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もう一度、僕たちの空を  作者: 浦風晴斗
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第16話 空へ

 一航戦所属、神山由乃が使徒に捕縛、拉致された。という情報は、本部の中でも最高機密として秘匿されることになった。

 他の航空戦隊に及ぶ影響を鑑みての対応、ということだが、僕にはそんなことはどうでもよかった。


 由乃は、隣にいない。


 ゼロからもたらされた「空中要塞 ナハト」の存在。本部は大規模反攻作戦を行うため、四航戦と五航戦にナハトの位置を早急に割り出すよう命令を出した。

 一方、一航戦に対しては「反攻作戦の要」としてナハトが見つかるまで待機せよ、という命令が下っている。

 そしてその命令から1週間、まだナハトは発見されていない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「1週間か…どうだい、気分のほうは?」


「捕まってるのに、いい気分なんて言うと思う?」


「はは、その通りだ。キミの仲間は随分苦労しているみたいだねぇ。まだココが見つかった訳ではなさそうだし…。」


「まだ1週間ある、その間にACFが…先輩が必ず見つけてくれる。あたしはそう信じてる。」


「…ふう、人間のその希望という概念は理解しがたいよ…。ここまで絶望的な状況におかれてもなお、未来を見据えて生きる、その行為に一体なんの意味があるんだい?遅かれ早かれ、地球はボクに滅ぼされるのに。」


「それこそ、あなたの希望でしょ?あたしたちは諦めていない、今度こそあなた達から大切なものを守ってみせる。それが、あの日を生き残ったあたしの役割だから。」


「あの日…。ふふっ、ははは、はははははっ!!そうか、キミはあの羽田の生き残りだったのか!あれを見て心が壊れなかったのは大したものだよ。…そんなキミには最大級の絶望とともに死んでもらうのも悪くないなぁ。」


「何をする気?」


「ちょっとした『エサ』を撒くのさ。キミに絶望と、人類に破滅をもたらすためにね。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「使徒が集まっている場所が複数ある?」


「はい、四航戦からの報告なんですが、浜ノ宮市から海へ20kmほど行った先で使徒の群れを発見したと。」


「五航戦からはそこから7km先にも使徒の反応があると情報が来ています。」


 ナハトの捜索開始から9日、使徒の襲撃があるわけでもなく、時間ばかりが過ぎていた。


「他の地点でも使徒の反応は確認されています。ですが…」


「全てが海の上…奴らはなんのためにそんな所にいるんだ…」


 進まない捜索、タイムリミットが迫るなか、何も出来ない僕はずっとふさぎ込んでいた。


『悠、先より話に耳を傾けているのだが、何やら気になることがある。』


「気になること?」


『奴らが見つかっている地点に何らかの法則があるように思えるのだ。』


「法則?」


『うむ。奴らの距離と位置関係はナハトの位置と関連している。そのように思う。』


「距離と位置…。」


確かに、浜ノ宮から東に20km先、そしてそこから南北へ3.5km、東へ7km進んだ4つの地点にも使徒の反応が出ている。さらに浜ノ宮から27km離れた使徒の南北3.5km先にも使徒の反応。

 ボードに書き込まれた6つのポイント、そしてそこに隠された意味を理解するまでにそんなに時間はかからなかった。


「1辺が7kmの正方形…。」


「どうした悠、何か分かったのか?」


「使徒は1辺が7kmの正方形を暗示するように待機している…そうなればナハトの位置はその正方形の中…。」


「悠、一人でぶつくさ言ってもこちらには分からないぞ。」


「隊長、ナハトの位置は恐らくここです。」


 僕はボードのある一点に赤い円を描く。


「どうしてそう言い切れる。」


「使徒の位置関係は、1辺が7kmの正方形を描くようにあります。そうなればナハトの場所はその中心…対角線同士が交わるこの場所にあると考えるのが妥当です。」


 あまりにも簡単過ぎる、使徒の配置はナハトを見つけてくれと言っているようなものだ。重要な要塞の位置を、そんな簡単に割り出させていいのか。僕もそう思うが、今はこの仮説を信じるしかなかった。


「行かせてください、隊長。」


「…まずは偵察を行う。四航戦にポイントの調査を命じろ。悠、今は君の直感を信じさせてもらうぞ?」


「は、はい!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 調査を始めた次の日、ポイント付近は常に雲に覆われていることと、その雲は縦に大きく伸びていることが分かった。

 ついに怪しさを増したそのポイントに対し、本部は海上からの攻撃を命令。ナハトを落とすまではいかずとも、その姿を現す程度のことは出来るだろうと判断したのだ。

 そしてその判断は当たった。海上艦艇からの攻撃は「ナハト」本体に命中し、ナハトはその姿を現したのだ。

 だが、その後が問題だった。攻撃を受けたナハトは高度を上げ、対流圏と成層圏の狭間付近まで上っていった。いくら翼を持っている僕たちでも、その高さまで上がることは不可能な上、下手な航空機ではナハトにたどり着く前に撃墜されてしまう。

 事態は再び、膠着状態に陥ってしまった。

 タイムリミットまで、後4日。


「隊長、なんとかしてあそこまで上がる方法はないんですか?このままじゃ、悠のヤツが…」


「現状では方法は一つしかない。だがこれは失敗すれば我々の命も危うくなるんだ。おいそれと決行するわけにはいかないんだ。」


「けど…!」


「龍一、今ここで僕たちが全滅するという最悪の事態になれば、由乃ちゃんだけじゃない、人類そのものが危機に追いやられるんだ。それくらい分かるだろう?」


「分かるさ!けどよ、殺されるって分かってて、敵の居場所も分かってるのに何も出来ない悠の気持ちはどうなる!?」


 僕や桜、海斗が作戦室に入ると、龍一さんが叫んでいた。


「だからこそ、万全を尽くすべきだろう?僕たちには人類の未来もかかっているんだから…」


「…このやろう!!」


 いきなり、龍一さんが雅哉さんに殴りかかり、そのまま胸ぐらを掴み上げる。


「口を開けば人類人類って…由乃は俺たちの仲間だろ!悠のたった一人の恋人だろ!仲間が苦しんでるってのに、それを救えねえで人類なんざ救えるわけねえだろうが!!」


 雅哉さんは、抵抗する素振りを見せず静かにその言葉を聞いていた。


「…俺も、そう思います。」


 静寂を破ったのは、意外にも海斗だった。


「俺たちは、一航戦は、人類を滅びから守るために集められました。けど、70億分の1を救えないようなチームに、使徒が倒せるとは思いません。少しでも可能性があるなら、それに賭けてみるべきだと俺は思います。」


 それに続くように、桜も口を開く。


「私たちは、今までずっと使徒と戦ってきました。その戦いの中で、どれだけ悠に救われたと思います?悠の覚悟があったから、あの島落とし作戦(アイランドダウン)も成功したと思います。だったら今度は、私たちが覚悟を決めて悠を救う番だと思うんです。」


「…僕だって、由乃ちゃんは救いたいさ。そうでなければ、一航戦の意味がない。けど、次に取れる作戦は特攻作戦だ…そんな作戦を、最初から提示できるわけがないだろう…!!」


「雅哉、お前…」


「一航戦副隊長として、できる限り安全な突入作戦を考えていた。だがどう考えても上手い作戦が思い浮かばない…。残された時が少ないのも分かってる……正直、どうしていいのか分からないんだ…本当に、分からないんだ………。」


「……やりましょう、雅哉さん。」


「悠くん…。」


 由乃を助けたいのは、僕だけじゃないんだ。


 みんなが、一航戦のみんなが、由乃を助けたいと思ってる。その気持ちがあれば、どんな作戦であろうが成功出来るはずだ。


「どんなに危険だろうが、それしか方法がないなら俺たちはそれをこなすしかねえだろ。そんな簡単なこと悩むんじゃねえよ。」


「簡単なこと、か。確かにその通りかもしれないな。」


「それとよ、お前の気持ちを考えずに殴っちまって、その、悪かったな。」


「いいんだ、おかげですっきりしたよ。じゃあ、作戦会議を始めようか。」


 雅哉さんは振り向きざまにボードに映像を映す。そこにはロケットのような航空機が映し出されていた。


「さっきも言ったように、この作戦は特攻作戦です。僕たちは攻撃能力を有した航空機に搭乗、ナハト壁面に穴を開け、そこから突入するというのが作戦の概要です。ナハト内部の状況は分かりませんが、由乃ちゃんの救出を最優先に出来る限りナハトの無力化も行います。」


「ナハトの無力化が出来なかった場合は?」


「その時は再度、外側からの攻撃を加えることにします。今作戦はあくまでも由乃ちゃんの救出を最優先にしてください。」


「質問がなければ、今から5時間後の19時に作戦を開始する。全員、第3ターミナルへ集合してくれ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 作戦開始10分前、第3ターミナルに集合した僕たちの前には、巨大な飛行機が出撃の時を待っていた。

 20.3cm連装ビーム砲5門に15.5cm三連装ビーム砲が8門、ミサイルと機銃を多数搭載したそれは、対使徒用に作られた戦闘機のプロトタイプ「ノア」だった。

 戦闘機とされてはいるが、6人乗ってもスペースがあるコックピットと巨大な姿はまるで「空を飛ぶ巡洋艦」だ

 フライトユニットの普及により、生産が中止されたはずなのに、ACFは今の今まで保存しておいたようだ。


「火器管制は雅哉に任せる。操舵は龍一、悠は真っ先に突入出来るように待機だ。」


「切り込み隊長ですね、任せてください。」


「いや、悠は由乃を探すことに専念しろ。」


「え…。」


「由乃は今この瞬間も助けを、悠を待っているだろう。ナハト内部に突入次第、周囲は気にせず由乃を探し出せ。」


「隊長、私も一緒に行かせて下さい。」


「桜……。」


「一人で突入して、探し出せずに捕まってしまってはどうにもなりません。私の翼、翡翠の翼(オーロラ)なら悠を援護しながら戦えます。」


「ふむ、桜の言うことも一理あるな。ならば桜も悠と共にナハト内部へ突入してくれ。ではこれより、ナハト攻略作戦及び、神山由乃救出作戦を開始する!」


 隊長の号令とともに、ノアは空へと向けて浮かんでいく。目指すはゼロがいる空中要塞、ナハト。


「由乃、今行くから。もう少し待ってて…。」

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。ここに来て、初の後書きです。


囚われの由乃を助けたい、でも一航戦も守らないといけない、そんな雅哉の葛藤、そして同期らしくぶつかった龍一。この二人は中々の名コンビなのではありますが、いかんせん後輩ズの突出ぶりに隠れてしまうのがなんとも…


さてナハトへ向かい出撃した一航戦、突入隊として待機する悠と桜、そしてナハトの中ではゼロと由乃が二人を待っています。

次回のキーとなるのは由乃が落としていった「大和」です


第17話、一ヶ月以内には更新出来るようにしますので、よろしくお願いします!

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