ひかりのきおく―うまれるまえ
母親のひかりの妊娠が判ったとき、ごく普通の両親からごく普通の子供が生まれて、ごく普通の幸せな家庭になる…ひかりの両親はそう思っていた。
「この子の心臓には大きな病気があります。大きな病院へ行って見てもらってください。紹介状を書きます。」
妊娠中期に入って、妊婦健診のとき医師は母親にこう告げた。
「そんな…何で?!うちの子が…どうして…」
母親は信じられなかったが、かなりショックを受けて泣いた。
「俺も職場の上司に話して休みもらって一緒に病院行くよ。俺たちの子だ。大丈夫だよ。ほら、こんなに足で蹴っている。元気じゃないか。女の子だったんだよな?名前、考えよう。」
父親はそう言って母親を慰めた。
そしてひかりには生まれつき重度の心臓病があると大学病院でも告げられた。
「病気があってもなくても、この子は私の子にはかわりないのよ。絶対に産むわ。」
両親はひかりの病気を受け入れて生んで育てていく決心をした。
「ねぇ、名前なんだけど、光ってどう?私たちの希望の“光”でありますようにって。」
「高橋光か…いいと思う。光ちゃん、パパだよ。」
「聞こえてるかしら?」
「頑張って生まれてくるんだ、光ちゃん。パパもママも待ってるから。一緒に手術も乗り越えよう…」
妊娠中は病気が悪化する不安もあったが、何よりも我が子が生まれる楽しみが大きかったので、両親にとって幸せな時間だった。双方の親、つまりひかりにとっておじいちゃんおばあちゃんたちもひかりの病気を知っていたが、ひかりの誕生を心待ちにしていた。
「光ちゃん。バァバァですよ。あら、おねんね中かしら?もう、女の子って判ってからピンクのかわいい服ばっかりに目がいってしまうのよ。そうそう、ベビーオール買っておいたわよ。光ちゃんが着てくれるの楽しみにしてるからね。」
「ジィジィだよ。おっ、動いた。バァバァよりもジィジィ好きなんだね。退院したら夜もずっと抱っこしてあげるからね。公園と…あと遊園地にも連れていってあげるぞ。いっぱい連れて行ってあげたい所があるな。」
「色々生活が大変になるでしょう?私も協力するから。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってきて。光ちゃんは私たちの孫だから。」
妊娠後期に入ったとき、ひかりの心臓は悪化はしなかったものの、良くもなかった。
しかし、ひかりの動きを感じる度に、母親の不安が少しずつ消えていった。
臨月に入り、母親はひかりを自然分娩で生むことに決めた。
「お産に耐えれなければ産まれた後も厳しい…」
そう医師に言われたからだった。
そして、
「生まれた後の手術のことですが…」
と出産後のひかりの治療方針の話があった。
両親はとても辛かったが、真剣に聞いていた。
「これが、現実なのよね…光ちゃん。しんどくないかな?光ちゃんが手術するの、本当はね、辛いよ…」
そして、いよいよ陣痛が始まった。
「光ちゃん、痛いけどママ頑張るね。だから、元気で生まれてきて…」
母親はしんどそうにお腹をさすりながら言った。




