第10話 出撃
5月も中旬に入りだんだんと気温も上がってきた頃、僕たちは前線へ出撃するためにACF専用列車に揺られていた。
他の鉄道から買い入れたEF81機関車と12系客車をACF専用の黒に塗装した専用列車は浜ノ宮鉄道の線路を駆け抜けていく。
「緊張しているのか?」
「はい…ここまで大きな作戦は初めてですから…。それに、今回は新型機のテストもありますし。」
「あまり緊張すると、いざという時に体が固まってしまうぞ。それに今回は偵察が主な任務だ、そこまでの大規模戦闘は起こらないはずだ。」
隊長はそう言うと自分の席へと戻っていく。
昨日、由乃と海斗の一航戦特別編入が発表されたあと、僕は隊長と雅哉さんに連れられて津田之原研究所へ向かった。
そこで、新型フライトユニット「ACF-11 烈風」を渡されたのだ。
(この烈風はACFが今まで開発してきた10機のフライトユニットのデータを元に万能型として開発されたワンオフ機だ。)
(悠君の今までの戦闘データも反映されているから、今の型よりもずっと戦いやすくなると思うよ。)
(あの…どうして僕なんかに新型機を…?万能型なら、それこそ隊長や雅哉さんが装備するのが一番いいと思うんですが。)
(私には今のが一番合っている。雅哉は防御の要だから万能機よりも長く飛べる機体の方がいい。かといって新型機をこのまま倉庫にしまうのはもったいないからな。)
(本当に僕でいいんですか?)
(僕も隊長も、この戦いの切り札は悠君、君だと思っている。それを負担に感じる必要は全くないけど、出来るだけの備えはしておいた方がいいだろう?)
昨日の会話を思い出す。僕が使徒との戦いにおける切り札だなんて到底思えないけど、この「烈風」を託された以上はやれることをやるしかない。
列車は新緑の中を走り続け、浜ノ宮駅手前の短絡線からJRの線路へ入るところだった。
「先輩、なんか落ち着かない様子ですね。」
「由乃…」
「新型機をもらったくらいで緊張するなんて悠らしくないわよ?」
「不安なんだよ。僕に烈風を使いこなすだけの技量があるか、隊長達の期待を裏切るんじゃないかって。」
「そんなこと今から心配したってどうしようもないでしょ、使ってみなきゃ分からないんだし。それとも、由乃ちゃんにカッコ悪いところみせるのが嫌なだけ?」
桜は最後に耳元でそう囁く。
「あ、あのなぁ!」
「それだけ元気なら大丈夫そうね。ずっと座ってないで、少しはデッキから景色を見るのもいいんじゃない?」
桜はそう言うと、自分の席へと戻っていく。
いつもそうだった。僕が気落ちしている時、桜はそれをすぐに感づいてからかっていく。でもそれが桜なりのエールだってことを僕は知っている。
「ありがとう、桜。」
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僕は景色を見るためにデッキへ向かった。元の車両は古く、車両と車両の間のドアは手動でデッキは少し寒い時もあると聞いたことがあるが、改造されたこの車両は自動ドアな上にデッキにも空調が完備されている。
「先輩!」
声をかけられ振り向くと、そこには由乃がいた。
「航空戦隊として任務に出るのは初めてだけど、緊張してる?」
「は、はい、少し…でも、それは先輩も同じじゃないですか。」
「由乃にまで言われちゃったらなぁ~。」
「緊張は確かにしてます。でも、やっとあたしの力が役に立つんだって、そう思ったらやる気出てきました。」
「でも、無茶は絶対にするなよ?」
「わかってます、先輩。」
由乃は静かに僕の体に腕を回す。僕もそっと由乃の体を抱きしめると、その肩が震えているのがわかった。
怖いんだろう。
それなのに、由乃は僕のことを気にかけてくれている。そんな由乃がとても愛おしかった。
この気持ちから、僕は逃げちゃいけない。
「なあ、由乃…」
「大丈夫です、あたしは死んだりしません。」
「それも、そうなんだけど。僕は…。」
言いかけた言葉を塞ぐように、由乃の唇が僕の唇に触れた。
レールの継ぎ目を走る、タタンタタンという音だけがデッキを包み込む。
柔らかく、優しいキスだった。
「同じなんですよ、先輩。」
「由乃…」
「先輩があたしに死んで欲しくないように、あたしも先輩に死んで欲しくないんです。もう、大切な人…好きな人を、失いたくないから…。」
由乃の僕を見る眼が、僕の体から何かをかき消した。
「由乃、僕は君が好きだ。」
「あたしも、先輩の事が大好きです。」
「僕は絶対に死んだりしない、だから、由乃も死んじゃだめだ。」
「はいっ…!」
僕は由乃の体を強く抱き締める。それに応えるように由乃の腕にも力が入る。
押し付けられる由乃の胸も、今は照れくさくない。
僕の心の中に、何か新しい力が芽生えたような気がした。
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デッキでお互いの気持ちを伝えた僕たちは、自然と手を繋ぎながら席へと戻っていった。
列車は何もない所に止まっていた。
「なんかあの二人、いい感じじゃね?」
「突っ込むのは野暮だぞ龍一。それにお前は気付くのが遅い。」
「なんだよ、知ってたのかよ。」
「知ってたというか、なんとなく分かってたよ。」
「しかしよぉ、同じ隊の中じゃ……もしもの時は辛いだろうな。」
「二人だって分かってるさ。その上での答えだろう?さてと、二人とも戻ってきた所でブリーフィングを始めよう。」
雅哉さんはスクリーンを下ろすとそこに映像を映す。
「今僕たちは浜ノ宮を通りすぎて、海沿いを北へ進んできました。使徒の反応が出るポイントはこの先にある小さな島です。島へ鉄路は繋がっていないのでここからフライトユニットで移動します。」
「島全体が使徒の拠点なのか、それとも拠点に通じる何かがあるのかは分からない。上陸の際は細心の注意を払ってくれ。」
「僕たちが島に到着次第、無人偵察機が1機飛び立ちます。恐らく使徒はそれを落とすために現れるはず、その反応を隊長と桜さんに探ってもらいます。ポイントが絞れれば、そのに由乃さんと悠くんの遠距離射撃を行い様子を見る、これが作戦の概要です。」
「使徒の規模がわからない以上、こちらも消耗戦は避けたい。撤退命令を出したら深追いせずに素早く撤退する。これだけは必ず守ってくれ。この作戦が一つの希望を見出だせるよう、各員の奮闘を期待する。それでは、作戦開始だ!」
隊長がそう言うと、上へ飛び出せるように客車の屋根が開く。これも改造してつけた機能なんだろうか。
僕もフライトユニットを展開して島を目指す。視線の先には小さな島がポツンと浮かんでいる。
「本拠地にするには規模が小さいわね、これなら空中から撃つ方が効果がありそう。」
「僕のは島一個潰すほど威力ないぞ、まあ由乃のはわからないけどさ…」
「やってみます?」
「いや、やらなくていいよ…」
「総員、戦闘体勢に入れ!使徒が来る!」
隊長の言う通り、普段よりも数多くの使徒が僕達の進路を阻む。
「無人偵察機を飛ばす必要もなかったか…桜、そちらで何か分かったか?」
「島の中央で断続的に出現反応が出てます!この位置からだとどうにか当てられる距離です!」
「分かった。悠、由乃、砲撃準備!雅哉と桜は準備が整うまで機動防盾で二人を守れ!龍一、海斗は私と共に使徒の迎撃に当たる!」
『了解!』
息の合った返答。こうして僕達の戦いが始まった。
僕は手に持ったバスターライフルと烈風をケーブルで繋ぎ、射撃体制に入る。
一方の由乃もあっという間にヨンロクを展開し終えていた。
「今日は調子がいい?」
「なんだかよくわからないですけど…不思議な感覚で、すぐに形になりました。」
「やろう、由乃。」
「はい、先輩!」
「雅哉さん、準備完了です!思いっきりやっていいんですよね!?」
「もちろんだよ。」
僕は由乃と一瞬目を合わせると、バスターライフルのトリガーを引く。全く同じタイミングで由乃もヨンロクからビームを発射する。
7本の光は使徒を巻き込みながら島の中央へと伸びていく。瞬間、島は大きな爆発を起こす。
「こりゃすげぇや、これならやったんじゃないか?」
「龍一、油断するな。奴らの反応は消えてないぞ。」
探知能力を駆使しながら、梓は宙を舞う。数が減ったとはいえ空にはまだかなりの使徒が飛び交っている。
「おかしい、あれだけの大爆発が起きても使徒の反応が減らない…?むしろさっきより増えているような…」
大爆発で起きた煙のせいで島の様子は全く分からない状況の中、梓の探知能力は数を増やしていく使徒の反応を捉えていた。
微かに煙が消えてきた頃、大きさが半分程になった島の中央部にドーム状の何かが出現していた。
「あれは…?」
「悠!由乃!今ある全てのエネルギーを投じてあのドームを破壊しろ!割るのではなく、破壊しろ!」
「隊長!?」
「急げ!あれから奴らの反応が出ている!!」
その言葉を聞いて、悠は反射的にバスターライフルのトリガーを引いた。だが、エネルギーをチャージしきれていないために銃口から出るビームはドームを破壊するには至らない。
続けて由乃もヨンロクからビームを発射するが、結果は悠と同じだった。
「隊長、あれ段々膨らんでないですか!?」
龍一の言葉通り、ドームは先程より大きさを増し、元の島よりも大きく膨らんでいた。
「作戦を立て直す……撤退だ!総員撤退!」




