第18話 覚醒、そして
部屋に響く轟音、あたしはその音で目を覚ました。
「そっか、あたし…」
少し前の使徒との戦いで連れ去られた後、あたしは「ナハト」の中枢にずっと捕らえられていた。
期限は2週間、それを過ぎればあたしは殺される。どこを飛んでいるか分からないナハトを探すのにみんな苦労しているんだろう。
「……何、この音は?」
あたしは瞼を開く。今までの白い壁…ではなく、何かかがぶつかり合って生まれた光が目に入る。
「先輩!?」
光の先には、「大和」から砲撃を放つ先輩がいた。砲撃の先にいる黒い影は恐らくゼロなんだろう。
どうして先輩が「大和」を使っているのかはわからない、けど助けに来てくれた喜びと、負けてほしくないという想いを胸に、あたしは轟音の中に向かって叫んだ。
「先輩、負けないで!!」
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「先輩、負けないで!!」
僕の耳に、由乃の声が響く。由乃の方を向くと、そこには力強く僕を見つめる由乃の姿があった。
「やってやる、やってやるさ!カートリッジリロード!!」
僕は「大和」に搭載されたカートリッジシステムを発動させた。
由乃の翼の力がこもったカートリッジが、「大和」にさらなるエネルギーを与える。
「ぶち抜けーーーー!!!!」
ゼロに防がれていた砲撃は、威力を増してゼロ自身を飲み込んでいった。
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「先輩、負けないで!!」
この声、ようやく眠り姫が起きたようだ。とはいえ現状ではあの二人に勝ち目はない。どこかのタイミングで彼女を解放してボクは離脱するとしよう…
そう考えていたのだが、急に砲撃の威力が上昇した。
「なんだこの力はっ…」
どうして「蒼天の翼」が「紅の翼」専用の能力を使っているのかは分からない。だが普段使えないモノを使っている以上、使用者への負担は大きいハズだ。なのにこんな力をまだ秘めているというのか…
ボクの「漆黒の翼」は完全でないとはいえ、7色の翼の全能力を使える最強の翼。「宵闇の衣」は「藍の翼」の防御能力を応用した強力な盾のハズ…
「破られるっ…」
無駄なダメージを負うわけにはいかない。ボクは衣が消えるギリギリのタイミングで体を逸らし、どうにか直撃を免れた。
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「大和」からの砲撃が終わる。あれだけの威力の砲撃を喰らってノーダメージなはずはない。僕は反撃を予想し白雪を構える。
煙が晴れると、そこには右腕を押さえながら立つゼロの姿があった。
「倒せなかったか…」
「すごい砲撃だったね、どうしてキミが「紅の翼」の能力を使えたのかわからないけど…見たところキミの消耗も激しそうだ。」
ゼロの言う通り、「大和」にほぼ全部の魔力をつぎ込んだせいで僕はフラフラな状態だ。桜も十分戦えるほど体力が残っているわけじゃない。由乃を助けるという第一の目的が達成されてない以上、ゼロを深追いするのも無謀だ。
「後を追われるのも面倒だ。姫を返す前にもう少しだけ痛めつけておくよ。」
ゼロはそう言うと、一瞬で桜に近づき剣を振るう。
桜は距離を取ってビットで応戦するも、十分な魔力を放てないビットはゼロにダメージを与えることができない。
「さようなら、翡翠の翼。」
無慈悲に振られた剣が、桜の上半身を捉えた。
「きゃあああああああ!!」
今度は由乃の叫び声、桜がやられる瞬間を見ていたのか十字架から体を剥がそうともがいている。
「やれやれ、殺してはいないから安心してほしいな。さて、次はキミの番だよ。」
僕とゼロの距離は1m、今の僕にゼロの攻撃に耐え切る力は残っていない。桜と由乃を連れて逃げることもできない。ましてや「大和」を撃つことなんて…
「さようなら、蒼天の翼。」
僕は振り下ろされるその剣を、見ていることしか出来なかった。
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桜先輩がやられてしまった。傷を負っているとはいえ、ゼロにはまだ余裕があるように見える。こんな時に、ただ捕まっていることしか出来ないなんて…
なんのために「大和」と「武蔵」を作ったの?
―先輩を守るためじゃないの?―
なんのために、あたしは翼を持っているの?
―もう二度と、大切な人を失わないためじゃないの?―
ドクン、ドクン、と鼓動が大きくなっていく。
今、先輩を助けられるのは誰?
―それはあたし、あたししかいない―
「やるんだ、あたしが!!」
ボッと、心に火が付いた。指先を動かすと、光る弾が現れる。あたしはそれであたしを捕らえている金具を破壊する。
床に降り立つと同時に、あたしは思いっきり翼を広げた。今までになく燃えるような翼。あたしのつばさはそう、「紅蓮の翼」とでも言うべき姿になっていた。
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振り下ろされたはずの剣が止まっている。ゼロが後ろを振り返っているのか?後ろには捕らえられた由乃しかいないはずなのに。
僕はふと視界を上げる。そこには捕らえられた由乃じゃなくて、燃えるような紅い翼を広げた由乃が見えた。
「馬鹿な…!どうやってあの楔を壊したというんだ!?」
「確かに武器は持てなかった…けど、この力が、先輩のような力がある!!」
由乃は手のひらを広げると、そこに魔法陣を展開させ砲撃を放つ。単純な魔力砲のようだが、武器も何も持たずに砲撃を放つなんて今まで出来なかったのに…
『彼女も覚醒したのだ。紅蓮の翼ならば通常の砲撃程度は素手で放てるようになる。』
「紅蓮の翼……」
由乃が覚醒した翼、その力は弱ったゼロを追い込んでいくには十分な力だった。
「こんなときに覚醒するなんて…空気が読めないんじゃないのかな?」
「あたしは先輩達を助けたいだけ。それを邪魔するなら、あなたをここでやっつける!」
由乃は「武蔵」を構え、そこから雨嵐のように魔力弾を打ち出す。
ゼロも翼を広げて避けるが、宵闇の衣を破られた状態ではかすめただけでも少しずつダメージを受ける。
「僕だって、まだ戦える…戦えるさ!!」
僕は翼を広げ、ゼロに向かって飛翔する。水星と白雪を構え、僕はゼロと空中で斬り結ぶ。
「まだそんな体力が残っていたのか、油断ならないなキミも。」
「由乃だけに戦わせるわけにはいかない、僕だって一航戦だ!」
ゼロの剣を水星で受け止め、白雪で突く。ゼロの頬をかすめた刃が赤い血で染まる。
僕の方も、無傷とはいかない。すでに脚や腕からは血が垂れ、息も上がってきている。
「そろそろ限界が近いんじゃないかな?無理せずここで…っ!?」
息を切らしながら話すゼロに、今度は緑色の砲撃が叩き込まれる。
「翡翠の翼か…っ!」
下を見ると、壁にもたれかかりながらも桜が必死にビットを操っている。
「私だって…倒れている場合じゃないんだから!」
「この、死にぞこないが!!」
ゼロが桜にとどめを刺そうと肉薄する、が、その間に割って入った由乃がほぼゼロ距離で砲撃を放つ。
「馬鹿なっ、こんな…」
まともに砲撃を喰らったゼロはそのまま床に叩きつけられ、回転しながら倒れ込んだ。
さすがにここまでダメージを受けたからか、ゼロは動く気配がない。
「やったか…?」
僕は桜と由乃のもとへ降りる。依然としてゼロは動かない。
「いえ先輩、まだ生きてます。」
「ふふふふふ、はははははは…」
奇妙な笑い声を上げながら、ゆらりとゼロは立ち上がった。
「蒼天の翼、翡翠の翼、そして紅蓮の翼…この短期間に3人も覚醒するなんて大誤算だよ。しかもそれなりに力を使いこなすなんてね。だけど、次はこうはいかない。次にボクが地上に現れたとき、それがキミたち人類の終焉の日だ…。どんなにあがこうと覆せない、闇の刻が訪れるのさ…。コレは放棄する。今回はキミたちの勝ちだ。おめでとう、蒼天の翼。……次に会った時は、ボクがキミを殺す。」
「それは僕の台詞だ、人類は滅ぼさせやしない。僕がゼロ、お前を倒す!!」
突如、部屋のあちこちで爆発が起こる。爆発の煙にまぎれたのか、ゼロの姿を確認することはできない。放棄すると言っていた以上、ナハト内部に留まるのは危険だろう。
「桜、立てるか?」
「なんとか…でも飛ぶのはキツいわ。」
「なら僕の背中に乗って。ここから脱出する。」
僕は桜のことをおんぶして、部屋から出ようとする。すでに爆発がナハト全体で起こっているようで、常に足元が揺れている。
『…う、悠!聞こえるか!?』
「隊長!」
『現在、ナハト外部で爆発が起こっている、内部の様子はどうだ!?』
「ゼロは退けました、桜も由乃も無事です。内部でも爆発が続いていて…うわっ!」
足元で爆発が起こったのか、僕は桜の下敷きになるように倒れ込んでしまった。その衝撃で無線機が壊れてしまったらしい。隊長の声が聞こえなくなっている。
「とりあえず、急いで脱出しないと…。あれ、さっきの通路は?」
辺りを見渡すと、僕が開けたはずの穴がなくなっている。というより、爆発の影響で崩れた壁が塞いでしまったようだ。
「閉じ込められた…」
「このままだと私たちも巻き込まれるわよ?どうにかして抜け出さないと…」
桜の言うとおりではあるのだが、今の僕と桜には壁を壊すほどの力は残っていない。
繰り返す爆発の中では悠長に考えている時間もない。せっかくゼロを退け、由乃を助けたというのにこのままでは3人とも死んでしまう。
「先輩、大和を持ってきてるんですよね?」
「あ、ああ。すっかり返しそびれてたよ。これのおかげで助かったよ。」
「先輩の役に立てたなら嬉しいです。…今度は、あたしが先輩たちを助ける番みたいですね。」
由乃は僕から「大和」を受け取ると、翼を広げて魔法陣を展開させる。
ガシャン!と「大和」の砲身が開き、そこに魔力が集まっていく。
「あたしが、壁を撃ち抜きます。そこから脱出しましょう。」
「まだ紅蓮の翼に慣れきってないのに、無理したら…」
「大丈夫ですよ先輩。だってこの子は…あたしがあたしのために作ったんですから。」
由乃はそう言うと、「大和」のグリップをしっかりと握りトリガーを引いた。
僕が使った時とは比べ物にならないほどの威力を持った砲撃が、その砲身から発射された。その砲撃はナハトの壁を易々と貫通し、外へと続く大穴を開けた。
「ね?」
「あはは…こりゃすごいや。」
その威力に呆気に取られてしまったが、すぐに僕は気持ちを切り替える。
確保された脱出口から、僕と桜、そして由乃は外へと脱出した。
「悠、あそこ!ノアが!」
桜の言った先を見ると、ノアが僕たちを探すように外周を飛んでいた。
「隊長たちが突入する前だったのか…でもちょうどいいや。帰ろう、僕たちの場所へ。」
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
毎度の事ながら時間をかけた割には拙い文章ですみません。
さて、由乃救出作戦もついに成功。次回からは終盤へと話が進んでいきます。
それでは、また。




