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ショートえっち  作者: 友野久遠
第4話  ミイラ取りのララバイ
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2、セカンド・エロス

 いつなんでしょう、麻衣が、広瀬 廉と付き合うようになったのは。

本人たちにも、はっきりわからないようです。

 まあどうでもいいことです。

 あんなに女癖の悪い男に、どこからどこまでと線を引かせること自体、何の意味もないんですから。


 とにかく、わたしが廉の話を麻衣から聞いたのは、高校1年の春でした。

 わたしの家で雑談してる時でした。

 クラス写真を見て、麻衣が歓声を上げたのです。

 「廉と同じクラスなの!?」って。


 その時点で、廉は麻衣のほかに、麻衣の友達とも付き合っていました。 同時にその母親とも。

 彼の携帯はその女が渡したもの、と麻衣から聞きました。


 廉の余罪はまだまだあります。 女を常に7・8人は揃えてないと、生きていけない男なのです。

 麻衣はひとつひとつ、わたしに教えてくれました。

 それはおかしな姿でした。

 恋人の浮気を語るにしては、何だか楽しそうに見えるのです。

 どこか狂ってる、とぞっとしました。


 わたし自身は、廉とはほとんど話したことがありませんでした。

 同じクラスにいても、会話をした記憶は数えるほどです。

 廉の方は、誰とでも気さくに話をする人間ですから、きっと私の方が、話しかけようとしなかったんでしょうね。


 会話をした記憶と言えば、窓の開け閉めのことくらい。

 当時の一年生の教室はひどいおんぼろで、窓がさび付いていて開けにくく、開けたが最後、二度と閉まりませんでした。

 「鈴木さん、頼むよ」

 窓際の席にいた廉に、何度か開閉を手伝わされました。

 わたしはそういうことが得意でした。 築50年の古家で育てば、誰だってそうなります。

 閉まらない窓のキモチが、わたしにはわかったのです。

 それ以外のことで、廉がわたしに興味があるようには、とても思えませんでした。


 クラスの女の子たちは、廉に相当に興味があるようでした。

 陰でこそこそ噂したり、印象に残ろうと、馬鹿をやったり、こっそりネバネバにじり寄ったり。


 友達におんぶ抱っこで、自分では何もしない子もいます。

 そういう子に限って、楽屋に下がるたびに、一番大騒ぎするとか、その友達も、親友のために一肌脱いだふりをしてるけど、実は自分がドキドキしたくてやってるとか。

 まあずいぶん、いろんなアプローチがあるものだと思います。

 ホントにただただ、感心してしまいました。


 でも、ここだけの話、当時わたしの目から見た廉は、少しも女好きには見えませんでした。

 ルックスはいいし、子供っぽくもなかったですけど、話をしてると、なんかね。

 プレイボーイって感じじゃないんです。 もう少し、無邪気っていうんですか?

 変な話、まだ女に目覚めてないみたいに見えるんですよ。

 相手に警戒心を起こさせない点では、得なキャラなのかもしれません。


 

 「あたし、廉と別れる。

  気が変にならないうちに、別れるからね!!」

 麻衣が電話口で泣きました。

 高3に上がる年の、春休みのことです。


 学校が休みなので、廉と愛人たちのタイムテーブルが狂ったのです。

 廉は、一人ぼっちで家にジッとしていることができない男です。

 並み居る恋人たちに電話をかけ始めます。 本妻から、2位3位と順位があるようです。

 1位の麻衣は、たまったもんじゃありません。

 自分がスルーした途端に、浮気されるわけですから必死です。

 廉の時間を、なんとか食いつぶそうと無理をします。

 

 勉強、友達、趣味、イベント。 あらゆるものを犠牲にして、廉に付き合おうとします。

 そこまで頑張っても、油断するとやられます。

 「きのう○○ちゃんに会ったんだけど」

 廉が電話で言うので、麻衣はどん底に落ちます。

 「なんで会うのよ! ほかの子となんか、会わないでよ!」

 そう言いたいのに言えません。

 言った途端、本妻から6位くらいに転落です!

 にっこり笑って、話をきいてやらねばなりません。 


 廉だって部活やバイトがあるし、そんなに暇なはずはないんですが、女に会う時間だけは、何故だかいつでも湧いて出てくるのでした。


 「なにそれ! 奴隷より悪いじゃない!

  女を馬鹿にしてるんじゃないの?」

 麻衣の話を聞いて、いらいらして叫びました。

 一度文句を言ってやりたいと思うのですが、もうクラスが違うので、滅多に会うことがありません。

 わざわざ呼びつけてまで説教するほどの情熱は、その時点ではありませんでした。


 それが、下駄箱で廉を見た日の前日のことだったのです。

 実際に見てしまうと、この男やっぱり尋常じゃないという気がして、麻衣が可哀想になりました。

 同時にふつふつと怒りが沸いて来ました。


 廉を異性として意識したのは、これが初めてのことでした。

 少なくともわたしの意識の中では、廉は清潔なクラスメートだったのです。




 バス停に向かう歩道を、息の続く限り駆け抜けました。

 胸の中にハリケーンが吹き荒れていました。

 

 ナマでラブシーンなんか見たのは初めてです。

 日常の情景の中に、そんな世界があったことがまずショックでした。

 それが知り合いだったことが二重にショックで、道着のままで抱き合ったふたりの姿が、頭に焼き付いて消えません。


 それまで廉というオトコは、あまりよく知らないヤツでした。

 彼はあくまで麻衣の話の中だけの存在であって、クラスで一緒だった「広瀬くん」とは別人でした。

 頭の中では同一人物とわかってましたが、どこかで別の引き出しに分類されていたんです。

 それがいきなり、ひとりの人になってしまったのです。

 わたしは混乱のあまり、泣き出しそうになっていました。


 その感情が何なのか、その時はよくわかりませんでした。

 とりあえずは「怒り」だと思うことにしました。

 胸の動悸は、憤慨してるからだと。


 怒りの理由もちゃんとあります。 麻衣を泣かせる行為だからです。

 やっぱり、ひとこと言ってやる。 そう決心しました

 麻衣には内緒で、廉の携帯番号を手に入れました。


 呼び出したのは、次の日の夕方、家の近所の公園でした。

 そこなら知っていると廉が言ったのです。


 

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