かお
ひかりは目をぎゅっとつぶっていた。
ママとパパの顔を思い出そうとしていた。
しかし、いくら考えてもママとパパの顔は浮かんでこなかった。
声ははっきり覚えているのに顔だけはどうしても思い出せなかった。
「ひかり、遊ぼ。」
いくみがとことことひかりの方へ歩いてきた。
ひかりは頷いていくみと手を繋いでおもちゃ箱の方へ向かった。
いくみと遊んでひかりの気が紛れかけていたときだっだ。
ひかりはいつきがおっちゃんに抱っこされているのが目に入った。
「ママ…ママ…」
いつきは泣きじゃくってそう呟いていた。
ひかりは呆然といつきとおっちゃんを眺めたいた。
「いつき、泣いてる。」
いくみが言った。
ひかりはふと気づいた。
『ねぇ、ママって何か分かる?』
ひかりがせいらに聞いた言葉だ。
あの時のひかりは『ママ』という言葉の意味がまったく分からなかった。
以前の自分と今の自分が少し違うことを感じた。
「ひかりちゃん?」
前田がひかりに声をかけた。
「大丈夫?ぼーっとして。どうかしたの?」
ひかりは前田に抱きついた。
「うぅ…」
ひかりは泣き出した。
頭の中がごちゃごちゃで自分でもどうしていいか分からなかった。誰かに助けて欲しかったが、どう助けを求めていいかも分からなかった。
「よしよし。泣きたいときはいっぱい泣いたらいいのよ。」
前田は優しくひかりの頭を撫でた。
「まっ…まっ…ママー!」
ひかりは初めて大声で叫んで泣いた。
「ひかりちゃん、もしかして思い出したの?」
前田がひかりに聞いたが、ひかりは首を横に振った。
そんな様子をいくみはキョトンとした顔で見ていた。
「ひかりちゃん、焦らなくていいのよ。」
前田がひかりの顔をまっすぐ見て笑った。
「…ママの顔、分からない。」
ひかりが嗚咽をこらえながら言った。
前田が困った顔をしてしまった。
「そっか…思い出そうとしてもなかなか思い出せないものなの。忘れた頃にふと思い出すものなのよ。」
前田が少し自信なさげに言った。
『こんなこと言っても良かったのかしら…』
ひかりは分かったような分からなかったような顔をしていた。
「遊ぼ。」
いくみがひかりの手を引っ張って、別のおもちゃ箱の方へ連れていった。
「ふぅ…」
前田がため息をついた。
「大丈夫でしたか?」
おっちゃんが前田に近づいてきた。
「母親の顔を思い出せないみたいです。」
前田が言った。おっちゃんはしばらく黙っていたが、
「当然といえば当然なんですよ。ひかりは母親の顔をほとんど見てないと思うんですよ。ただ、母親がいたことを思い出せてきているのなら…なぜ自分が死んだかとか…もしかしたら思い出すのも時間の問題か…あの子は受け入れることができるのか…」
と言った。




