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もう一度、僕たちの空を  作者: 浦風晴斗
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第12話 戦いのあと

「キミとはゆっくり話をしてなかったね、神山由乃。」


 帰投しようとした僕たちの前に現れたのは、ゼロだった。

 まだブラッド・リリースを解いていなかった(正確には解き方を知らない)僕は背中の鞘にしまった白雪(スノーホワイト)の柄に手をかける。


「おっと、今回もキミと戦うつもりは全くないよ悠。キミとは万全の状態で…全力のキミの力を持ってしてもボクには敵わないって教えたいからね。」


「なら、どうしてここに来た?」


「最初に言っただろう?話がしたいのさ、キミのその『蒼天の翼(スターダスト)』のさ」


「この翼を知っているのか?」


「知ってるも何も、前回…50年前、『滅び』が失敗したのはその翼のせいだからね。」


 幾度となく使徒と交戦してきた人類。その中でも熾烈を極めた戦いが50年前の「大戦」だ。こちらには6色が揃い、優勢かと思われた戦いだが、実際には使徒の圧倒的物量と、こちらの技術不足のため決着がつかず使徒を長い「撤退」に追い込むのが精一杯だった。

 その大戦のなかで、蒼の翼の所有者は滅びを食い止めるほどの活躍をしたというのか。


「もっとも空に近い色、それがキミの翼だ。空に近いが故に空戦能力では右に出る物はない。そして、とある所有者がその翼の中に隠したブラックボックス…それがブラッド・リリースと呼ばれる能力だ。これはボクたちの世界に伝わる古い伝説なんだけど、蒼の翼の初代持ち主が自らをその翼に封印し、世代を超えて受け継がれるようになった、ボクたちを倒せる唯一の希望…とされているのさ。」


 ゼロはふわふわと浮きながら僕と由乃の周りを飛ぶ。


「そして、その翼はキミが受け継いだ。さらにキミはそのブラッド・リリースにさえも適合しボクたちにとって最大の脅威になったわけさ。」


「だったら、今すぐここで僕を殺せばいいじゃないか。」


「それはそうなんだけどね、今回はキミの頑張りを評して見逃してあげるよ。というより、全力のキミを叩き潰して、『蒼天の翼(スターダスト)』はただの夢物語でした、って展開を望んでるんだよ。それにね…」


 ゼロはふっと由乃に近づき、その頬に手をつける。


「紅の翼の覚醒も近そうだ。キミたちの「愛の力」が楽しみだよ。」


 にたぁっと笑ったゼロの横顔に、僕は思わず拳を打ち込んでいた。


「っ…そんなにこの子が大切かい?」


「このあと由乃に指一本触れてみろ、その腕を切り落とす。」


 僕は白雪(スノーホワイト)を抜いて由乃とゼロの間にかざす。


「ふう…あのときもそうだったけど、どうして蒼と紅は互いに惹かれ合うんだろうね…そこだけはボクでもわからないよ。」


 ゼロは不思議そうな表情を浮かべながら、僕たちから離れていく。


「そうそう、この島だけがボクたちの拠点だと思わないほうがいい。キミたちの言う成層圏にいるのは監視役、ボクたちの拠点はあくまで地上だからね。…また会える日を楽しみにしているよ。」


「待てっ………!」


 黒い翼を広げて飛び去ろうとしたゼロを逃すまいと白雪(スノーホワイト)を抜いた僕を止めたのは、意外にも由乃だった。


「ダメです先輩!」


「由乃!?」


「今の先輩じゃ負けちゃいます!」


 今の先輩、その言葉が胸に突き刺さった。由乃は僕の力―蒼天の翼(スターダスト)―を信じてくれてないのか。それとも、僕がまだ弱いと思っているのか。

 大切な人に信じてもらえていない、その気持ちはゼロへの怒りとなって、僕を動かした。


「そんなの、やってみないとわからない!」


 由乃の制止を振り切ってゼロに斬りかかろうとするが、ゼロは空の彼方へと消えていった。


 新たな力を得て、敵の黒幕を前にしても何も出来なかった、最後には大切な人に信じてもらえなかった怒りはそのまま由乃に向かって爆発した。


「どうして止めたんだ!せっかく新しい力を得たのに…ゼロを目の前にしてたのに!」


 由乃は黙って下を向いたままだ。その態度さえも僕の怒りを増大させる。


「僕の力を信じられないっていうのか……由乃!」


 不意に、下を向いていた顔を上げ、由乃は力一杯僕の頬を叩いた。

 突然の出来事に頭が追い付かず、僕はまばたきを繰り返す事しか出来なかった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ…叩いた事は後で謝ります。けど、今の先輩にはゼロしか映ってない!戦ったらどうなるか、何も見えてない!心配してる一航戦の皆も、あたしも見えてない!!そんな状態で、慣れてない力を使って、勝てると思ってるんですか!?」


「やってみなくちゃ分からないだろ!?」


「分かります!50年前、先輩よりも翼に慣れた人ですら勝てなかった相手ですよ!?そんなのを相手にして、勝てるわけないじゃないですか!!!」


 二人とも、一歩も引き下がらない。互いの感情をぶつけている内に、僕は由乃の目に涙が浮かんでいるのに気がついた。そこに来てようやく、由乃の想いを感じ取った。


「あたしには死ぬなって言っておきながら、どうして自分は死のうとするんですか?先輩があたしに死んで欲しくないように、あたしは先輩に死んで欲しくないんです…っ!」


 僕は、由乃にかける言葉が見つからずに、ただ呆然と由乃を見ることしか出来ない。


「黒の日に全てを失って、でもここに来て先輩に出会って、あたしには、先輩しかいない…一番大切な人は、先輩なんです!!」


 叩かれた頬が、今になって痛み始める。感覚が鈍っていたわけじゃない、由乃の言葉に、由乃の想いを痛感したからだ。


「先輩は、悠は一人じゃないから…あたしももっと強くなります。だから、一人で突き進まないでください。それと、叩いちゃってごめんなさい。」


 由乃は涙をこぼしながらそう言った。


「いいんだ、僕の方こそ謝らないといけない。ごめん由乃。」


 僕は由乃を抱き締めながら、それしか言えなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「使徒の拠点を破壊した君の功績は認める。だが、それは隊長の命令を無視し、独断専行による行為なのも事実だ。何か言いたいことはあるかね?」


 ―島落とし作戦(アイランドダウン)―そう名付けられたあの戦いの次の日、 僕はACF本部の査問会に出頭していた。

 島にあった使徒のコアを破壊したことにより、拠点の一つを破壊したという功績は認められたが、撤退命令を無視したという所が本部に引っかかったらしい。


「言いたいことは特にありません。処分は甘んじて受け入れます。」


 梓さんからは、下手な事を言うくらいなら大人しく処分を受けた方がいいと笑顔で忠告されていた。(最も、その笑みには何か含みがあるようだったが)


「今回の件に対し、篠宮悠を一週間の謹慎処分とする。謹慎中はいかなる理由があろうと一航戦として作戦に当たることは禁止される。いいな。」


「分かりました。」


 会議室を出ると、そこには梓さんが待っていた。


「どうだ?」


「一週間の謹慎です。」


「そうか。まあ拠点は破壊したわけだ、そこまで重い処分はないと思っていたよ。それに……」


 梓さんは僕の左手首に付いた虹色のリングを一瞥した。

 由乃との一件のあと、みんなの元に戻ったときにはすでに虹色の魔方陣は消えていて、その代わりにこのリングが腕にはまっていた。恐らく、ブラッド・リリースの待機状態がこのリングなのだろう。


「君の新しい力、ブラッド・リリースについて調べるいい時間が出来たと思えばいい。ここには過去のデータも保管されている、50年前の大戦のデータならそれなりの量があるはずだ。」


「ご迷惑をおかけします。」


「何、処分も一番軽いやつだ。あれだけの功績を残した君を責める輩はいないさ。」


 梓さんはそう言うと、さっと振り向いてその場を去ろうとする。その背中に、僕は声をかけた。


「あの…由乃は、どうしてますか?」


「由乃なら、今朝から津田之原の研究所に行っている。悠の謹慎が解ける頃には戻ってくると思うが…なにしろ、訓練指導員がいなくては訓練のしようもないからな。」


「わかりました、ありがとうございます。」


 それだけを聞いて、僕も会議室の前を去る。由乃が何をしに研究所へいったのかは分からないが、謹慎処分を受けている以上、本部から出ることは好ましくないだろう。そう考えて、僕は情報管理室へ向かった。この力、蒼天の翼(スターダスト)のことを知るために。



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