第9話 始動の時
「つまり、そのゼロとかいう青年が使徒のリーダーであり、言い伝えの中の『扉を開く者』であると?」
「はい。私と、一航戦所属の篠宮悠も同じ話を聞いています。また、2回ほど攻撃を仕掛けましたが目立ったダメージはありませんでした。」
ACFの一航戦専用の会議室。そこでは政府の高官達と一航戦隊長、桐谷梓が先日の津田之原研究所襲撃について会議を開いていた。
「開発中の新型機が守られたのは幸いだ。だがこれ以上ACFに費やす予算はない。」
「それではゼロを倒し、脅威を取り除くことは出来ません。この間にも、人類は滅びへと向かっているんです。」
「諸外国からは疑いの目を向けられているんだ。使徒などという存在をでっち上げ、軍備を整えているんではないかと!」
「ならばあなた方はこのまま滅びを迎えてもいいと仰るのか!?」
梓は声を荒げて反論する。
「私達は諸外国と戦争をするために戦っているのではない!それはあなた方も承知しているはずだ、ならばそれを自信を持って伝えればいいだけのこと、それがなぜ出来ない!」
「この国が脅威とみなされ始めているのが現実だ、よって今後ACFへの貨物輸送等は縮小させてもらう。いくら一航戦の隊長とはいえ、所詮は政府機関の一員に過ぎん!政府の決定に逆らうと言うのか!」
「……頭の悪い役人共が…!(ボソッ」
「何か言ったかね。」
梓は震わせた拳を机に叩きつけ、高官達を睨み付ける。
「頭が悪いと言ったんだ!貴様らはいつも安全な場所から見ているだけで分からんだろうが、私たちはいつも命懸けで戦っている!この国の人を、世界を、人類を守るために!!」
梓は勢いに任せて翼を展開し、会議室中を翼で包む。
「私達から戦力を削ぐということは、滅びを止められない。貴様らも奴らに殺される覚悟があるということだな?」
その言葉を聞いて、それまで反論しようと構えていた政府高官達は揃って黙りこんだ。
「そ、それは…」
「私達と共に滅ぶ覚悟があるというなら甘んじて指示を受け入れよう。しかし、貴様らの保全のためだけに滅びを迎え入れようというならぱ…」
梓は紫陽剣に手をかけ、静かに言い放つ。
「今ここで、貴様らを全員、斬る。」
紫陽剣を抜き、ゆらりと構えた梓に高官達は思わず身構える。そこへ、一人の人物が入ってきた。
「遅くなってすまないな、話し合いの方は……ふむ、穏やかな状況ではなさそうだな。」
「橘総理!」
一人の高官が助けを乞うようにその名を呼ぶ。他の高官達も、これで梓は終わりだというように笑みを浮かべる。
「総理、こいつは政府の決定に対して…」
「決定も何も、それを話し合う為にこの場を設けたはずだが?」
橘はそう言うと、梓を一目して自分の席へと座った。
「部下達が失礼なことをしたようだな、桐谷隊長。」
「いえ、私もつい感情的になってしまい…」
梓は紫陽剣を柄にしまい、翼を消すと静かに椅子に座った。
「君は聡明な人間だ、何かない限りここまでの事はしないと思うがね?…さて、この事も含めて『ゼロ』という者について聞かせてくれないか?」
梓は今までのやり取りと、ゼロについて知る限りを橘へと伝える。その間、橘はずっと眼を閉じて聞いていた。
「以上です。ゼロの真意はまだ分かりませんが、このまま放置することは出来ないと考えます。」
「ふむ…私も同意見だ。この問題が日本で起きている以上、私達が解決せねばなるまい。それなのに…どうして揉めるような事が起こる?」
橘は高官達を睨み付け、はぁとため息を漏らす。
「大方、諸外国からの影響を考えたのだろう…未来ではなく、今だけを守ろうとな。全く、馬鹿な奴らばかりで困る…桐谷隊長。」
「はい。」
「現時点で使徒に対抗出来るのは君たちACFの隊員達だけだ。君たちのような若い人に頼らねばならないことは本当に申し訳ないが、こちらも必要とする援助は惜しまない。やってくれるか?」
「しかし総理、それでは諸外国が……!」
「今はそんな事を言っている場合ではないということがまだわからないのか!?各国へは私が説明する、それでも納得出来ないというのなら、私を総理から下ろすがいい!」
高官達へ一喝すると、橘は笑みを浮かべて梓の方を向いた。
「君たちに、人類の希望を託す。君たちならやってくれると、信じているよ。」
「必ずゼロを倒し、人類を守ってみせます。そのたのACFで、そのための私達ですから。」
「馬鹿共が迷惑をかけて済まなかった、それでは失礼する。」
橘は高官達ともに会議室を出ていく、入れ替わるように雅哉が入ってくる。
「ずいぶん荒れたようですね…?」
「柄にもなく怒ってしまった。総理が来なければ今ごろここは惨状だろうな。」
「見たくない光景です。それで、今後はどうするんです?」
「まずは新型機の開発完了を急がせる。悠にテストパイロットを任せよう。」
「隊長じゃないんですか?」
雅也は驚いた声を上げる。フライトユニットの開発を進めるACFは、その新型のテストパイロットには必ずと言っていいほど梓を起用してきたからだ。
「私には今のが合っているんでな。」
「隊長らしいです。では津田之原の方には僕から伝えておきます。」
「ああ、頼む。それと今後の体制についてだが…」
「訓練生の所属隊は、その訓練指導員に準ずる…。誰もが納得する形であの二人を一航戦に編入出来ますね。」
「とはいえ経験が浅いのは埋められない、私達のサポートが重要になってくるな。」
「いざという時は私の『機動防盾』で守りますよ。」
「雅也にはいつも頼りっぱなしだな、すまない。」
「気にしないでください、隊長の補佐は私の役目ですから。」
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次の日、由乃と海斗は第一航空戦隊の隊舎へと脚を踏み入れた。
緊張した面持ちの二人を余所に、僕は初めてここを訪れた時の事を思い返していた。
桜と共にこの部屋に入った時は、すぐに隊長から模擬戦を申し込まれて……
そして、「人類の滅亡」という事実を知らされた。
恐らく由乃達も同じ話を聞いて驚きを隠せないだろう。
「…以上だ。突然の話で驚いているだろうが、人類を守るためには君達の力も必要になってくる。無理にとは言わないが…やってくれるか?」
「もちろんです。」
「やらせてください。」
二人の答えは明快だった。由乃も海斗も、自分がいつ死んでしまうかもわからない戦いに身を投じる覚悟はすでに決まっていたみたいだ。
「そうか、助かるよ。…さて、これで7色の翼が全て一航戦に集結したことになる。長らく続いてきた人類と使徒との戦いに、終止符を打つチャンスだ。」
「ですが隊長、未だに使徒の本拠地は発見されていないんですよね?成層圏にいるというだけではこちらから攻撃を仕掛けるのは難しいのでは?」
早速、海斗が声を上げる。なんだか本物の作戦会議のようだ。(実際そうなのだが)
「そのことについてだが、ここ最近になって奇妙な反応が多く検知されている場所がある。恐らく使徒の本拠地…またはそこに繋がる『何か』があると思われるんだ。」
「何かって?」
今度は由乃だ。
「それはまだ分からない。だが地上に使徒の反応が現れる少し前に、そのポイントでは必ずと言っていいほど歪みのような反応が検知される…桜、これはどう判断すべきだろうか?」
「そのポイントが使徒の出現地点である…でしょうか?」
「やはり、そうだろうな。現在では四航戦がポイントの監視に当たっているが、決定的な物の発見には至っていない。そこで、一航戦に出撃して欲しいという打診が来ているんだ。」
その言葉には重みがあった。今まで何度か実戦へ出撃はしているが、そのほとんどが輸送護衛任務でどちらかと言えば補助的な出撃ばかりだったのだ。そこへ第一線への出撃依頼が来ている…
「今回の出撃は、私達が表立って戦わなければならない。私や副隊長はともかくとして、悠を始めとするルーキーズには苦しい任務になることは避けられない。それでも…」
「それでも、やるしかない。僕たちの力を信じましょう、隊長。」
僕は自然とそう言っていた。
いつまでも戦わないわけにはいかない。今よりも強くならないと、ゼロには勝てないはずだから。
「決まりだな。では、明後日に我々一航戦は出撃する。明日はゆっくり体を休めて欲しい。」




