タピオカ事件(高専時代/同期4人)
「きゃーー!ひったくりよーー!!」
そんな悲鳴と共に、前方を背の高い中年の男が走ってくる。
駅のホーム、階段前。
清治は咄嗟のことに動けなかった。隣にいた楽も彰良も、清治よりは早い反応を示していたが足が一歩及ばず。
引ったくり犯は、そのまま清治たちを通り過ぎるかに見えた、その時。
皆んなで買ったタピオカミルクティーが飲みきれないと、一番後ろをノロノロ歩いていた玲がひょこっと引ったくりの足を自分の足に引っ掛けた。
それは児戯のようなものであったが、その素早さと正確さ、そして場所の悪さが悪人レベルの巧みさだった。
男がスローモーションのようにゆっくりと、身体を前方に傾けていく。
その先は階段の下。
下手すれば首が折れるような、急な階段だった。
そんな最悪の光景を想像して、しかし目を逸らせずに清治が固まった更にその一瞬後。
男は落ちるギリギリのところで、玲に襟の後ろを掴まれていた。
玲の腕力では到底支えられない体格だから、霊力を使っているのだろう。
ぐえっと男の喉が鳴る音がする。
そのまま玲は男をゆっくり階段上に戻すと、その耳元でそっと囁いた。
「……気をつけて。あんまりおイタすると、首、折れちゃいますよ。」
その優しげで、でもどこか氷のような冷たさを含んだ声に、男は顔を青ざめさせる。
近くにいた清治も背筋に寒いものが走った。
しかし玲のその雰囲気はすぐに消え、にこにことしたまま男が奪ったバックと、自分が持っていたタピオカミルクティーを交換する。
そして呆然としたままの男は駆けつけてきた駅員に捕縛され、玲が交換したバックは無事元の持ち主へと戻った。
そんな大騒動も、玲がつけた認識阻害の眼鏡の前には意味を成さない。
なんとなく注目が削がれた中、電車に乗り込む玲は自身のタピオカミルクティーが無くなった事にミッションをやり遂げた後のような満足そうな雰囲気だった。
「お前……ゴミくらいちゃんと捨てろよ。」
「まだ入ってたから餞別だよ。」
「飲みきれなくて困ってただけだろ……。」
電車のドアが閉まる瞬間、そんなやり取りをしている彰良と玲に、清治は心の底からツッコミたい衝動に駆られたのだった。
(違う……!!そこじゃない!!)
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ番外編第十八話はいかがでしたでしょうか?
先週が長めだったので、少し短いエピソードになります。
タピオカミルクティー懐かしいですね。
もちもちしてて好きですが、玲には多かったみたいですね。
少しでも楽しんでもらえたのなら嬉しいです!
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




