第8話 終わりを呼ぶ者
本部の留守を任せたあの二人は、私に気を遣って何の連絡も寄こさなかった。だが、私の翼の能力は使徒の動きを察知していた。
「紫の翼」は7色の中でも探知能力に優れ、熟練した使い手ならば遠く離れた敵の動きでさえも読むことが出来るという。私はまだその領域には達していないが、使徒が集まっていることは探知できた。
「さて…今まで動きを見せなかった奴らがどう出てくるか…」
私はアクアパークを出ると、足元に紫の魔法陣を展開して一気に飛翔する。
「どこに現れたかは分からないが、貴様らの好きにはさせないぞ。」
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一方その頃、津田之原研究所では…
「くそっ、数が多い!本部への連絡は!?」
「五航戦がすでに連絡済みです!二航戦を中心に援軍を派遣すると。」
「ならばこちらは徹底的に守備にあたれ!第一ドッグの新型機だけはなんとしても守り抜け!」
今まで地上施設への攻撃がほとんどなかったためか、突然の使徒襲来に研究所は混乱していた。
「所長!」
「どうした!?」
「使徒が研究所内に侵入した模様です!現在南ブロックで五航戦が応戦中!」
「北ブロックでは研究所員が侵入をどうにか防いでいます!」
「五航戦の一部隊を北に派遣するよう連絡してくれ!援軍の状況は!?」
「現在、二航戦が急行中!通信チャンネル開きます!」
『こちらは一航戦副隊長、工藤雅也。津田之原研究所聞こえますか?』
「一航戦が出ているのか!」
『隊長は不在ですが、二航戦と共にそちらへ向かっています。一番被害が大きい地区はどこですか?』
「南ブロックだ。すでに使徒の侵入を許している。」
『では1分後にそこへ1人向かわせます。現場の指揮は到着後、一航戦が執ります。』
「頼む!」
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「というわけだ龍一、研究所内の使徒を殲滅したら対空砲火で迎撃してくれ。」
「お前はどうするんだよ。」
「現時点で無事な地区の防御にあたる。」
「了解、じゃ、いっちょ行ってくるぜ!」
龍一は『黄の翼』を広げて南のブロックへ向かう。そこには黒い影のような形の使徒が多く群がっている。
「魔法陣展開、行くぜ使徒共!」
龍一は両手の甲に広げた魔法陣に力を込め、使徒へ肉薄する。
佐藤龍一がもつ『黄の翼』は格闘特化と対空特化の能力を持っている。いわば「切り込み隊長」だ。
「ここまでの数を相手にするのは久しぶりだが、俺の腕は鈍っちゃいないぜ?」
龍一の豪腕は、研究所内にいた使徒を次々と消滅させていく。その場で応戦していた五航戦の部隊もみなが動きを止めている。
『龍一、暴れるのもいいが現場指揮は僕らの役目だからな?』
「わーてるって、五航戦の2部隊は建物外に出て新たな使徒の侵入を防げ!残りの3部隊は他の地区への防衛をしている一航戦副隊長の元に集まれ!」
龍一の指示を聞いた五航戦の面々は機敏な動きで移動していく。一・二航戦に比べ前線に出ることが多いからか、彼らの動きは完璧と言っていいほど指示通りだった。
「さてと…まずはこいつらをやっちまわねえとな!」
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アクアパークから移動をしていた梓は使徒の反応を捉えていた。
「津田之原研究所…新型機の破壊が奴らの狙い…。となるとやはり奴らには意思があるということか…」
(7色の翼が揃ったことで使徒の動きに変化が現れるかも知れないと思っていたが、これでは最悪の物語へ向かうことになる……意思がある以上、奴らの行動は終焉を早めるはずだ。これはその前哨戦に過ぎないというところだろう。)
空を飛ぶ梓の周りには、絶え間なく使徒が現れては梓によって倒されていく。
「全く、さっきから鬱陶しい連中だな。少しは静かに飛ばせてもくれないのか。」
(これだけの数を作り出すということはどこかに巣があるはずだ。その巣さえ見つけられればこちら側にも突破口が開けるのだが…。現状ではどうすることも出来ないか。)
使徒を消滅させながら宙を舞う梓は、その視界に研究所を捉えた。ホロスコープの中には使徒以外にACFの面々の反応もある。それを確認すると、梓は通信回線を開く。
『隊長!?今はアクアパークのはずじゃ』
「連絡を寄越さなくても、私の翼はごまかせないぞ副隊長。被害状況は?」
『それもそうでしたね…。現在、使徒の侵入を許している南ブロックでは龍一と五航戦2部隊が応戦しています。その他のブロックでは侵入さえ許していませんが数が多く、苦戦を強いられています。』
「ドッグは?」
『ドッグの方は僕が守っています。』
「一航戦随一の防御を誇る雅也なら問題ないな…私は指揮を執っているであろう大型の殲滅をする。」
『お願いします。』
「それと、龍一には暴れすぎるなと言っておいてくれ」
『ええ。隊長、ご武運を』
通信を切ると、梓は使徒の本隊より少し離れた位置にいる大型の使徒めがけ急降下する。
「貴様を倒せば終わりなんだろう?手短にやらせてもらうぞ。」
「ムラサキノ…ツバサ…」
「今さら気づいたところでもう遅い。蒼ほどではないが、私の剣は早いぞ?」
梓は言うなり大型使徒に斬りかかる。大型な分動きが鈍いため、避けることができていない。
「せっかくの休みだというのに…少しは空気を読んでくれてもいいんじゃないのか?」
梓の戦いは一方的なものだった。大型の護衛をしていた小型の使徒を一刀両断し、大型でさえ反撃の隙を与えない連続攻撃で弱らせていく。
「ま、これで終わりにしよう。紫陽・千本の舞!」
高々と梓が構えた剣が、紫色の光を帯びてその数を増やしていく。
梓がもつパーソナルウェポン「紫陽剣」は見た目こそ普通の日本刀だが、多くの特殊能力を持つ「紫の翼」所有者専用の剣。
その特殊能力の一つ「紫陽・千本の舞」は紫陽剣を分裂させ、剣の檻に閉じ込めて斬り刻むという梓が最も得意とする能力だ。
「いくら大型とはいえ、これに巻き込まれて生き残れる使徒など存在しない。」
「紫陽・千本の舞か…君が使う技の中でも一番使用率が高いやつだね?」
「誰だ!?」
斬り刻まれたはずの檻の中からした声に、梓は思わず声を上げる。
「紫陽剣の技は厄介なのが多いみたいだけど、これはボクに通用しないみたいだね?」
紫陽の檻を破り、中から全身を黒いローブで包んだ青年が出てくる。
「貴様は誰だと聞いている!」
「おお、怖い怖い。これが噂に聞くACF最強の戦士か、やっぱり生は迫力が違う。」
「答える気がないようなら、誰かは知らんがここで斬るまでだ!」
梓は紫陽剣を横に構え、謎の青年に斬りかかる。
「紫陽・連斬!」
横から振り抜かれた剣を青年は後ろに下がるだけで避けた。
「だがもう一閃残っているぞ?」
振り抜いた剣を持ち上げ、そのまま振り下ろす。さっきよりも近い距離での一閃は青年の体を確実に捉えている。
が、その剣は青年の指に挟まれて動きを止めた。
「何!?」
「そんな初歩的な技じゃボクは倒せないよ?」
(こいつ、いままでの使徒とは何か違う!)
梓は翼をはためかせ、青年と距離を取る。
「警戒して距離を置いたのか…まあ懸命な判断だね。」
「今度こそ答えてもらおう、貴様は何者だ。」
「どうやら答えるまで帰してもらえなさそうだね…。ボクは、君たちが『使徒』と呼んでいる存在を統べる者、行き過ぎた発展を『滅び』という形でリセットさせる存在、『ゼロ』さ。」
「ゼロ…?」
「命が息づく星で、行き過ぎた発展をした存在をゼロに戻すのがボクの役割さ。使徒はボクの行くべき星を見つける尖兵。そしてボクが降り立った星には程なくして『終わり』が訪れる。」
「なるほど…貴様が言い伝えの中にある「闇の扉を開く者」というわけか。」
「本当なら、ボクは扉を開くだけでいいんだけどね。この星は他のに比べると随分しぶといんだ。今まで何度と訪れても失敗する。そうして手を焼いてるうちにACFなんてものが出来ちゃったから、ボク自身がやってきたってことさ。感謝しなよ。」
「自分たちに終焉をもたらす者を歓迎する馬鹿がどこにいるというんだ。」
「ははっ、それもそうだね。でもね、ボクがこうしてここに来たからには君たちの言い伝え通りには進まないよ?終焉はもっと早く訪れる。それを阻止できるか出来ないか…君たちの最期のあがきっていうのを見せてくれるかい?」
「そんなもの、ここで貴様を斬れば終わることだろう?」
「そうかもしれないね。でもボクはまだ挨拶に行かないといけない場所があるんだ。ここで君とやりあうのは好ましくない。」
ゼロはそういうと、一歩下がって翼を広げる。
「ボクの翼は漆黒。知ってるだろう?色は混ざると黒になるんだ、それは君たちの翼も同じ。いくら7色の翼があっても、その全ては混ざった末に黒になる。その意味がわかるかな?」
「つまり、私達がいくら力を合わせても行き着く先は漆黒の闇、塗り替えることは出来ないと言いたいのか?」
「理解が早くて助かるよ、流石は一航戦の隊長といったとこだ。」
「それは貴様の理屈だ。私達は必ず勝つ、貴様らの勝手な判断でこの星を滅ぼさせたりはしない!」
梓はゼロを睨み付けてそう言い放つ。
「いい眼をしている。けれど今日はここでお別れだ、また会う日が必ず来るよ『紫の翼・桐谷梓』…。」
ゼロはその言葉を最後にその場から消えた。
「逃がしたか…。」
『こちら工藤、隊長、聞こえますか?』
ゼロの姿を見失った梓の元に通信が入る。
「…桐谷だ。」
『研究所の使徒が撤退していきます、追撃はない模様。』
「そうか、では被害状況を記録して私達も離脱する。それと…広域に大型の反応が出ないか本部に監視を強化するように伝えてくれ。」
『わかりました。隊長は?』
「私は少ししたら戻る。」
『了解しました。』
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場所は変わりアクアパーク…
「ふー、よく遊んだわね~」
プールの閉館時間ギリギリまで遊んでいた僕達は、バスに乗るために駐車場へ向かっていた。
「休憩以外はほとんど水の中にいたのにまだ元気が残ってるのか…」
「さすがさーちゃん…」
最初は元気だった絢佳もさすがに疲れたらしく、いつものテンションより低めだ。
「今日はゆっくり寝れそうですね?」
「俺は少し自主トレしますけど。」
「うわっ、かいちゃん元気アリアリだね~。」
そんな会話をしている中、僕は強烈な「何か」を感じ取った。威圧感のような、殺気のような、得体の知れない力のようなものを。
僕はその「何か」のもとへ走り出していた。
「先輩?」
「由乃達は先に駅に行ってて!」
「もう、何かと言えば由乃、由乃って…」
そんな桜のつぶやきを尻目に、僕はアクアパークの裏側へ走る。そこには、黒いローブに身を包んだ人物が立っていた。
「ちょうどよかった。帰っちゃってたらどうしようかと思ってたんだ。」
謎の青年はそう言うと、手の平を僕に向ける。
途端に感じた強い殺気に、思わず僕は白雪と水星を瞬時に構える。
「やだなぁ、今は戦う意思はないよ。けれど、いい反応だね『蒼の翼』…」
「君は一体誰だ?」
「ボクかい?ボクは『ゼロ』。詳しいことは君の隊長に聞きなよ。」
「梓さんと関わりがあるのか。」
「関わりって言っても、会うのは今日が初めてだったけどね。…なるほど、水星は継承されているわけか…その白い剣は君のオリジナルなのかな?」
継承、この青年は『蒼の翼』について何かしらの事情を知っているみたいだ。けど、梓さんに会ったのは今日が初めて…一体何者なんだ。
「ボクが何者なのか…考えているみたいだね。なら、見せてあげるよ。」
ゼロと名乗った青年は手の平を僕の顔の前にかざす。すると僕の意識は夢の中へと引きずりこまれた。
使徒と戦っている。僕だけじゃない、一航戦のみんなが戦っている。けど、3人しかいない。
(残るは蒼、紅、紫。言っただろう?色の行く末は黒、漆黒の闇だって!)
真っ黒な翼を広げた何かはそう言うと、一撃で一人を地に落とす。顔はぼやけて見えないが、翼の色から梓さんなのは間違いない。
次の夢では僕と、僕の足元に誰かいる。その顔ははっきりと見えた。
由乃、全身に傷を受けて横たわっている。僕がいくら呼びかけてもその眼は開かない。
その次は、僕が倒れていた。目の前に立つ青年は、冷笑を浮かべながらこちらを見ている。
「君は…」
「ほんの先のことを見せてあげたのさ。どうだい?これが君たちの未来さ。」
間違いない、ゼロは使徒のリーダー。
言い伝えの中の「闇の扉を開く黒き者」
そう分かった瞬間、僕は両手の剣を煌めかせた。
しかし、ゼロはその剣を手の平で易々と受け止める。
「今は戦いに来たわけじゃないって言ったろう?今日はほんの挨拶さ。」
「ゼロ…っ!」
「いい眼だ、紫の翼よりずっといい眼をしている。君を倒せば、今度こそ『終わり』を迎えられそうだ。」
「お前の好きなようにはさせない、僕らは必ずお前を倒す!」
「ふふふ、出来るといいね。それじゃあ、また会う時まで…使徒なんかにやられちゃダメだよ?」
そう言うと、ゼロはふっと消えた。
一応辺りを見渡して、ホロスコープでも確認するが元々の探知能力が低い僕にはゼロがどこに行ったのか全く分からなかった。
「闇の扉を開く黒き者、ゼロ……。」
倒すべき敵、ゼロ。黒幕が出てきた以上、今までのような訓練ばかりの日々は終わりになるだろう…。
その時、僕は戦えるのだろうか。守りたい人を守れるのだろうか…




