クリスマスの背伸び(現代)
冬が本格的になってきたある日。
珍しい客に、14番隊の執務室が少しだけ騒めいた。
「亜月。いるか?」
「東條さん?どうされました?」
ひょっこり現れた姿に、全員が慌てて立ち上がる。
それを軽く手で制して、司令官である東條は玲の前まで歩いて行くと、手に持っていた細長い紙袋を隊長机に置いた。
「?」
「この間、要人警護を頼んだろ。それの報酬だ。」
「え?いいんですか?」
袋の中を覗いた玲の顔がぱっと明るくなる。
その表情に東條もどこか満足げだ。
「ありがとうございます。」
「ああ。」
簡潔な挨拶だけ交わし、東條は14番隊を後にした。
残された残夏は凪と顔を見合わせると、紙袋から取り出した木箱を抱きしめている玲に首を傾げる。
こんなに手放しで喜んでいるのは初めて見た。
「良かったね、玲。今年は何?」
「ドイツ産の赤ワイン!すっごい良いやつ!」
ほくほくとした笑顔の玲は、これまた珍しく興奮したように頬を紅潮させる。
「これずっと飲みたかったんだ。あとホットワイン仕込もうと思ってさ。清治も出来たら飲む?」
「いいの?じゃあご相伴に預からせてもらおうかな。」
くすくすと楽しげな二人にますます首を傾げていれば、隣で見ていた柳瀬がこっそりと教えてくれた。
「毎年、クリスマスプレゼントの代わりに葵様から玲さんへ贈り物を渡されるんですよ。今年はワインでしたね。」
「へえ……。」
ーーまめな人だな……。
あんなに厳格なのに、相変わらず身内には甘いらしい。しかも毎年の贈り物を欠かさないなんて。
きゃっきゃと嬉しそうな玲と清治に、残夏はなんとなくその光景を覚えていた。
そして本日。
放課後、男子四人でクリスマスマーケットに遊びに来ていた残夏はとある看板に足を止めた。
ーー『グリューワイン』。
確か、スパイスを煮込んだ温かいワインらしい。
煮込むことでアルコールは飛んでいて、未成年でも飲めるのだとか。
別名、『ホットワイン』とも。
ーー隊長が言ってたやつだ。
食に興味のない玲が、あれ程喜んでいたのだ。
一体、どんな味なんだろう。
そんなに美味しいのだろうか。
「残夏くん、どうしたの?」
「あ、凪。あれ。」
「『グリューワイン』?……玲ちゃんが言ってたやつ?」
「うん。……飲んでみたくない?」
残夏の問いに、凪がぱあっと顔を輝かせる。
雄星と司も、どうしたとこちらに来たことで残夏たちは作戦会議に入った。
なんせクリスマスマーケットは少し割高なのだ。
雄星が食べたがっているソーセージの盛り合わせを買って、他にも色々となると、ホットワインまで手を出すのはなかなかに厳しい。
「アルコール入ってんじゃねーの?大丈夫?」
「アルコール飛ばしてあるって言っていただろう。……よし。皆んなで200円ずつ。回し飲みでどうだ?」
「それすっごく名案だよ、司くん!」
凪が司に飛びつく。
それに一頻り笑って、残夏は全員の期待を胸にホットワインへと足を向けた。
並んで、一杯だけ注文する。
ワインだからだろうか。なんだか背伸びしているようでドキドキする。
そうして注がれた赤い液体を高らかに持ち帰ると、残夏たちはホットワインを囲んでごくりと唾を飲み込んだ。
「だ、誰から行く?」
「た、小鳥遊からでいいぜ……。」
雄星の言葉に凪と司が頷くのを見て、残夏は恐る恐るホットワインに手を伸ばした。
香りはなんだかよく分からない。
でもオレンジやスパイスが沢山入っていて美味しそう。
ーーぶどうジュースの甘いやつなはず……!
期待を胸にひと口。
周りのおお、という歓声に包まれながら残夏は固まった。
「ど、どうだ小鳥遊?美味いか?」
「甘い?残夏くん。」
「お、」
「お?」
「……大人味……。」
口内に広がる、形容し難い味わいに残夏は涙目になりながらそれだけを呟いた。
続く凪たちもひと口で固まる。
そして全員で顔を見合わせると無言でじゃんけんを開始した。
もちろん、残りを誰が責任もって飲むかのジャンケンである。
「おかえり。クリスマスマーケット楽しかった?」
ホットワインはさておき。
クリスマスマーケットを存分に満喫し、鼻の頭を赤くさせて帰った残夏と凪を待っていたのは玲と清治だった。
折角買った可愛らしいクッキーの詰め合わせを14番隊にお土産として置いていこうとしていた矢先、二人は残夏と凪を呼び止めると休憩室のソファに座らせる。何か良いものをくれるらしい。
「楽しかったです。色んなものが沢山あって。」
「イルミネーションもキラキラしてて綺麗だったよ!」
聞かれるままに思い出話をあれこれとしていると、何かを準備していた玲が奥からマグカップを二つ持ってきてくれた。
ことんと目の前に置かれたカップからは白い湯気が昇り、甘い香りが立ち込める。
そして何より、
「……雪だるま?」
「マシュマロのね。可愛いでしょ?」
ココアに浮かぶ、可愛らしい雪だるま。
端から少しずつ溶けていくのに、残夏はそっと口をつけた。
甘くてほっとする暖かさが身体をじわりと温める。
ーー美味しい……。
ホットワインよりも、残夏たちはまだまだこちらの方が口に合うらしい。
夢中になって飲んでいれば、玲がくしゃりと残夏たちの頭を撫でた。
なんだか幸せで、心が満たされていく。
「メリークリスマス。残夏、凪。」
窓の外で白いものが舞い散り始めた。耳の奥で、散々聞いたクリスマスソングが響く。
残夏は蕩けるような甘い香りに、もうひと口ココアを口に含んだ。
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ番外編第七話はいかがでしたでしょうか?
明日はクリスマスですね!
皆様も思い思いの好きな飲み物で暖かい夜をお過ごしください〜(*´∇`*)
短編は今年最後の投稿になります。
年明けは1/7からになりますので、また来年も読んでいただけたら嬉しいです❣️
次回は土曜日19:30頃に本編で番外編を投稿予定です。
よろしくお願いします❣️




