次ニ、ココデミタナラ、ワレラ容赦ハしない」


そう言って帰っていった。


「まずい、非常にまずいことになったぞ。若様を背負って逃げるか」

「そうね、そうするしかないわね。貴方たちはどうするの ? 私たちの里に来るなら歓迎するわ」


エルフの二人が逃げることで方針を決定してこちらを振り返ってきた。


「我々は北のボドン港を目指している。できれば道を教えて貰いたい」

「なら我々と一緒に来るがいい。方向は同じだ、それに礼もあるから里に寄っていくと良い」


エルフの先導によって北に向かうことが決まった。若い兄ちゃんと老夫婦、若い女性にフードの男。カンナが帰ってこない今、エミリアとロイスの9人でぞろぞろと移動を始める。


山を一つ越えた辺りで日が傾いてきた。そして、本日のキャンプとなった。流石に女性や老人、子どもがいると逃げるのにも時間が掛かる。かといって街道に出ればまた獣人に襲われる可能性があるのだからしかたない。


エンダとミームが持っていた薬草の丸薬が効いたのだろう。エルフの男、ルークは1日でだいぶ回復していた。


「お世話になっているのも申し訳ない。エンダとミームにも心配を掛けた。だから、少し狩に出かけてくる。1時間もしない内に帰ってくるから夕食は期待してくれ」


そう言って走って行ってしまった。


「若様が謝っただと、なんだ ! なにか企んでるのか」

「そうよ、この前なんか笑い茸の入ったスープを飲まされて腹がよじれて死ぬかと思ったんだから」

「お前もそれやられたのか。クソ、なんだ今度は何を混ぜる気だあの野郎」


若様と言っていたはずが、あの野郎に変わっていた。素だろうか。その場にいた全員はまずルークに食べてもらうことを決定した。


1時間後


背中に大きな牡牛を背負ったルークが帰ってきた。真っ赤な毛並みはサラサラしており、立派な角が生えていた。それを見た老夫婦や兄ちゃんは驚いて、「すげーな」「おお、立派でうまそうじゃ」などと言っている。エルフの二人も驚いた表情で固まっていた。ミームが指さして恐る恐る口を開いた。


「若様、その牡牛どこで狩ってきたのですか」

「この山の麓を探索していたらいた。立派だろう、今日は肉が食えるぞ~」

「この馬鹿野郎が !! この赤毛の牛はなぁ、ミノタウロスの神獣なんだよ。わかるか !? 神獣、神様として祭られてる生き物なんだよ」


焦った表情で牡牛に駆け寄ると、ビンタを始めた


「頼む生きていてくれ、生き返れ !! 誰か、蘇生術ができるものはいないか。クソ、いないよな。どうすんだよ。バカ若が ! 逃げるか、全力で逃げるか。だがミノタウロスとの戦争になるぞ」


真っ青になったエルフの二人と「アハハハ、ごめんごめん」と軽い返事で反省が見られない若に唖然となった一同は、凍り付いた。何時からそこにいたのか、ミノタウロスが取り囲む様に10体現れた。


「オマエラ…ソノ神獣様ヲヤッタノハオマエラカ ? 」


首を全力で横に振る一同。


「オマエカ、ソレトモ、オマエカ」


一人ずつ、詰問していくとルークの前で止まった。


「オマエカラ、チノニオイ、ガスル。オマエトオマエモダ」


エルフの3人を指差したあと、拘束していった。


「オマエタチハ、ハナシヲ聞クタメ、村マデキテモラウゾ」

「俺たちは関係ない、そこのエルフが勝手にやったことだ」


若い兄ちゃんが抗議するが、問答無用でミノタウロスの里まで連行されることとなった。


ミノタウロスの村は近かった。山の間を流れる川に沿ってできた村は、500人程度が住んでいた。こういった村がこの周辺の山に点在しているらしい。

村長の家に連れて行かれた。合掌造りの家に似ている。その中でもひと際大きな家だった。


「お前だちかぁ、うちの神獣様やったちゅ―んは」


村長は大きかった4mに届きそうかという巨体で睨まれると、縮み上がった。


「いや、我々はなにもしてません。殺したのは、ルークというエルフです」


ロイスが弁明すると、手元に置いていた酒をグビリと煽った。


「この後に及んで言い訳たぁいい度胸しとんなぁわしはこう見えてよぉ。慈悲深いんじゃ。そうじゃな―そこの二人のエルフを生贄にすれば、牛神様も怒りを鎮めるかもしれんのぉ」


視線を向けられた二人はビクっとすると、俯いてしまった。当のルークは別の場所で審議に掛けられているらしい。だが、いい結果にはならないだろう。


「よぉし、二人を牢に入れろぉ、今夜儀式をすんぞ」


そう村長が告げると、2体のミノタウロスがエルフの2人を連れて出て行ってしまった。


「儀式が終わる最後までぇこの村を離れることはできねぇがらそのつもりでいろな」


そう言うと、話は終わりだと奥の部屋へと消えて行った。残されたロイス達は、食事を提供され夕暮れまでその時を待った。


エルフのエンダとミームは悪態をついていた。あんな若じゃなければ、クソあの野郎覚えていろ。そして、その時がきた。頭に布を被せられた2人が連れてこられた村の中央広場には、木で組まれた十字に足元へ薪が積まれている、火炙りだろう。縛り付けられて、布を剥がされた。


「イヤ―――死にたくない」

「クソ―ルークの野郎化けて出てやるからな !! 」


二人の悲痛な叫びが木霊する。ミノタウロスがその周囲を取り囲み、斧の柄を地面に打ち付ける。掛け声とともに火がつけられるのを待っていた。すると、小柄なミノタウロスが踊りながら出てくる。頭から緑のカツラを付け鬼の面をつけていた。頭には立派な角を生やし、手には松明を持っている。あの小柄なミノタウロスが火をつけるのだろう。


踊りも周りのミノタウロスも最高潮に達した。いよいよ火が付けられる。松明を掲げた。

足踏みと斧によって大地が揺れる。

すると、仮面をつけたミノタウロスが仮面を投げ捨てた。






「うっそでした―ギャハハハ、死ぬと思った ? ねぇ死んじゃうと思った」

「え、どういうこと ? 誰か説明しろ」

「え、え、若様私、まだ生きていられるの」


状況を飲み込めない二人から困惑の声が上がる。茫然としたロイス達も、今起きたことにどう反応していいのか分からずその光景を眺めていた。すると、村長のミノタウロスが出てきてルークを担ぎ上げた。


「ガッハッハ、やりましたな若様。いい顔してますぞ、ダーッハッハッハ」


要はミノタウロスとルークはグルだったのだ。後で聞いた話によると、神獣は赤牛の雌であり、雄はありがたく食べる風習だそうだ。しかし、騙された二人の心中は怒り心頭だろう。


「この野郎、嘘だと騙しやがったな。クソ解けない、今すぐ貴様の息の根を止めてやる」

「うきゃ―、騙された―もぅ、もぅ許さないんだから」


目で射殺さんとして睨みつける二人を前に、ミノタウロスの人々とハイタッチをするルーク。

すると、ブチ、ブチブチと音がすると、エンダが縄を引き千切った。手からは血がポタポタと落ちている。


「ルーク、許さん」


鬼の形相になったエンダがルークへ走っていく。それを見たルークは走って森に消えて行った。赤牛の宴会が始まって、牛肉を堪能していると、ルークを引きずってエンダが現れた。

その後、エンダとミームにボコボコにされたルークと共に宴会を楽しんだ。


翌朝、エルフの里へ向けてエルフ達と共に出発する。ミノタウロス族とエルフは同盟を結ぶことができたようで。村長も一緒にエルフの里まで来てくれることとなった。



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