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魔王ゼノンと勇者②

「なんだ?お前はこの戦争の発端を知らないのか?」




「この戦争はあなた達魔族が、人類の領土を全て奪うために仕掛けたのではないのですか?」




勇者の返答に違和感を感じたゼノンだったが、頭の中にある可能性が浮かび上がってきた。




「ちなみにその話しは誰から聞いた?」




「こちらの世界に来た時に王様から聞きましたが。」




【こちらの世界に来た】というワードで、彼がこの世界で育った勇者ではないことが確定した。




恐らくだがこの世界に来てまだ間もないのだろう。そんな時に目の前にいる国の王が話した内容なら、全て信じるだろう。



「まぁ、周りの奴らの言うことを信じるのは勝手だが、少しは自分の目で実際に見たり、当事者の声を聞くとかした方がいいと思うぞ?」



最初こそ先代魔王である母を討伐した勇者一行だと思って警戒をしていたが、少し話しをしたことでその可能性は低いと思ったゼノンは、いつの間にか勇者に対して忠告をしていた。



恐らく、前世で同じ立場だったこともあり放っておけなかったのだろう。




「勇者様!そんな奴の話しを聞く必要はありません!魔王は人類の敵であり、討伐するべき厄災なのです!!」



声を張りあげたのはヒーラー役の白ローブの女性だった。



「しかし王女様、もし魔王の話しが本当なら悪いのはこちら側ではないですか!?それならまだ話し合って解決する道が……」



「何を言ってるのですか!?あなたは勇者で魔王を討ち滅ぼす使命があるのですよ!そんなこと言ってる暇があったら早く剣を構えなさい!!」



勇者の言葉を遮るように捲り立てた白ローブの女性はまさかの王女だった。




(なるほど。自分達の行いが露見する前に全てをこちらのせいにするつもりか…)




内心ゼノンは王国側の醜い考えに反吐が出そうになりながらもう一つの可能性を考えていた。




(この勇者はもしかすると、母が目指した共存の鍵になるかもな…)



その為にまずゼノンは自分がするべきことを瞬時に考えた。



そして一つの結論を出した。



「勇者は見込みがありそうだが、他は駄目そうだな。」



ゼノンが勇者パーティーを挑発した瞬間、剣士の男がゼノンに向かって斬り掛かる。



この剣士もかなりの実力者なのだろう。剣を抜いてから懐に入るまでのスピードはかなりのものだった。



相手が魔王ゼノンでなければの話しだが。



前世で勇者として研鑽を積み、魔王を倒し世界を救ったゼノンにとっては、剣士の動きはスローモーションに見えていた。



(遅すぎる…)



ゼノンはそのまま振り下ろされた剣の刀身を人差し指と親指で掴んだ。



「なんだと!?は、離せ!!」



剣士は掴まれた剣を抜こうと必死に力を込めるが、微動だにしなかった。




「とりあえず一人な。」



そう言うとゼノンはそのまま剣ごと剣士を持ち上げ、勢いよく部屋の壁に放り投げた。



轟音と共に剣士は部屋の壁にめり込み気絶した。



そして周囲が呆気にとられている中、ゼノンはすぐに盾使いの男の背後に回り込み、そのまま首元に手刀を落とした。



意識を刈られた盾使いは、力なく床に倒れ込んだ。



「これで二人目。」



一瞬のうちにパーティーの前衛がいなくなったことでパニックになったのは後衛の二人だった。



勇者はというと、あまりの実力差に為す術なく立ち尽くす他なかった。




「ゆ、勇者様!!早く魔王を倒してください!!」



黒ローブの魔法使いは全てを勇者に丸投げして、自分は戦わないという道を選んだ。



これは王女も同じのようだった。



(後ろの二人も邪魔だな。)



ゼノンはターゲットを二人に絞ると、自身の魔力を少しだけ解放する。



魔力の量で言うとゼノンが保持する魔力の一割くらいだ。




しかし魔力が放出された瞬間、部屋の空気が一気に重くなり三人ともまともに立つことができず、その場で片膝を着くような形でうずくまった。



特に魔力に敏感な女子二人は、息をするのも辛そうだ。



(もう少しだな)



ゼノンは更に魔力の放出量を増やすとピンポイントに二人に当てる。



するとギリギリまで耐えていた二人は、自身の耐えられる許容量を見事に超えてしまい意識を失った。




勇者以外のパーティーメンバーが全員倒れたのを確認してゼノンは魔力を抑えた。



投げる、回り込んで手刀を浴びせる、魔力をぶつける。



この三つの行動だけで、勇者パーティーを完全に無力化したのだった。



ゼノンから完全に敵意がなくなったことで、一気に部屋の空気が軽くなった。

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