一日目 ~僕にとっては不幸な出会い~
「クリスマスかぁ……」
街はウキウキモード。しかし、遥架乃 カナタも例に漏れずウキウキしていた。どんなに運が悪くたって、やはりウキウキしてしまう。
一人暮らしだけど、今日はケーキでも買っていこうか? いや、なんかプレゼントでも……
「まぁ贈る人いねぇけど……」
カナタのため息は白くなって消えた。見事なホワイトクリスマス。この街としては珍しく、少し積もるほど雪が降っている。真っ白な粒が、カナタの頬に触れて溶ける。当然だが冷たい。
雪なんて何年ぶりだろうか。カナタは自分の『不幸体質』忘れて、空を見上げながら歩いていた。いや、歩いてしまっていた。
つまるところね、右から車が来てるのだ。しかも軽トラ。しかも運転手電話中。
おーっとここでカナタ選手、気付かず道路へ! 右からは軽トラがっ! カナタ選手…… まさかコケたぁ!
「車来てるよ! お兄さん? お兄さんってば!」
三島青果の親父さんが声をかけるも、カナタ選手はイヤホン装着中だぁ!
とまぁ盛り上がってみたが、立ち上がったカナタは恥ずかしさのあまり周りを見渡したおかげで、軽トラが来ているのに気付いた。
軽トラはもう目と鼻の先だったけど。
絶対死んだと思った。だけど、気付いたらあの兄ちゃんは少し先に居たんだよ!
と三島青果の親父さんは語った。
次に目覚めた時、カナタはフカフカのベッドの上にいた。部屋は清潔で広く、シャンデリアなんかも付いている。
「あれ…… ここは……」
「お、目覚めたか。ここは響矢病院の特別個室だ」
あぁだから何か病院臭かったのか。ここは病院…… 病院!?
「何で!?」
「わたしが連れて来たのだ」
カナタの目の前に、髪の毛を二つ縛りにした女の子がヒョコッと現れた。病室のベッドが高すぎるのか、台を使ってやっと顔が出るくらいだ。
「わたしの名前は響矢 ユウカ五歳。響矢財閥のお嬢様だ!」
「……えぇ!?」
「そしてね、遥架乃カナタ。アナタに頼みがあるの。」
「突然? 突然過ぎない? 第一、俺達会ったばかりだしさ……。ありがたくは思うけど。金だっていつかは返すから!」
「腐ってもわたしはお嬢様、金はいらん。頼みと言うのも簡単だ。わたしを、『誘拐してくれ』」
カナタ、頭の回線ショート。しかしユウカは得意顔。
「な…… 何で俺がそんなことを……?」
「わたしの直感よ!」
カナタは困惑して何も言えなかった。何を言い出すんだ、このお嬢様……
ベタだが、この出会いがキッカケでカナタの人生は大きな渦に飲み込まれる事になる。
五歳児のお嬢様と一緒に。