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もう一度、僕たちの空を  作者: 浦風晴斗
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第1話 蒼翼の少年

「現時刻をもって、ACF第5期訓練を終了する!明日より各隊での任務および追加訓練にあたることになる。いいか、これは終わりではない、お前達の戦いはここから始まる。」


 講堂に響く凛とした声。第5期指導担当でACF第1期訓練生の最優秀卒業生、かつACF最強と(うた)われるその女性‐桐谷梓の声は静かに、それでいて適度の興奮をもっていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 空戦機動部隊‐Air Combat Force‐、通称ACF。6年前、空を支配した使徒に対抗するために設立されたその機関は、高校入学の年から入隊を認められ、1ヶ月の訓練を経てそれぞれの所属する隊で対使徒任務をこなす政府直属の機関だ。

 使徒に対しての知識が依然として少ないことから、主だった任務は使徒の情報収集で、ACFの攻撃的中心を担う第一航空戦隊(一航戦)と第二航空戦隊(二航戦)には戦闘訓練で優秀な成績を修めた者が集中的に配属される。


「とは言え、現時点で使徒に対する決定的な切り札があるわけではない。お前達も任務中、使徒に遭遇する場面はあると思うが、無茶をして命を落とすことだけはするな。ACFは軍隊ではない。では、これより各配属先を発表する。」


 訓示を終え、静かに第5期訓練生、総勢20名の配属先が発表されていく。

 訓練を終えたばかりの隊員は、戦闘慣れしていないことから偵察や輸送任務が主の第四航空戦隊(四航戦)・第五航空戦隊(五航戦)への配属がほぼ確定事項になっている。だが…


「訓練生番号13、篠宮悠(しのみやゆう)、第一航空戦隊所属とする。」


 配属先が決まり、解放感に浸り始めた同期達が一斉に僕を見るのが分かった。


「一航戦…?」


「訓練明けすぐにだぞ…」


「あいつ、そんなに成績優秀だったか?」


 そんな声を背に、僕は静かに証書を受け取って階段を下りる。その後はまた四航戦や五航戦のオンパレードだ。


「訓練生番号18、浜野桜(はまのさくら)、第一航空戦隊所属とする。」


 再び、信じられないという空気が講堂を包んだ。そう、本来ならありえないことなのだ。

 これまでを振り返っても、どんなに成績優秀であっても二航戦が一人いるかいないかくらいなのだ。それなのに、今期は一航戦に二人。

 なにか細工をしたのではないか…そう見られても不自然ではない、ましてやその二人は幼馴染なのだ。


「…以上、第5期訓練生配属先発表を終える。今回は一航戦に二人が配属されるという今までにない事例となったが、こういうこともあり得るという、我々にとってもいい訓練生達だった。最後に、お前達の武運長久を祈る。」


 その一言で、第5期訓練は幕を閉じた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の日、僕と桜は第一航空戦隊の会議室にいた。


「なんか落ち着かないな…」


「しゃきっとしなさいよ」


「わかってるよ…」


 訓練生が訓練明けで即一航戦配属ということもあって、歓迎式が盛大に行われているところだった。

 そのアットホームな雰囲気に若干驚きながら、出される料理(といってもお菓子が大半)を食べていると、桐谷隊長が二人のもとにやってきた。


「篠宮悠、浜野桜、君達の配属を心から歓迎する。隊長の桐谷梓だ。…まあ名乗らなくてもわかっているとは思うがな」


 微笑みながら、隊長はすっと手を差し出す。

 その手を握り返しながら、僕は一応の自己紹介をする。


「本日より、ACF第一航空戦隊所属となります篠宮悠です。よろしくお願いします。」


「同じく、ACF第一航空戦隊所属となります浜野桜です。よろしくお願いいたします。」


「訓練では大変なことも多かっただろう。だが、それを乗り越え、結果を残したから今があるんだ。その頑張りは誇りに思っていいぞ。」


「んなこと言って、厳しくしてたのは隊長じゃないんですか?」


「龍一、お前は本当に口が減らないな。後片付けは全部任せるとするか」


「うへぇ、嘘ですって隊長ー!」


 年は隊長より少し上くらいに見える佐藤というその男はハハハと笑いながら僕達を見る。


「俺は佐藤龍一(さとうりゅういち)。今年で19だから…お前達より3つ上か。ま、そこは気にするところじゃないな。気軽に龍一って呼んでくれ。」


 差し出された手には、お菓子が一つ。


「食べていいんですか?」


「おう、食え食え。お前達も含めて5人しかいない寂しい隊だが、こういうのは一番盛大にやるんだ。ほれ。」


 そう言って桜にもお菓子を差し出す。


「龍一、うれしいのは分かったから少し落ち着け。」


 龍一さんの背後から、メガネの男性が顔を出す。


「んなこと言っちゃってよー、準備で一番張り切ってたのはおめーじゃねーか。」


「…うるさい。おっと、自己紹介がまだだったね。僕は工藤雅哉(くどうまさや)、ここでは副隊長をしているよ。龍一とは同期なんだ、よろしく。」


 副隊長はそう言うと、ジュースを差し出す。


「何度も聞いてるとは思うけど、訓練明けで一航戦配属なんてほとんどないから…あ、隊長は例外だけどね?期待されることも多いだろうけど、最初から気張っちゃうとあとで辛くなるから。リラックスリラックス。」


「あ、はい。ありがとうございます。」


「悠、少しいいか?」


「はい、なんですか?」


「さっそくで悪いんだが、悠、君の実力を彼らに見せたい。そこで、私と君で模擬戦をしたいと思うんだが…どうだ?」


「それは…別に構いませんが…」


「よし、では30分後に模擬戦会場に集合だ。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どこから噂が流れたのか、模擬戦会場には一航戦のみならず、ACFの隊員達が多く詰めかけていた。


「緊張しているか?」


「はい…」


「今ある全力を見せてくれるな?」


「いきます!」


 僕と隊長は同時にフライトユニットを展開して宙に舞う。

 フライトユニットは、ACFが開発した対使徒用兵器で、推進用ユニットを中心に翼があるものが一般的な形だ。それ以外に「パーソナルウェポン」という、使用者専用の武器も展開可能で、僕は特殊な2本の剣と1丁の銃をパーソナルウェポンにしている。


「やああっ!」


 隊長の持つレーザー刀の一閃をしゃがむように避け、僕も剣を振るう。


「いい太刀筋だ、やはり一航戦に配属されるだけのことはある…だが!」


 フライトユニットから放たれた機銃を大きく距離を開けて避ける、しかし、避けた先には隊長が待ち構えている。


「全力を見せないと、君の真の力をここで見せなければ、一航戦の配属を疑問に思う者も出てくるぞ?」


 背後からの一閃、普通なら避けてもダメージは受ける距離だ。

 だけど、僕はその一閃を剣で受け止めた。重い一撃に腕ごともっていかれそうになるが、なんとかそれを耐える。


「隊長は…それを知っていて、模擬戦をしようと言ったんですね…?

「どうして君がその力を持っているかは分からないが、それも実力といったところなんだろう。」


「…わかりました、いきますよ?」


 僕はそう言うと、小さく呟いた。


「魔法陣、展開」


 すると、僕の手の甲には小さい水色の魔法陣が現れ、フライトユニットは水色に光る翼へと形を変える。

 それに呼応するかのように、剣と銃も水色の光を帯びていく。


「シュート!!」


 銃のトリガーを引くと、実弾ではなく水色に光る弾が発射される。

 僕はトリガーを連続して引きながら構えた剣を振るう。


「蒼の翼…それが君の力なのか…」


 さっきとは打って変わって防戦一方となった隊長だが、その声にはまだ余裕があった。

 大きく距離を開けながら、空を舞って刃を交わす。時には魔法弾をばらまくように撃ち、僕はだんだんと隊長にダメージを与えていく。


「次で、決めます。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おもしろくなってきたな…」


 観客席では雅哉と桜が二人の戦いをじっと見ていた。


「それは、どういう意味ですか?」


「悠くんの力、あれは隊長のに似ているんだ。やっぱり色が近いからかな。」


「それはどういう…」


「桜ちゃん、君は悠くんと幼馴染なんだろう?ならば知っているんじゃないのかな。悠くんの秘められた力…彼が空を望む理由が。」


「お父さんにもらった一枚の航空写真がきれいだったから…って本人は言ってます。」


「そう、その気持ちがきっかけになっているんだ。僕も、そして隊長も同じだから」

「……」


「君もそうなんじゃないのかな?」


「この戦いが終わったら、私と悠にちゃんと説明してくれますか?」


「もちろん、隊長は最初からそのつもりだよ」


 ニコっと微笑みながら、雅哉は空を舞う二人を見る。


「これで、5人か…」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次で決めると言ってしまった以上、もう引き下がることは出来ない。


「隊長、僕自身この力はわからないことだらけなんです。どうして僕にこんな力があるのか、僕だけじゃなく、桜にも…。」


「これが終わったら、わかることも増えるよ。だから今は…来い!」


「いきます!!」


 僕は銃を腰のホルスターにしまうと、鞘からもう一本の剣を抜く。眩いほど白い剣と水色の剣を1本ずつ両手で構え、大きく翼を羽ばたかせる。

 今までにない速度で隊長に接近した僕は、その勢いのまま2本の剣を乱舞させる。白と蒼の二刀で交互に、また同時に斬りつけ、最後は回転斬り。そして振り向きざまに白刀をしまい銃を取り出す。


「スターライト…ライザー!!」


 銃口からまっすぐ光の奔流が伸びていく。その光は隊長を飲み込み、模擬戦会場を大きく揺らした。

 土煙と静寂がその場を包む。僕は銃を構えたまま、土煙が晴れるのを待った。

 刹那、背後からの殺気を感じ取って剣を振るったが、遅かった。

 隊長の剣が僕の剣を弾き飛ばし、そのまま地面へと突き刺さる。腰の白刀を抜いて応戦しようと構えるが、隊長の動きの方が早かった。


「悪いが、私の勝ちだ。」


 隊長の蹴りが僕の体を捉える。薄れていく意識の中で見た隊長の背中には、紫色の翼があるように見えた。

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