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プロローグ

大学に通ってもう3年になる。来年には卒業して就職しなければならなかった。単位もぼちぼち、たまに教授に土下座をしてもらっている。毎日が休日最高じゃないか、現地集合で海へ遊びに行く途中、黒い車に煽られた尼崎 小太郎は土手沿いの側道へ減速せずに突っ込んだ。ふわりと内臓が浮く感覚の中、目の前にコンクリートの壁を見た。


気が付くと水面を漂っていた。空は紫がかった雲が流れて行く。眠たい、このまま沈んで行けば楽だろう。空を眺めていると頭の上から声が降ってきた。


「 何やってるの ? どうしてここにいるの 」


必死に目を向けるが顔が見えない。女性だろうか、甘い匂いがする。


「 気が付いたらここにいたんだ、ここはどこだか知ってる ? 」


クスクスっと笑った彼女は、優しく頭を撫でる


「 知らなかったのね、ここは世界の果て。たどり着けるのは人ならざる者、あなたぁ死んだのね 」


またクスクスっと笑って、頭を撫でる。ああ、死んだのか。腑に落ちた。ああ、そうか終わったのか。あのまま就職して、会社務めたら出世したのに残念だ。ああ、本当に残念だ。小太郎の頬を一筋の涙が伝う。


「 あなたぁ生きたいですか ? このまま無意識に飲まれて消えますか ? 世界に溶けて、同化して、全体の一部になりたいのですか ? 」

「 生きたい。まだ成功してない。お金を稼いで遊びたい、もっと生きていたい。消えるのは寂しい 」


声の限り叫んだ、だが声にならない声、消え入りそうな声で精一杯答える。


「 いいわ。私の世界でいいなら招待するわ、また死んだらどんな人生だったか教えてね 」


体が水面から浮上する。空に高く、高く昇っていく。今なら彼女の顔が見えるだろうか。白いフードを被った彼女の顔が見えない。またここに来れる、なぜだか分かる次は必ず彼女の顔を見よう。体が空に溶けて消えていく。


目が覚めた、ベッドの柵が見える。目が悪いのか遠くが見えない、視認距離は50cm程度だろう。眠い、意識が溶けていく。


また、意識がはっきりする。頭が痛い割れそうだ、熱が出ているらしい寒い、寒い、寒い。次に襲ってきたのは、体が焼けるような灼熱感だ。体が痙攣する、このままではまずい。また意識を手放した。


頭痛は続いている。空気が重い、一呼吸するたびに肺が持っていかれるようだ、必死に息をする。焼け付くような空気が肺に入って生きていることを実感する。


そして、意識がはっきりすると椅子に座らされていた。目の前には若い男が座っている。若い女が笑顔で近づいてきた。ドロドロの食べ物を口に押し入れてくる。吐きそうだ。だが体調が戻らない、必死に食べた。生きるために食べた。


歩けるようになった、目線は80cmほどだ。手を開いて握る、ちゃんと動く。片足で立つ、するとバランスを崩して尻もちをついてしまう。まだ立つのは難しい。手で壁を掴んでたって歩く。目的地は本棚だ。ここがどこで、あの二人は予想が付くが誰か。知りたいことは山ほどある。手に取った本を広げてみる。読めない。知らない文字だ象形文字、表音文字だろうか。若い女が慌ててこちらに走ってきて取り上げる。


「 ロイスちゃん、これを読むには早いかな~ 」


自分はロイスというらしい。読むか、読んでもらえないだろうか


「 ん、んー ! よむ、よぉーむ 」

「 まぁ、1歳になったばっかりなのに喋ったわ。ふふふいいわ。これは魔法書だけど読んであげる、いらっしゃい。 」


若い女に抱きかかえられると、ソファーに座って読み聞かせが始まった。この世界には魔法がある。火や水をつかさどる炎冷魔導士のドラゴンとの死闘、生と死を司る神聖魔導士闇落ちした神聖魔導士がネクロマンサーとなって死者の平原を飲み込んだ話、空気中の魔素を操り物に宿したり人に魔法をかける付与術師が人類軍全体へかけた魔法で魔獣を退けた話などが有名だ。だが、生まれながらの適正によって方向性が決まってくる。使える人間は1万人に1人、さらにその人、それぞれが違う魔導士だった。


だから本を読むだけでは使えるようにならなかった。適正のある魔法を方法と目的を持って使いたいと考えた時に頭に言葉が浮かんでくるらしい。天啓とよばれていた。その天啓は一度降りると何度でも使えるようになる。それ以降はその系統に従って、方法と目的を探していけばいい。死ぬまで見つけることができない人間もいるだろう。


辞書のように分厚い本の読み聞かせを毎日せがんだ。本が欲しいと必死にアピールすると、「 もうしょうがないわね~誰に似たのかしら。 」と言って本を手渡してくれた。内容を理解するのに2年が必要だった。最初はこの世の魔法についての記述。魔法を初めて使った、始まりの人。それから魔法文明の隆盛、王国の滅び。魔法技術の発展。同じ魔法が使える人間がいなくなり滅んでしまった話。そのため、未だに剣と盾で殴り合いの戦争が絶えないし、それぞれの魔法を撃ち合い攻略する技術が発展していった。


ここ、城郭都市ザンバテールもそんな魔法から守るため高く、分厚い壁で守られていた。いつの時代かは分からないが魔法無効化の『土地の守神』と言う魔法がかけられている。都市の中心にある、城の屋根から生えた一本の巨大な剣に付与されて、このザンバテールを守っている。この本は魔法図鑑としても使えた。


 そして、一番目を引いたのは召喚魔法と儀式魔法だった。誰しも魔法陣を書いたりした記憶があるはずだ。いや、無いわけがない。自分だけの黒歴史というのも寂しいので全員書いたことがあると仮定する。杖を使って地面に書かれたそれは、時には火炎の渦を作り出し、時には妖精を召喚しただろう。本にも見本の召喚魔法陣や儀式魔法陣が書かれていた。


今こそ、この家の外にでて、世界を見なければならないだろう。「士別れて三日なれば刮目して相待すべし。」 だ。炊事場の横を抜けて、大きなサンダルを履く。庭は土を押し固めたような赤土に切株と斧が刺さっている。

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