表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方微速録  作者: しづる
2/2

2 勉強と弊害


 そこは、大きな執務室のようだった。黒檀でできた広いデスクの向こうに、豪奢な椅子に座り、その人――否、魔神はいた。赤い服に白い髪、それが醸し出す威厳に思わず後ずさりそうになるが、頑張って踏みとどまる。


「アリスちゃん……そこの子は? 迷い子かしら?」


 顔は笑っているが、笑えない。自分でも顔が硬直していくのがわかる。そんな中、アリスが喋ってくれるのだけが、俺としては救いだった。


「そうよ……それで、ここが気に入ったって。で、家が決まるまで城に住まわせて欲しいって。ほら、自己紹介」


 そう小突かれて、ようやく硬直が解けた。


「あ、えっと、はい。そうです。私は、ララ・ラルキアニと申します。どうか一時滞在の方、ご一考くださればありがたいです」


 そういってお辞儀をする。チラリと神綺……様の方を見るが、相変わらず笑っていて何を考えているかわからない。


「そう、いいでしょう。一時といわず、いくらでも滞在していって構わないわ。何しろ、ここには腐るほど部屋が余っているのだしね」


 あっさり許可が出たことに安堵する俺。しかし次の瞬間、圧倒的な威圧感が襲い掛かる。


「ただし」


 俺は膝の力が抜けて、おもわずその場にアヒル座りしてしまう。指先一本も動かせない。何だ。「ただし」何だというんだ……!


 そこから少しの……俺にとっては永遠とも思える間をおいて、神綺様は口を開いた。


「ただし、アリスちゃんに手を出したら、どうなるかわかっているわね……?」


 「はい」。それだけが言えない。それだけなのに、口まで縫い付けられてしまったかのように動かない。言っていることは冗談のようなことなのに、その圧倒的な存在感がそんなことを言っていられなくさせる。


 そんな中、アリスが口を出した。


「はぁ……お母様。この子は人間なのよ? 魔法使いの私にどうこうできると思えないけれど」


 次の瞬間、強大な圧力が一瞬にして消え去った。


「まぁ、それもそうよね。わかりました。貴女の滞在を正式に認めましょう。夢子? いる?」


「ここに」


 夢子と呼ばれ現れたのは、赤いメイド服に身を包んだ金髪の女性だった。なんでこう、会う人会う人みんな美人なんだろうか。


「この子、ララを空いてる部屋に案内して頂戴。当面はそこに住まわせるから」


「わかりました。ララ様、こちらへ」


「あ、ありがとうございます」


 先ほどの恐怖も冷めやらぬまま、俺は夢子さんに付いていった。


 廊下の途中、夢子さんが唐突に俺に話しかけた。


「部屋の希望などはございますか?」


 俺は少し考えた後、


「アリスさんの部屋の近くでお願いします。色々質問しに行くことがあるかと思うので……」


「かしこまりました」


 それからさらに3分ほど歩いただろうか。見覚えのある廊下に差し掛かったなと思うと、急に夢子さんが歩みを止めた。


「こちらでございます」


 ガチャリとドアを開け、先導するように中に入っていく夢子さん。俺はそれに合わせて中に入った。夢子さんはそれを確認すると、部屋の説明をしだした。ここがクローゼットでここが浴室で……。部屋に浴室が付いているのはさすがに驚いたが、どうもアリスの要望で付けたらしい。何でも、いちいち入浴しに行くのが面倒くさいからだとか。女の子がそれでいいのか。いや、そう言ったら間違いなく、「その前に魔法使いだから云々」とか言われるだろう。そうに違いない。


 夢子さんが去ると、俺は早速借りた2冊の本を机の上に並べた。まずどちらを選ぶべきか。あまり食費で負担を掛けたくないから捨食を取るか、とりあえず先に魔法使い(もどき)になっちゃう捨虫か。数分悩んで、俺は決めた。捨虫にしよう。ご飯はこんなお城だ。魔界の王だ。だったらいくらたかってもいいんじゃないか!?


 そんなわけで早速捨虫の本を開いた。何々、『魔法使いになるには』ふむふむ、案外難しい言葉の羅列じゃないんだな。『まず、体内の魔力を感じましょう』。……早速わからん。魔力を感じるってどうやるんだ? 助けてアリスえもーん!


 そんなわけで、アリスの部屋で俺は彼女と顔を突き合わせていた。


「せんせー、この『魔力を感じる』ってくだりがわかりません」


「……あなた、今まで魔法使いや魔女が周りにいた? もしくはそういう家系?」


「や、全然そう言った話は聞かないけれど……」


「ふむ、そうなるとこの魔力量は先祖返りか突然変異か……」


 アリスはブツブツと独り言を言い始める。


「あの……」


「ん? ああ、アリスでいいわ。何?」


「ありがとう。それでさ、俺……私って、そんなに魔力量多いの?」


 俺はドキドキしながら尋ねた。魔力量多いとかロマンすぎる!


「フツーよ。フツー。それに毛が生えた程度」


「そ、そっか……」


 俺の落胆をよそに、アリスは言葉を続ける。


「でも喜びなさい? 一般人では手が届かないレベルではあるのもまた確か。そこは運がまぁ悪くはなかったってことね。いや、むしろ一般人に生まれたにしては運がいい方よ」


 素直には喜べない自分がいる。とりあえず、あるというんだから魔力を感じ取る練習だな。


「これから貴女と私の間に魔力のパスを作るわ。そこから流れ出る魔力を感じ取りなさい、いいわね? これは体に負担をかけるからあまり沢山はできないわ。これが本番と思って臨みなさい」


「わかった」


「じゃあ、手を出して」


「これでいいのか?」


「じゃ、繋げるわよ」


 合わさった手の平から何か温かい、力そのものとしか形容できないものが流れ出てくる。これが、魔力……。


 ゆっくり、それを増やしていくイメージ。例えるなら、種火をどんどん大きくしていくような。


「そう……上手いわね……。その魔力を循環させるイメージを常に持つこと。魔力を出すときのイメージは、グッとやってポワ、よ」


「……擬音じゃわかんねーです」


「むぅ、一々注文が多いわね。騙されたと思ってやってみなさい」


 本当にできるんだろうか。とりあえずやってみよう。


 こう……グッとやって、体の中の熱を集めるイメージして、ポワッと、それを体内で解き放つ!


「できた……?」


「うん、結構結構。できてるじゃない」


 おお、体が軽い。さっきの「ポワ」のイメージで、体の隅々まで熱が循環する感覚だ。


「おお、これが魔力の発生か!」


「そう。それさえつかめれば後は簡単でしょう? 自分で考えて、どうしてもわからないところだけ聞きに来なさい」


 俺はアリスに礼を言ってその居室を出た。自分の部屋に戻ると、早速魔法の勉強にかかるのだった。


「ふぅ、今日の勉強終了!」


 楽しい。純粋に楽しいと思える。こんな日々は久しぶりだ。さて、トイレトイレ。とい……れ?


 そうだった! 俺女になったんじゃん! 女のトイレの仕方なんて知らねーし。わっかんねーし。いやまて、何か終わった後拭くってことだけは知ってるぞ。あとあれやこれや……。うむ、中学の頃集めた知識がよもや役に立つとは! ふふふ、俺に死角無し! ……自分で言ってて悲しくなってきたでござる。


 5分後。何のことなく、余裕の表情でトイレから出てくる俺。ふふふ、こんなものか! こんなものだというのか! 流石、俺。あとは、風呂か……女性の髪は傷みやすいから丁寧に洗わないといけないってことも知ってるぞ。具体的には知らんがな! 結構長いから気を付けて洗わないとな。さぁ、いざ風呂へ!


 そんなこんなで、何とか無事に風呂を終えて。俺は妖精メイドによって運ばれてきた食事をとると、再び勉強に没頭していった。




◆ ◆ ◆




 1ヶ月後。


 俺は相変わらず薄暗い部屋で本とにらめっこしていた。必然目も悪くなりようもの。今まで使っていた男だった時のブカブカのメガネも用を為していないレベルだ。


「困った……。よし、アリスに相談だ!」


 部屋を出て、数個隣のドアをノックする。


 コンコン。


「何よ……また? ハァ、いいわ、入りなさい」


 何と言われようが怖くない。見た目幼女だから怖くない。むしろかわいい。指摘したら怒られたけれど。


 ガチャリとドアを開けて中に入る。そこには俺と同じく魔導書を読んでいたのか、綺麗に整理された机の上に何冊もの本、そして広げられた3冊の本。そのどれもが一級品で、俺にもわかるほど上等なものだ。はっと気を取り戻し、アリスに問う。


「あのさ、これ、なんだけど……。合わなくなっちゃってさ……」


「メガネ?」


「そうなんだよね……困ってるんだ。採取しに行こうにも、よっぽど目を近づけないとわからないし……」


「人間って不便ね」


「私だって早く魔法使いになりたいよ……」


「まぁ、いいわ。そういうことなら、お母様に頼みましょう。私も行くわ」


「いいの?」


「貴女一人じゃ心配よ」


「そうか……」


 そういうわけで、俺たちは今神綺様の部屋の前にいる。


 俺が頼みに行くんだ、俺がノックしなければ筋が通るまい。ということで、ノック。コンコン。


「ララね。入りなさい」


 なぜわかったし。


「あ、はい。失礼します」


「あら、アリスちゃんも一緒?」


「私はお目付け役よ」


「ララの?」


「お母様の」


 うなだれる神綺様。どこか哀愁が漂っている。しかし、すぐにそれも消えて威厳を取り戻す。


「それで? ララは何か話があってここに来たんじゃないの?」


「そ、そうなんです。実は、メガネが合わなくなっちゃって……それで、神綺様なら何とかしてくださるということで、相談しに来ました」


「あら、そんなこと? いいわ、そのメガネ……はダサいわね。こっちの方がいいわ」


 そう言って、指でくるりと円を描くと、何もないところからメガネが生まれた。


 物質の創造……無から有を生み出す瞬間をこの目で見られるとは……。


 おずおずとそれを受け取り、掛けてみる。おお、ぴったし! さすが神綺様!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ