彰良の贈り物(現代/彰良・玲)
「玲。今ちょっといいか?」
「?いいけど、どうしたの?」
年末も近づいたある寒い日、体調不良で三島家に滞在していた玲を彰良は奥の座敷に呼び出した。
幸い、昨日まで高かった熱も引いている。不思議そうな玲を連れて、彰良は緊張に飛び出しそうな心臓を抑えながら、奥の座敷へと進んでいった。
玲を連れてやってきた座敷の襖を開けると、桐箱が真ん中にぽつんと置かれているのが視界に入る。
それを見るともなしに、彰良は玲を振り返って声が震えないようにゆっくりと言葉を紡ぎ出した。あの桐箱は、彰良が準備したものだ。
「……お前に、贈りたいものがあるんだ。」
「贈り物……?」
「ああ。あの桐箱、開けて見てくれるか?」
玲は最初驚いていたものの、彰良の言葉に慎重に頷くと、そろそろと桐箱の前に座る。
そのままゆっくりと開くのを見ながら、彰良の心臓は限界を迎えそうだった。
ーーもし、気に入ってもらえなかったら……。
そんな思いが、勝手に手を震わせる。
玲は蓋を開け、半紙を丁寧に開くと中から出てきた着物に、ぴたりと動きを止めた。
その反応に、彰良は耳の奥から鳴る心音で死にそうだ。気に入らなかったのだろうか。それとも、他に何かーー、
「きれー……。」
玲はそっと呟くと、箱の中から大事そうに着物を取り出した。
それは彰良が選んだ着流しだった。毎年の東條の贈り物を見て、密かに贈りたいと準備していたもの。
白から青のグラデーションの生地に、銀糸で睡蓮が裾に刺繍された着流し。東條のものと比べると豪華さは無いが、洗練されたデザインが玲に似合うと思っていたのだ。
玲はゆっくりとその着流しを見つめてから、くるりと彰良を振り返った。
「着てみていい?」
「ああ、もちろん。」
そう答えれば、玲はその場で着替え始める。
なんだか見てはいけないような気がして、彰良は目を逸らした。
それからどれくらい経っただろうか。
衣擦れの音が止んで、玲が彰良を呼ぶ声に、彰良は逸らしていた視線を玲へと向けた。
そして、息を呑む。
「……似合う?」
少し照れくさそうな玲に、それはよく似合っていた。睡蓮の着流しに合うように見立てた羽織は深い藍色で、襟元と袖口の控えめな波模様が複雑な着流しを引き立てている。銀糸と藍糸の帯は上品で全体の調和を保っていた。そして、白い貝殻で作られた、睡蓮の帯留めが玲の繊細さをよく表している。
彰良は声を出すことも忘れて、暫くの間見惚れてしまった。しかし、はっと我に帰り慌てて言葉を出す。
「に、似合ってる。」
「ふふ、嬉しい。……ありがとう、彰良。」
玲の嬉しそうな、花が綻ぶような笑顔にまた心臓の鼓動が早くなった。
これ以上はまずい。死んでしまうかもしれない。
しかしそんな彰良の心情とは裏腹に、玲は白くて細い手で彰良の手を柔らかく掴むと、そっと小さなものを彰良の手に握らせた。
玲の手が離れていくと同時に見えたそれは、薄青の美しい睡蓮の帯留めだった。彰良が贈ったものとは違う、水を揺蕩う花の意匠。
それに驚いていると、玲が囁くように言葉を紡いだ。
「それ、ずっと渡したくて…でも、タイミングが掴めなくて遅くなっちゃった。お前の贈り物には及ばないけれど、受け取ってくれる?」
「……ああ。ありがとう。」
彰良はそれしか言葉が出てこなかった。こんなに、心が震えるのはいつ以来だろうか。
玲は、はにかむように笑うと汚れると悪いからと桐箱を持って、部屋へと歩き出す。彰良はまだ動けない。そんな彰良を、奥座敷から出ていく寸前、玲は振り返って笑った。
「彰良は睡蓮みたいだね。」
そしてそのまま振り返らずに駆けていくのに、彰良はその場にヘナヘナと座り込んだ。
顔が熱い。どれだけ紅潮しているのだろう。耳まで熱くて、心臓はもう挙動限界を超えている。
彰良は玲から貰った帯留めを握ったまま、自分の顔を覆った。
どうか、と願う。
ーーどうか、玲がゆっくり着替えてくれますように。
まだまだ彰良はこの場から動けそうにない。
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ番外編第九話はいかがでしたでしょうか?
前回から地続きのお話でした〜!
楽しんでいただけていたら嬉しいです❣️
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします❣️




