第4話
中に入ると、重機が沢山並んでいた。鉄の扉が閉まると真っ暗で何も見えなくなる。
「こっち、黒木くん」
ツンツンと僕の肩をつつき、再び先導者として歩き出す。とりあえず僕は後ろを着いていく。奥へ奥へと進むと、二階へと続いてるであろう階段があった。コツリ、と百合さんのヒールが音高く響き、僕は内心ドキリとした。こんな音鳴らしたら誰かに聞こえるんじゃないかと思った。
「大丈夫だよ、誰もいないし」
どうして無人だと知っているんだろう。わざわざそれを狙って来たならまさしくストーカー行為…
「ストーカーなんてしてない。ちゃんと調査してるの」
見ようによっては…まぁいいや。
一段一段上がる度に腰近くまである黒髪がふわりと揺れて、甘い香りが鼻をくすぐる。そんな百合さんの後ろ姿を追う。何処へいくんだろう。あてがあるのかな。
「百合さん何処いくつもり?」
「ここね、二階が家になってるんだ。だからそこを家宅捜索」
ほぅ。確かに調査はしっかりしてるんだ。
「で、何を探しに来てるのか教えてくれません?」
階段を登りきり、くるっと僕をみる。まだ二段下にいる僕に視線を合わせるように腰を低くし、顔を至近距離に持ってくる。
「秘密です」
相変わらずの無表情で左手の人差し指を口に当てて言った。不意打ちに不覚にもドキッと、鼓動が大きく鳴った。
百合さんは踵を返し、また進んだ。慌てて僕も着いていく。
少し奥へ進むと扉があった。その扉がきっと家へとつながる扉なんだろう。
「入るよ」
百合さんは僕の返答を待たず、扉をあける。かちゃり、と軽い音をして、開く扉。本気で不法侵入しちゃうんだな…。
入ってすぐにあったのは玄関だった。不法侵入者がご丁寧に玄関から入っていいのか?
「泥棒じゃないから」
……関係ねぇ。
百合さんは少しかがみ、靴を脱いだ。綺麗に並べて家にあがる。
「早く」
渋っている僕を急かす。渋々僕も靴を脱ぐ。
先程の工場とは違って、家のなかは明るかった。生活感溢れる家。こんなところになにを探しに来たのだろう。
百合さんは家の至るところの引き出しや扉を開けている。だが、なにも盗むものが無いらしく、開けては閉じ、を繰り返している。荒らしている様子もないから、これなら通報されたりもしないのか、と納得。一応白手袋もしてる。ばれなきゃいいという思考らしい。
「ない」
一通り調べ終え、一息。無表情に変わりはないんだけど、少し悲しそうに見えた。気のせいかな。
「じゃあ…帰ります?」
色のない瞳でこちらを一瞥し、小さなため息をついた。
「そうだね。長居はよくない」
僕らは家を後にした。