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もう一度、僕たちの空を  作者: 浦風晴斗
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第6話 縮む距離

 観客席から見る決勝戦。由乃vs海斗の戦いは翼を持つ者同士なだけあって熾烈だった。お互いに得意とするレンジが違う以上、どちらが得意な距離に持っていくか…そこが勝負の分かれ目だ。

 正直、由乃は一度クロスレンジに入られたら海斗の攻撃を凌ぐことは難しいだろう。フォトンソードを使うようになったとは言え、由乃のクロスレンジ戦闘は補助的なものに過ぎない。元々クロスレンジでの戦いを得意とする海斗を押し切れるほど技術も経験もない。

 だから、由乃が二本目のフォトンソードを出した時には本当に驚いた。僕は一本しか渡していないので、あの一本は由乃が自分の意志でパーソナルウェポンに登録したということになる。

 あまりに無謀な選択だ…そう思った。アウトレンジが得意なら、どうにかしてそれに持っていく技術を磨くのが一番いいはずだ。苦手な戦闘を無理にこなそうとしても、絶対にボロがでてやられてしまう。


「そんなに神山が心配か?」


「隊長…」


「まあ自分の見習いだからな、無理もない。だがな悠、指導員が教えたことが全てではない。見習いは見習いなりに自分で考えて強くなろうとする。神山もそうだ、彼女は訓練が終わってからもずっと研究を重ねていた。去年の私達の戦いを何度も見てな。悠、あの太刀筋、どこかで見たことはないか?」


 目を凝らして由乃の太刀筋を見る。最初はただ振り回しているだけかと思ったけど、その太刀筋には見覚えがあった。


「スターライトライザー…」


「そう、彼女は彼女なりに強くなっているんだ。もちろん、君の教えたことは間違ってない。それでも、彼女の考えの中にはどうしても二刀流が必要だった…というわけさ。」


 隊長の言葉を聞いて、僕は黙り込んでしまった。僕は知らず知らずの内に由乃に戦い方を押し付けていたのかもしれない。

 由乃には由乃の戦い方がある、だったら、僕はそれを信じてあげなきゃいけない。それが由乃なりの強さなんだから。


「しかし、これで7人揃ったか。訓練中では一航戦に配属させることは出来ないが…なんとかしよう。」


「ついに、使徒と戦うんですか?」


「今までにない好機なのは間違いない、だが経験の浅いあの2人をどうするか…後日話し合う必要があるな。そんなことより、見てなくていいのか?」


 隊長の言葉にはっと会場を見ると、由乃が押されながらもどうにか翼の能力を発揮させたところだった。

 僕も一度しか見たことがない、由乃の能力「フルバースト」。あの時はゆっくりとした動きで見せてくれたが、今は乱舞という言葉がぴったりだ。

 射撃のオンパレード、宙にいる海斗もどうにか避けてはいるがライフゲージはどんどん削れていく。

 そして、由乃は、あれを出した。

 「大和の再来」そう言われる所以の代物、46cm三連装砲の砲口が海斗を捉えた。

 1門46cm、全6門から放たれる光の奔流は、会場を大きく揺らして少しずつ細くなっていく。

 由乃の体力が持たなかったのか、それとも十分のエネルギーが残っていなかったのか定かではないが、放たれたビームは5秒ほどで消えてしまった。だが、トレーニングモードとはいえあれをまともに受けて立っていられる人間はそうはいないはずだ。

 そう思った矢先、会場を歓声が包んだ。

 ライフゲージを数ミリだけ残し、海斗はまだ立っていた。その手は剣をしっかりと握っているが、立っているのがやっと、というように見える。

 一方の由乃は、フルバーストの反動によって火器が使えない。唯一使えるのは2本のフォトンソードだけだ。

 あの砲撃をくらってもなお立ち続ける海斗に驚きを隠せないようだが、由乃はフォトンソードを1本だけ抜き去ると、両手で構え、海斗と睨み合う。

 残りゲージから見て、海斗の攻撃が当たる前に当てれば由乃の勝ち。だがクロスレンジが得意な海斗であれば由乃の攻撃を避けて当てることも出来るだろうし、由乃のガードごと崩してくるかもしれない。

 次で決まる、そう思うとこっちまで緊張してしまう。張り詰めた空気の中、二人が動いた。

 海斗は剣を下に向け、逆袈裟斬り(ぎゃくけさぎり)の構えで猛然と走り出す。あれだけの砲撃を受けてまだ戦えるのだから、それだけの強さを持っているんだろう。

 相対する由乃は静かにソードを引いて、突きの構えで踏み込む。リーチの長さでいえば由乃の方が若干有利だが、狙いが少しでも外れれば海斗の剣の餌食になる。

 お互いの距離が少し縮まる、その時だった。

 踏み込んだ由乃は前へ傾き、そのまま地面に倒れ込んだ。程なくして、試合終了の笛が鳴り響く。


「決勝戦、勝者、成宮海斗!!」


 会場を歓声が包む。それにはこの戦いを制した海斗と、最後まで諦めずに立ち向かった由乃への称賛の声が両方とも混じっていた。

 どうにか自力で立ち上がった由乃は、応急処置班の人に連れられて会場から去っていく。その間、一度も僕の方を向くことはなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 大会終了後、僕は大事をとって医務室で休んでいる由乃のもとを訪れた。


「…由乃、入るよ。」


 白いカーテンを開けると、ベッドに腰掛ける普段と変わらない由乃の姿があった。


「先輩…負けちゃいました。」


 けれど、その声には元気がない。笑顔だけど、心から笑っているいつもの由乃じゃなかった。

 僕は由乃の隣に座ると、横顔をじっと見た。


「…ごめんなさい。」


「なんで謝るのさ。」


「だって、あたし…勝手に…」


「もう1本フォトンソードをパーソナルウェポンにして二刀流にした?」


「…」


「ヨンロクを使っても海斗を倒せなかった?」


「…あたし…先輩に教わったことを何一つ出来ずに、自分勝手に…」


 由乃の肩が少し震えている。白い検査着のせいか、普段よりか細く見える由乃の体。

 僕はその体を静かに抱き寄せる。


「先輩があたしの得意なアウトレンジを伸ばそうとしてくれてるのに、あたしは勝手に違うことをして、それにヨンロクを使っても勝てなくて…最低です。」


「…戦い方は一つじゃないよ、由乃。それに僕のやることが全部正しいわけでもない。僕は、自分の勝手な思いを、由乃に押し付けていただけなのかもしれない。」


 僕は体の向きを変えると、由乃を抱きしめる。決勝の前に、由乃がそうしたように。


「先…輩…?」


「僕が由乃のアウトレンジ戦法を伸ばそうとしたのは、それが得意だからってだけじゃないんだ。…戦いに出れば、どうしても傷つくことがある。だけど僕は、由乃にそうなって欲しくなかった。後ろにいて、サポートだけしてくれていれば、由乃が傷つくこともない…だから僕は前に出るような戦法を教えなかった、いや、教えたくなかったんだ。」


 初めて漏らす、僕の本当の気持ち。由乃に出会って、今まで一緒に訓練をしてきて、そしていつかは同じ一航戦として戦う仲間になる。それだけじゃない感情が、僕の中にあった。


「僕は、家族を空で失った。幼馴染を失いかけたこともある。…だから、怖かったんだ。今度は由乃を失うんじゃないかって。」


 黒の日の前日、旅客機が不可解な墜落事故を起こした。犠牲者の数は多くはなかったが、その中には僕の家族が含まれていた。空を飛ぶ事が失うことになるなら、翼を持つ僕がみんなを守らないといけないと思った瞬間だった。


「そんな僕の弱さが、由乃を追い詰めていたのかもしれない…謝らなきゃならないのは僕のほうなんだ。」


「…それでも、先輩はあたしを強くしようとしてくれた。それにちゃんと応えられなかったのは、あたしがまだ弱いから。先輩の気持ちもわかります、でもあたしは先輩がそんな心配をしなくてもいいような存在になりたいです。」


 由乃がそっと僕の背中に腕を回して、抱きしめてくる。


「あたし、もっと頑張ります。だから、もっともっと強く…先輩と、同じ空を飛べるようにしてください」


「僕に出来ることは、全部やるよ。…頑張ろう、由乃。」


「はい!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 僕が医務室から出ると、待っていたかのように桜がいた。


「様子はどう?」


「大丈夫だよ、負けたのは悔しいだろうけどね。それでも、これからの励みになったんじゃないかな?」


「ふーん………」


「な、なんだよ。」


「別にー、なんでもないわよ。そうそう、隊長から召集がかかってるの。多分あの二人の事についてだと思うけど…」


「翼を持つ者…だもんな。」



 1時間後、会議室へと集まった一航戦の面々は神妙な面持ちだった。


「まあ座ってくれ。今回集まってもらったのは他でもない、今後の一航戦の話だ。」


「まさか揃うなんて思ってなかったっすよ~。」


「とはいえこれは大きなチャンスだ、雅哉。」


「はい、では僕の方から説明させて貰いますね。」


 工藤副隊長は立ち上がると、スライドに一枚の写真を写した。


「先ほどの決勝戦、見た人がほとんどだとは思いますが、あの二人は『翼を持つ者』でした。これで7人全員が自らの意志で戦うために揃った、というわけです。しかしながら彼らが訓練生の立場である以上、今すぐに一航戦へ配属させるわけにはいかない。かと言って、訓練期間が終わるまでに使徒がどう出てくるのかがわからない。そう言った状況です。」


「訓練期間を伸ばしたのが仇になったってことかよ。」


「上もこんなに早く揃うとは思ってなかったのだろう。」


「でも、どうするんですか?」


「今のところ、打開策は見つかっていません。使徒の攻勢も徐々に強くなっている以上、焦って訓練を終わらせて経験が少ないまま航空戦隊に入れるわけにも…」


「…現状では、隊員達の装備強化を重点的に行うしかないってところか。」


「そういうことです。」


「…今は焦っても仕方ない、悠と桜は今まで通り訓練を行ってくれ。ただし、時には休息も必要だ。というわけで…」


 隊長はおもむろにポケットから紙を取り出す。それは、何かの招待券のようだった。


「竹原の近くに、大型の室内プール施設がオープンしたらしい。なんでも、この辺りでは最大級の規模だそうだ。ちょうどよく招待券が4枚あってな…。」


「行っていいってことですか!?」


 食いついたのは桜だ。


「まあ、そうなるな。」


「やったーー!」


 桜は飛んで喜ぶ。ACFに入隊してからというもの、ほとんど遊びに行く機会がなかったのだ。


「やったね悠!久しぶりに泳げるわよ!」


「桜は本当に泳ぐの好きだよな…」


 僕は隊長から招待券を受け取り、ポケットに仕舞う。4枚ということはあと2人誘えるわけだが…


「由乃と海斗も連れていこう。」


「そうね、私達だけで楽しむのも悪いし。」


 桜は海斗の分の招待券を受け取ると、踵を返して部屋から出て行ってしまった。


「ちょ、まっ…まだ会議終わってないだろ…」


「別に構わんさ、現状についての話は出来たからな。さて悠、行く日が決まったら一応私達に教えてくれ。何も連絡が行かないよう手配する。」


「了解です!」


 何はともあれ久しぶりのオフに、僕の気持ちは段々と高まっていったのは言うまでもなかった。

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