肉じゃが(高専時代/玲、楽)
休日の15時前。
小腹が空いた楽が共同キッチンに行くと、なんと玲が料理をしていた。
トントンと小気味いい音を立てて野菜を切っている。楽は邪魔をしないように背後から覗き込み、玲の手元を観察した。
よくもまあ、あそこまで器用に切れるものだ。
そんな楽に振り向くこともなく、玲がくすりと笑う。
「ふふ、楽。お腹すいちゃった?」
「わ、玲!気づいてたの!?」
「すっごく真剣に見てたからね。」
くすくすと笑う玲に、楽の頬が熱くなった。
玲はたまに意地悪だ。それでも楽を追い出そうとしないところが優しい。
バレてしまったからと、楽は玲の隣でしっかりとその作業を観察することにした。
玉ねぎを切って、じゃがいもを切って、にんじんはお花の形に飾り切り。
それから糸蒟蒻と絹さやに牛肉。
そのラインナップに楽は首を傾げた。玲はあまり肉料理が得意じゃない。
「玲、何作ってるの?」
「肉じゃがだよ。」
玲の答えに楽は合点がいって頷いた。
彰良の好きな肉じゃが。理由は分からないけれど、玲は今日、彰良のために腕を振るっているらしい。
手際よく野菜が鍋に入り、醤油や砂糖、味醂なんかで味付けされていく。
コトコトと煮込まれる音と、玲の流れるような動きに楽はなんだか落ち着くような気がして、その様子を静かに眺めていた。
まるで幼い頃、祖母の料理姿を眺めていた時のような気分だ。
煮詰まっていく肉じゃがたちが、いい匂いを立ち込めさせる。と、同時に楽のお腹も反応した。
そういえば小腹が空いていたのだ。
玲はそんな楽を振り返ると柔らかく微笑んだ。
「何か食べる?冷蔵庫に作ったものがあるよ。」
「え、玲の手作り……!?食べたい食べたい!!」
「あんまり食べると夕飯入らなくなるから、少しだけね。」
そう言って玲はタッパーに収められた料理を広げる。
椎茸の肉詰めと、牛蒡の肉巻き、柚子の香りがする紅白なますに、ほうれん草の胡麻和え。
それから季節の野菜と鶏肉の南蛮漬け。
楽はそれらをワンプレートに少しずつ分けてもらって、席についた。
玲も楽の前に座って、お茶を二人分淹れてくれる。
「味、もし足りなかったら教えて。」
「んーん、全部美味しい!」
楽の言葉に玲が嬉しそうに笑う。
楽もつられて笑いつつ、首を傾げた。
今日は一体どうしたんだろう。別に彰良の誕生日というわけでもない。
楽の疑問に、玲がそっと目を細めた。
「あいつ最近落ち込んでるから。元気出るといいなぁって。」
玲の答えに楽は目を瞬く。
確かに彰良は最近不調気味で、得意の実技も伸び悩んでいた。
それで少し疲れた顔をしていたのを覚えている。
そうか、それで。
ーー彰良ってば愛されてるなぁ。
楽はなんだか微笑ましくなって、笑いながら玲の料理を頬張った。
全部絶品で、愛情がこもっている味がした。
「あ、でも夕飯の時また同じメニューになるかも……気が回らなくてごめん、楽。」
「いーよいーよ!玲の料理美味しいから余計夕飯楽しみになっちゃった!」
こうしてご相伴に預かれるのだから楽としても役得だ。
綺麗に皿の上の料理を平らげて、楽は席を立った。
皿を洗って、機嫌よく部屋へと戻る。
玲はまだ、肉じゃがを見てなきゃいけないらしいから、夕飯まではお別れだ。
彰良の照れた表情を想像しながら、楽は軽い足取りで寮までの廊下を曲がった。
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ番外編第十五話はいかがでしたでしょうか?
前回に引き続き、食べ物の話ですね。今回は玲と楽が主軸になります。
誰かが料理してる後姿や、料理の音ってどこか懐かしくて落ち着く気がします。
だいぶ気温も上がってきましたが、皆様も風邪を引かないようにゆっくりご飯を食べてくださいね。
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




