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3紳士と少年と少女


 帝国魔術学園、5年間通うこの学校は、魔法、剣術、高等算術、生物魔獣学、薬学、医学…etc

ありとあらゆる学問が一極集中している学園だ。魔法を学ぶにはいい所だろう。

優秀な成績を残せば、宮廷魔導士、騎士、そのほかにもDrテイマーや薬師、医者になるための試験が受けられる。入学できただけで、町の衛兵やギルド職員は確定のおいしい学校だ。


翌日、朝ごはんを食べたロイスは、ズタ袋にパンと干し肉を入れて意気揚々と家を出た。カンナは母と買い物に出かけてしまった。娘ができたと喜んでいるようだ。


学園に通えれば、天空の浮遊島への行き方も分かるだろう。この町には図書館がない、行商人が売る本はどれも高いものばかりだ。


学園には図書館で調べる他に研究棟と呼ばれる、学内派閥による独立研究所があった。その数は数百とも言われ、浮遊島の研究もされているに違いない。と、ロイスは考えていた。


学園に通うために魔術師ギルドを訪れる。入口がない、いや、玄関らしい場所はある。扉はとってのない壁だった。既視感で周囲を探るがパネルは無かった。ペタペタと壁を触ると、体内のマナをほんの少し吸われる感覚に手を離そうとした。が、壁が揺らいで前のめりで壁をすり抜けてしまった。


「っとっとっと、お ? 」

「いらっしゃいませ、今日は可愛い坊やが来たもんだ」


黒の燕尾服を着た紳士がいた、モノクルを付けている。短く刈りそろえられた髪に切れ長の目、取って食われそうだ。目が獲物を見つけた猛獣のように光っている。


「えっと、ここが魔術師ギルドで間違いないよね」

「ええ、ええ、そうですよ。ここは魔術師ギルド、相手を消し炭にするのも、魅了の魔法で虜にするのも思いのまま。坊やはどんな魔法が使えるのかな」


 ぐいっと顔を覗き込んで、モノクルを調節しながらニンマリと笑った。


「おやぁ、おやおや~坊やは召喚魔術師なのかな~立派な魔法陣を持ってるね。召喚獣はどこかな~家かな~見たいな~伯父さんに見せて欲しいな~」


部屋の一角にある机と椅子まで行くと、おいでおいでと手招きをしている。一瞬の早業でアメを出し、クッキーを出して、紅茶を淹れ始めた。この間瞬き3回ほどだ。


「なんで分かったのさ ! カンナは連れてないんだぞ !」

「ほぅ、やはり召喚士。珍しい、素晴らしい、ささ、お茶が冷めない内にどうぞ。本日はどういったご用件でしょうか、お聞かせください召喚士様」


ロイス独白してしまう。やはり5歳児は年齢には勝てなかった。そして、得意げになったロイスを止める者はいない…ロイスが机につくと、紅茶が注がれクッキーが取り皿に盛られた。目の前のクッキーを手に取ろうとして、固まる。


「帝国魔術学園に入学したいのですが、入学試験はどうやって受けたらいいですか」

「おやぁ、その歳で学園生になろうとは、素晴らしい、実に良い。入学試験は年1回帝国の首都の学園内で行われます。今年は後3か月後に予定されているので、今から向かえばギリギリ間に合いますな」


両手の指同士を付けたり離したり、落ち着きなく座っているが、目はロイスに釘付けだった。ロイスはピョンと椅子から飛び降りると、入口に向かった。


「ちょっと、ちょっと待ってください。私に召喚獣を見せて貰えませんかな。どんな魔法でも構いません、私の趣味は愛でること。魔法を見て記憶に焼き付ける。これが生きがい、やめられませんな」


体をブルリと震わせ、ロイスの行くてに立ちふさがるとニタニタと笑い出した。


「珍しいぃぃい、召喚魔法。ハァハァ、見たい触りたい、確かめたい。さぁここで出しなさい、でないとここから帰れませんよ」


欲望に染まった顔はだらしなく歪み、鼻息荒くロイスに詰め寄った。


「わ、わかりました。これ以上近寄らないで、あ、どこ触ってるんですか。やめて、ヤメロー」


完全に目的が変わりつつある紳士から必死に逃げて、片膝を付くと地面に手を触れた。手の平から光の点が床に落ち、広がり、魔法陣を形成してゆく。それは、転写された魔法陣だ。記憶された魔法陣を魔力で世界に転写。そして、魔法を使う。それが召喚士であり儀式魔法師だった。室内に広がっていく、這うように壁まで達した時魔法陣の中央から一人の少女が現れた。麦わら帽子にワンピースを着たカンナだ。


「主様、どう ? お母さまが買って下さったのです」


ニコニコしながら、スカートの両裾をちょっとつまんでお辞儀をした。


「可愛いよ、カンナはすごいね」


内心汗をかきながら、誉め言葉を捻り出した。ここで選択を間違えれば、二度と普通の生活には戻れない、そんな気がした。


パチパチパチ、軽い拍手が部屋に鳴り響く。


「素晴らしい、今日は何て良い日だ。召喚士の少年だけでなく、召喚獣の少女とは。知っていますかな ? 召喚獣は獣であって人ではないのですよ ? 」


クツクツ、と嗤い手に黒いステッキを持っていた。どこから ? いつの間に ? そんな疑問を考えていると紳士が詠唱を始めた。


「我は求める、力、欲望、嫉妬、狂気、混沌として流れ込め、我は求める混沌の闇を、真なる恐怖を…ぐふ」


カノンが詠唱を最後まで待ってくれるわけが無かった。蹴り飛ばされた紳士は奥の扉を突き破り、部屋に消えた。


「で、主様買い物の続きがしたい」


ロイスはコクコクと首肯すると魔術師ギルドを後にした。


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