光を遮る虚な太陽
百合のつもりで書きました。が、複雑化し過ぎていて全然そんなことないかもしれません、すみません。
「そのキーホルダー私も好き!」
私の持っていたうさぎのキーホルダー。少し汚れているのは、昔からずっと好きだから。
私に、あなたは声をかけてくれました。
光の入ったビー玉のような目をしていて、太陽を遮るように立っているので刺してくる光を、自分のものにしている女の子。少し明るいブラウンの髪の、3年生になるというのにセーラー服がまだ少しブカブカしている女の子。誰も話しかけてくれなかった私に、あなたは優しく元気に声をかけてくれました。
国語の時間は好きです。本を読むのが好きなので、その解釈を深められることはとても楽しいことです。だけど最近私はあまり集中ができないのです。意見交換の時に必ずあなたが声をかけてくれるから。声をかけてくれるか、ちゃんと話せるか私が気にして集中力が散漫するから。前はよくあっていた国語の先生との焦点も、今は度がズレたメガネのように合いません。私の目に映るのはあなたの明るいブラウンの髪です。光にあたって水面のように光るあなたの髪は、私と話す時に、カーテンのようになります。私が座って、あなたが立っているから。横にはあなたの髪、前にはあなたの顔。私はその時にあなたに包まれている心地よさを感じられます。私からなかなか声をかけることができなくてごめんなさい。人に話しかけるのが苦手で、誰とどう話をしたらいいのかずっとわかりません。あなたと仲良くなってからも、わかりません。あなたは私とまるで違って、太陽みたいだから、私には真似ができません。私には何もあなたと同じところがないです。あのウサギのキーホルダーだってきっとあなたの生活の1つも満たしていないでしょう。
図書室、あなたを見ました。私には見せていない顔でした。向けている先には何もありませんでした。図書当番の彼女は虚空を眺めていて、その視線があまりにも一点化しているから、その空間を切り取って取り出せる気がしました。私は声をかけました。何を見ているの、と。あなたは言いましたね。自分。私と同じで空っぽで、何もないのよ 私はあなたが自分をそんなふうにいうなんて思っても見ませんでした。なんでそんなふうにいうの、なんて言えません。人には人の悩みがあるしそれは他人には理解し難いものだからです。私でよければ力になりたい。なんて聞けませんでした。もしあなたの抱えている悩みが、私より軽いものだったら、あなたが私の思っているような明るく太陽のような人だったら、私が今一瞬期待をした、私のように悩みを抱えて苦しんでいる、少しでも暗闇の中を彷徨ったことがある人ではなかったら、期待を裏切られたら、怖い。私が劣等感でやられてしまうかもしれない。という気がしました。ただ、隣にいました。彼女の隣にあったビビットグリーンのパイプ椅子に座って、誰も来ない図書室に2人でいました。言葉は交わさなかったです。私はあなたが見ていた虚空を一緒に見ていました。からっぽです。でも、光が差しています。あなたみたいです。あなたはやっぱり私が思っているような太陽な人なんでしょう。暗い人でも、私のような人でも、と思ってはいけないような気がしました。私はその理想像を崩さないまま、あなたを好きでいたいのです。私の太陽のまま、私はあなたに照らされる土になりたい。
でも私は不覚にも、虚空を眺めて虚な目をするあなたが美しいと思いました。
あなたはずっと私と一緒にはいませんでした。教室の誰とでも喋れる、明るい人です。ただ最近あなたは誰とも喋らず、その先生にバレない程度の薄い色の口紅で囲った唇を、全く動かしていないような気がします。あなたの周りにいつもいた人は、あなたを除いています。何かあるんだろう、そう思いました。でも私は、私は、何もしませんでした。あなたのことが好きなのに、あなたが大好きなのに何もしませんでした。自分を守りたかったからではありません。虚な目をするあなたが私は好きなのです。太陽のような目をするあなたも好きです。だけど、やはり、私と同じような気持ちを抱えているような目をするあなたは、私との共通点を増やすような気がして私は、嬉しくて。私は何もしませんでした。移動教室、2mほどの距離を置いてあなたが1人で前を歩いています。高校生活がもうすぐ終わります。あなたのスカートは、膝の上をかすりながらゆれ、あなたを包んでいます。
今日は卒業式です。
あなたは、来ませんでした。あなたと前仲良くしていたストレートヘアの女の人たちは、あなたのことなんか気に求めずにはしゃいでいます。
私は、ずっと1人で机に座っていました。あなたがいつも遮ってくれていた窓から刺す光は、今日は、遮られることはありませんでした。
私はあなたを、友達という意味で好きになっていたのではないと思います。あなたに幸せになって欲しいです。あなたに不幸せになって欲しいです。私と同じような人生を歩んで欲しいです。その姿を私に、見せて欲しいです。私は全部受け入れるから、あなたの光のない目を私は見たいです。愛したかったです。好きでした。あなたが好きでした。私に話しかけてくれるのが好きでした。図書室にいる時虚な目をするのが好きでした。髪を耳にかける時に流し目になるのが好きでした。あなたが人と弁当を食べる時に、入っていた苦手なおかずを、人に見えないところで残してあるのが好きでした。体育ができないのが好きでした。私とペアになった時に、体を動かす憂鬱を押し殺してでも笑顔を見せてくれるのが、好きでした。あなたは今どこにいますか。卒業式から、会えていません。
私は今、都会の企業に就職しています。時は経って、私もアルコールというもの摂れる年齢になりました。生活は贅沢ではないけれど、毎日ささやかな出会いがあって、私の世界をだんだん色づけていきます。あなたのことも、私が今日このニュースを見るまで思い出しませんでした。お天気を伝えた後、アナウンサーの方が眉を少しひそめ次の報道をしました。あなたの名前が、事故についてつづられたテロップと共に画面に表示されています。昨日の電車、止まっていました。長い間ずっと。私は仕事の飲み会の後で、酔っていたので何も気に留めていませんでした。後輩と喋りながら次の便を待ち、ただ遅れた時間に家に帰っていました。
[山手線 20代女性の飛び降りにより2時間遅延]
そう書かれたテロップの下には、私によく見せてくれたビー玉のような目をしたあなたが、あの時の時間のままの顔で、画面の中で笑っています。高校三年生の時に撮った卒アル用の写真。この写真しか、残ってなかったんだ。私はあなたが亡くなったことよりも先にそれを思いました。
そんなに、冷たくなりましたかね
私は今を懸命に生きているはずなのに、本を読む時、朝日を見る時、あなたのことを頭に浮かべます。その度ひどい頭痛と吐き気に襲われて、何もすることもままなりません。あなたは今何を眺めていて何を食べていますか。あなたのいるところは、お腹が空くのでしょうか。私は、時々思います。せめて高校生活の最後の最後まで、私が色づけてあげられていたらあなたは、少しでも幸せだったのかと、。
私はあなたに恋をしていました。それは今でもそうなのかもしれません。今日も起き、会社に向かう日です。古いウサギのキーホルダーは、今も私の枕元に置いてあります。たまに願うのです。でも叶いません。あなたは、あなたは遮ってくれません。うるさいほどに浴びせられるこの光を。




