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魔族領で暮らす勇者①

勇者アーサーが魔王領で暮らすことになってからは怒涛の毎日だった。



先ずは民衆がパニックにならないように、魔王ゼノンが事前にアーサーを来客として紹介するイベントがあったのだが、、、




「あ、こいつ勇者ね。害は全くないから仲間としてこき使ってやってくれ。」




「お、おいゼノン!?」




ゼノンは街の中央広場で民主を集めると、一言で紹介を終わらせた。



その時の勇者の顔は、一目見ただけで分かるほど焦っていた。




それもそうだろう。自分達の敵である勇者がこれから一緒に住むなど、もし自分が逆の立場なら絶対に反発する。



だからこそゆっくりと信頼を得て、後々自分は勇者であることを打ち明けようと考えていたのだ。




(なのにこの馬鹿は!?)



内心考え無しの魔王に怒りを覚える勇者だったが、その考えはすぐになくなった。



「ほぇー、なんとまぁ勇者が一緒に暮らすなんてなぁー。」




「勇者って強いんでしょ?一緒に遊んでくれるかな?」




「魔王様もまた面白いこと考えるよなぁ。」




「勇者をこき使っていいなんて一生に一回の経験だな!」




なんと周りは怒るどころか、楽しいことがあったかのように騒ぎ始めた。




「な、なんで?」



「あー。こいつらの反応が不思議か?」




ゼノンの問いかけにアーサーは無言で頷く。



ゼノンは「これからよろしくな。」とだけ伝えると、アーサーを連れて広場から離れるために歩きだした。




「あいつらは本質を見てるからだよ。」




「本質って?」




「悪いのは人間全体じゃない。王族とか一部の人間が攻めてきているだけで、人間の中にも良い奴はいるってこと。」




「それは分かるけど……そんなの全員が納得するわけないじゃないか。」




アーサーの疑問はもっともだろう。現に先程の民衆の中には、嫌そうな目をしている者もいたのは確かだった。



「まぁ前魔王……俺の母親も人間との共存を理念として掲げていたからな。大半の民衆は理解してくれている。だが実際王国軍に家族を奪われた者や、自身が襲われて怪我をした者もいる。そういう奴らは内心では分かっていても、本能的に受け入れられないだろうな。」




前を歩いていたゼノンは立ち止まり、アーサーの方を振り返ると真剣な目見つめる。




「だからこそお前なんだよアーサー。」




「僕?」




「お前言ったよな?人間と魔族に共存ができれば一番だと。」



それは先日の戦いの最中に言ったアーサーの本音だった。




「あんなこと言う勇者……いや、人間を見たのは初めてだった。俺が言ったところで彼らは受け入れられない。だが人間であるアーサーが彼らの信頼を得られれば受け入れてくれると思うんだよ。」



「ゼノン。」



ゼノンはまた魔王城に向かって歩き出す。




「分かったよ。僕も魔族のことをちゃんと知りたいから全力で彼らとぶつかるよ。」




その返答を聞いたゼノンは満足そうに口角を上げた。




「そういえば魔王城って今はゼノンしかいないの?」




「いや、四天王は復興作業で出ているがそれ以外の者はいるぞ?」




アーサーは魔王領で暮らすと決めてから数日、魔族のことについてゼノンから学ぶため城にいたのだが、誰一人姿を見ていなかった。




「あぁ、そういう事か。」



ゼノンはアーサーが言わんとすることが分かり一人納得していた。



「おいおい。納得してないでどうして誰も見てないのか教えてよ。」




「今あいつらは療養中だからな。」




「療養中……何かあったの?まさか王国軍が攻めてきたのか!?」




アーサーの中で一つの疑問が湧き出た。




(あれ?その場合僕はどちら側に立つんだろ……)




アーサーに大きな悩みが生まれた瞬間だったが、ゼノンの答えはまさかのものだった。




「いや、俺がぶん殴った。」




「はい?」




「魔族にも頭の硬いジジイが多くてな。お前を城下町で暮らさせるって言ったら大揉めしてな。」




ゼノンは思い出しながら笑っている。




「魔族ってやつはさ単純なんだよ。意見が分かれた時は話し合うがそれでも解決しない時はコレよ。」




そう言うとゼノンはアーサーに握り拳を見せた。




「強者こそ正義。勝った奴の意見を聞く。」




「その結果ボコボコにしたと?」




「あぁ。魔族はよっぽどの事がない限り死なんからな。全治一週間くらいで戻るだろう。」




(そんな頑丈な魔族を素手でボコボコにして全治一週間?あの時よく生きてたな……)




アーサーは自分がほぼ無傷で今歩けていることに感謝しながら魔王城に戻っていった。

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