第11話 島の決戦
島の中心に現れた黒いドーム。それは時間を追うごとに大きくなっていき、そして宙域の使徒の数も増えていた。
僕たちは梓さんの命令により列車へと撤退をするが、その進路を使徒が阻んで思うように進めない。
使徒がここで僕たちを全滅させようとしている、そんな風にさえ思えた。
「私の機動砲塔で道を開きます!」
桜はそう言うと背中のバックパックから10基の無線誘導型ライフルビットを射出する。
桜の『翠の翼』は所有者の空間認識能力を増幅させ、無線誘導によるオールレンジ射撃を可能とさせる能力を持っている。
他の翼の能力に比べ、所有者の精神力の消耗は激しいが多対一の戦闘では手数の多さから有利な状況を作りやすいのだ。
「今のうちに、最大速力で包囲網を突破する!射撃装備を周囲に向け発射しながら飛行しろ!」
使徒の包囲網の中を幾つもの光条が走り抜ける。撃墜には及ばなくともダメージを受けた使徒は戦線を離脱し、徐々にその包囲が弱まっていく。
その時だった。
島の方で何かが割れるような高い音が響き、直後に隊長が叫んだ。
「奴らの巣が割れた!」
一瞬振り返ると、ドームの上部分が卵の殻のように割れ、そこから黒いものが次々と湧いている。
「数が増える、100…200…奴ら、際限なく増えていくぞ!」
割れ目から飛び出した使徒はどんどんと空を覆っていき、僕たちの進路上に厚い使徒の壁を作っていく。
「こんなもの、俺の打突拳でぶち抜いてやる!」
「俺も一緒に行きます!」
「新入り、遅れるんじゃねえぞ!」
龍一さんと海斗のコンビは厚い壁へと立ち向かうが、数を減らすよりも使徒の放出量が多すぎて進路は開けない。
「奴ら、ドームが割れるまでの時間稼ぎをしていたのか…!」
やがて、僕たち一航戦にも疲れが出始めた。それを待っていたかのように使徒の大群は次々と攻撃を仕掛けてくる。
「第1~第4砲塔まで撃墜!?機動砲塔の速度に追いついているの!?」
桜のビットは4基が撃墜され、残るビットも機動力が低下している。桜の精神力が限界に近い証拠だった。
「隙がなくて…ヨンロクが出せない…!」
由乃も大火力で敵陣突破を図るが、ヨンロクが展開出来ずに苦戦を強いられている。精神力はまだ保つだろうが、エネルギー切れまでそう長くはないだろう。
「くそっ、二刀を使ってもこう数が多いと…」
僕は烈風をしまい、蒼の翼を展開して使徒の包囲網を削ろうと高速で飛び回るが数で勝る使徒の攻撃をくらって徐々に速度が落ちてしまっていた。
「キリがない…うわぁっ!」
「海斗…!!」
「新入りーーーっ!」
最前線で壁を削っていた海斗が海へと落ちていく、幸い致命傷は受けていないようだがフライトユニットの損傷が激しく、また翼も消えかかっている。
「くっ…雅哉は海斗を護衛しながら撤退を続けろ!…好きにはさせん、紫陽・千本の舞!」
梓さんは剣技を発動し、迫り来る使徒を迎撃しながら前へ進んで行く。
だがその先には無数の使徒が空を覆い尽くしている。
「もう…だめ…っ…」
「くそっ、こんなとこで!!」
奮戦を続けていた桜と龍一さんの二人もついに力尽き、弱々しく海に浮かぶ。
これでこちらは3人、対する使徒は…無数
(このままじゃ全滅する、けど、何か手立ては…梓さんの、隊長の指示は…)
僕は梓さんの指示を仰ごうと空を見渡すがそこに梓さんの姿はない、見えるのは球のように何かに群がる使徒だけだ。
その球の中央では梓さんが決死の思いで剣を振っていた。僕も加勢をしないとと思い、翼をはためかせようとした時だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴とともに、何かが爆発した。爆風に飛ばされた破片は、由乃の艤装の一部だった。
「由乃!?」
爆風の中からフォトンソードを1本だけ握り、翼を出した由乃が飛び出す。
僕は反射的に由乃に向かって飛んでいた。クロスレンジに入られたら由乃は圧倒的に不利になる上、数で勝る使徒に由乃がフォトンソード1本で対抗出来るはずがなかった。
「僕は……由乃を死なせない!!」
バスターライフルを放射状に撃ちながら僕は必死に由乃に手を伸ばす。
「せんぱ…っ!」
由乃が伸ばす手を握るまであと少し…その時、無慈悲に振り下ろされた使徒の拳が由乃の体を捉えた。
使徒の拳を受けた由乃は気を失って海へ落ちていく、翼が抵抗となって着水の衝撃は軽かったが、由乃の眼は開かない。
「あ…ああ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
僕は由乃の体を抱いたまま叫んだ。
僕の脳裏に、あの日の記憶が蘇る。
僕の前に運ばれてくる3つの棺。周りの人はみんな泣いている。ニュースで流れる事故の映像と黒い影。一瞬にして奪われた僕の両親の命。そして翌日起きた「黒の日」の惨状。
一体どれだけの人を悲しませれば気が済むんだろう。両親の乗っていた飛行機を墜落させ、次の日には由乃の家族をも奪った使徒、そして今、目の前にいる少女は、僕の好きな人は使徒によって大怪我を負った。
「うう…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕は無我夢中で翼を広げ、水星と白雪を振り抜く。大した能力も持たないくせに、数だけに頼って、みんなを、由乃も傷つけた使徒がただただ憎かった。
目にも止まらぬ速度で使徒を切り裂き、消滅させていく。着実に減っているエネルギーと精神力なんか気にも留めずに僕は剣を振り続けた。
でも、怒りに任せた戦いは目の前しか見えなくなることを僕は知らなかった。背後へ回り込んだ使徒からの一撃に気づかず、背中に痛みが走ったと思うとエネルギーも、精神力もほぼ尽きた僕は、消えかけた翼とともに前のめりに海へと落下する。
(僕は…ここで死ぬのか…人は、空を取り返せないどころか、ゼロに滅ぼされるのか…?)
宙を落ちながら、ふと僕は目を閉じる。意識が死へと近づく、全てがスローモーションになる。
突然、頭の中に男の声が響いた。
(―力が欲しいか―)
この声は誰だろう。
(―今を、未来を変えうる力、それを手にしたいか―)
今を変える?この絶望的な状況を変えられるなんて到底信じられない。
(―力を手に出来るのは、我が末裔の悠、お前のみだ―)
僕にしか出来ないこと…?
(―力が欲しくば、手を伸ばせ―)
自然と手が前へ、空へ伸びていく。
(―その手に、覚悟を掴め―)
「ブラッド・リリース…」
(―叫べ!!―)
「エクスティア・ドライヴ!!!」
頭の中に浮かんだその言葉を僕は力一杯叫んだ。
瞬間的に、逆さまだった体勢が元に戻る、そして普通なら併用できないはずのフライトユニットと翼が同時に出現する。水星と白雪が光を帯びる。
手の魔方陣が虹色に光り出し、大きく広がった。
体中に力がみなぎってくる。行こう、「蒼天の翼」
僕は空に蒼い軌跡を残しながら使徒を次々と倒していく。
「許さない、許さないぞ!!」
バスターライフル「エンデュミオン」からビームを乱射し、水星を一閃する。
通常よりも太く、長いビームは使徒の大群を貫き、煌めいた刀は使徒を切り裂く。
翼で姿勢を制御しながら、烈風のブースターで加速する。目指すは使徒に囲まれている梓さんだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
水星と白雪を構え、僕は使徒の大群へと突っ込む。その中心では梓さんが懸命に戦っていた。
「悠、その翼は…!」
「僕にも分かりません、でもこれは僕に戦う力をくれたんです、みんなを守る力を。隊長、やりましょう!」
「うむ、ならまずはこいつらを片付けなくてはな!!」
僕は回転斬りで、梓さんは素早い突きの連続で、僕たちを囲っていた使徒を次々と落としていく。
ドームの方からは依然として多くの使徒が飛んでくるが、僕たちの周囲は使徒の数が格段に減っている。
「隊長、あのドームを内部から破壊すれば使徒の発生を抑えられるかもしれません。」
「だがあれだけの数を相手にするにはこちらの戦力が少なすぎる。ここは一先ず全員で撤退するしかない。」
「なら隊長はみんなを連れて撤退してください。」
「悠…!?」
「僕はやります、僕がやるしかないんです。それがこの翼を受け継いだ…血の宿命なんです。」
ブラッド・リリース、言葉の意味は分からないけど、直訳すれば「血の解放」だ。それを唱えて現れた翼。ということは僕自身に流れる血がこの翼と何らかの関係があることは間違いない。そしてこの力は恐らく7人の内でも僕にしか与えられていない…
「僕を信じてください、必ず生きて帰ります。隊長を前にこんなこと言うのは変かも知れませんが、もう一度、由乃の笑顔が見たいんです。」
「………………必ず、生きて帰ってこい。一航戦はまだ死んでいない。それを、この戦いをどこかで見ているゼロに見せてくれ。…命令だ。」
「了解です。」
僕は梓さんに背を向けると、ドームを睨む。
禍々しい雰囲気を発するドームはその割れ目から使徒を放出し続けている。その内部…使徒発生装置とでも言うべきものを破壊するしかない。
僕は烈風のブースター出力を最大まで上げて使徒の中を高速で飛ぶ。
その圧倒的な速度についてこれない使徒は近接戦を諦め、ビーム射撃によって僕を撃墜させようとする。
しかし、そのビームは僕の手前で虹色の魔法陣に阻まれる。僕自身が、虹の魔法陣に守られているようだ。
「このまま突っ込めば…!」
多方向からの射撃では通用しないと悟ったのか、使徒達は僕の進路上に集まり一斉にビームを放ってきた。
多数の魔法陣が防御にあたるが、ビームの総数が多いのか1枚ずつ破壊されていく。
僕は左手を前に出して、魔法陣を前方に集中させる。厚さを増した魔法陣は使徒の攻撃を確実に無効化する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
白雪による一閃、目の前の使徒を倒したところで、僕の進路を阻むものはいなくなった。
勢いに任せ、僕はドームの中へと侵入する。その内部には黒いコアのような塊と、多数の使徒がいた。
「蒼天の翼、僕に力を!!」
蒼天の翼は僕の声に応えるように輝きを増す、すると水星と白雪が魔力のような炎状のオーラを纏う。
僕は上から勢いよくコアに向けて二刀を振りおろす。
コアはX字状に分断され、幾つもの破片となって爆散した。
コアの消滅と共にドームも割れていき、破片が空へ上がっていく。
僕はその光景を、宙に浮いたまま見ていた。
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「ドームが消えていく…やったのか、悠。」
戦いの様子を海上で見ていた梓は、負傷した一航戦と面々と共にいた。
「虹の魔方陣、やはり彼にはあの能力が秘められていたんですね…。」
機動防盾を4機失いながらも、致命傷を受けることなく戦っていた雅也は悠の姿を遠目に見ながら呟いた。
「んっ……あたし、生きて…る?」
「目を覚ましたか、由乃。」
「先輩、悠先輩はっ!?」
「悠ならあそこにいるぞ。」
梓が悠の場所を指差すと、由乃は翼を広げて一目散に飛んでいく。
「まったく、悠も幸せ者だな。」
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「これで、終わった、のか…?」
僕はドームの破片が空へ上がっていくその中心に浮いていた。
両手に持つ剣は、依然として魔力を纏ったままだ。
「……どうやって元に戻すんだ?」
発動した時は自然と言葉が出たし、戦いの中で僕はこの力の使い方をなんとなく理解出来た。だけど終わってみるとこの力が何なのか全く分からない。
「とりあえず隊長の所に……」
隊長なら何か知っているかも知れないと思って、剣を背中の鞘にしまい、僕が振り向いたその時だった。
由乃が翼を広げて飛んでくる。
「せんぱーーーーいっ!!」
由乃はそのまま僕の胸へ飛び込んできた。
「ゆ、由乃!?目が覚めたのか!?」
「先輩…あたし、あたし……」
由乃が抱き締めてくる。僕も由乃を力一杯抱き締める。
「心配かけてごめん、でも僕は平気だから。」
「あたしは先にやられちゃったけど…目が覚めた時はみんな海にいて、でも先輩だけがいなくて、本当に心配したんです!」
「本当にごめん、帰ったら食堂の大盛パフェご馳走するから…」
「………先輩、食べ物で解決しようって思っちゃだめですよ」
「いや、でも今揺らいだような…」
「こ、今回はそれでいいです!」
「さ、帰ろう。みんなのところに。」
「ちょっとその前に話がしたいなぁ、悠。」
帰ろうとした僕たちの前に、見覚えのある黒のローブを着た少年が立ちはだかった。




