17話
続きです。
いよいよヒロインとの合流ですね。
雪姫は目を瞑り、神経を研ぎ澄ますと、周りの空気が変わった。今まで可憐な少女の気配から一気にこのフィールド全体が緊張感に包まれた。
「雪姫さんの気配が変わった…」
「今まで本気じゃなかったのか!」
フォレストヴォルフが高速で、動き回る中、一人冷静に攻撃できる隙を窺った。
周りの風を切るような音が止んだその刹那────
背後から口を開け、牙をむき出しにしながら一直線に雪姫の方へと襲いかかった。
「雪姫ちゃん!後ろ!」
中村が雪姫に背後から襲いかかるフォレストヴォルフに気づいていないと思い、そう言ったが、雪姫自身はそのことはすでに分かっており、襲いかかるより速く、垂直にジャンプした。空中にいる雪姫は一気に下降し、斬撃を与える。
ズシャァァァッ!!
ギャウウウウンッ!!
「今のはかなり手ごたえはありましたが、それでも倒せないですか」
雪姫の斬撃は通じたが、致命的なダメージには至らなかった。
ウォォォォォンンン!!!
フォレストヴォルフは雄叫びを上げ、空中に飛び上がり、巨大な木の枝に乗り、風を切るような速さで木の枝から木の枝に移動していた。しかし、先ほどの速さと段違いで、さらにブーストがかかっており、雪姫でさえ、目で追うことができなかった。
「わ、わからねえ…速すぎて」
「あんな化け物じみた強さがこのダンジョンのボスなのか」
二人はボスの速さに圧倒され、自分達ではどうしようもない壁を感じた。しかし、その戦いに参加している雪姫は速さで圧倒されているも諦めず、思考を巡らせていた。
この動き…さっきの地上で私の周りを動き回っていったときの速さとは段違い…。スキル技で倒すしかありませんね。この方達に見せてしまうことになりますが、仕方ありません。
───雪姫はスキル技の使用に不満を抱いていた。なぜなら、彼女にとってスキル技の使用は信頼している相手にしか使うつもりはないからであった。その信頼できる相手というのは彼女の母親が言っていたご主人様ただ一人である───。
雪姫は敵を目で追えなかったため、こちらに向かってくる瞬間を狙うことにした。
さあ、いつでも来てくれて構いませんよ。
雪姫がそう思っていると、木の上で動き回る気配が消えた。
消えた…。いやっ、上!
雪姫は一瞬消えたかと思うくらいに木の上で動き回る気配がなかったと思ったが、その気配を逃さなかった。
フォレストヴォルフはまるで銃弾のような速さで、雪姫を目掛けて突っ込んできた。
さすがに速いですね。ですが、真正面に素直に突っ込んでくきてありがたいですね。これで終わりにしますか。
雪姫は剣にスキル技を込めた。すると、その剣から冷気が漂い、青く光り始めた。
「雪姫ちゃんの剣が青く光り始めた…」
「あれはスキル技!?」
「スキル技なんだそれ」
「はぁ!?スキル技を知らないんですか!?教養からやり直してくださいよ!」
「教養?そんなものはおいらには必要ないな」
二人が会話をしているうちに、雪姫とフォレストヴォルフとの距離は5メートルまで縮まっていた。その距離まで縮まると、フォレストヴォルフは口を大きく開け、歯と牙をむき出しにしながら、噛みつく。
次第に距離が縮まる中、互いに緊張感が走る瞬間───
『蒼天六華』
雪姫は噛みつき攻撃を避け、胴体部分にスキル技を放った。豆腐を切るかのように綺麗に真っ二つになった。それぞれの別たれた胴体は凍り、消滅していった。
「す、すげえ」
「これが雪姫さんの実力…」
二人は雪姫のスキル技に惚れ惚れしていた。まるで体操選手のような華麗な動きが加わり、ショーを見せられいるかのようにボスモンスターを倒したからである。
「はあ…やっと終わりましたか」
「ゆ、雪姫ちゃん大丈夫か」
「心配は無用です。この程度の相手は多少手間はかかりましたが、問題ないですね。さて、早くここを出ましょうか」
「あ、あのっ…!」
雪姫がダンジョンから出ようとした瞬間、粟田が声をかけた。
「雪姫さん、僕とパーティを組んでくれますか」
「お断りします」
「ノォォォォォ!!」
雪姫はそう即答すると、粟田は落胆した表情で、地面に手をつくほどに落ち込んだ。
「当然、中村さん、あなたともパーティを組むのはお断りします」
「ノォォォォォ!!」
中村も粟田と同じように地面に手をついて落ち込んだ。
その頃───輝は自分の寮の部屋で、杉原とのやり取りを思い返していた。
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『ね、いいでしょ?』
杉原が輝の耳の傍でそう言った。輝は思わず、顔がさらに真っ赤になり、しばらく声も出ず、口もパクパク開けて抵抗しようとした。それを見た杉原は愛らしいと思い、ズボンに手をかけようとしたとき───
『や、やめてください!』
輝は大声で叫ぶと、杉原はズボンへ手をかけるのを止めた。
『どうして?』
『俺はそういったことは好きな人としかやらないと決めてるんです。いきなり、お互いまだ知らないことばかりで、そういったことはお互い理解が深まって、好き合うことが重要であると思っています』
輝は本能では暴走して、やりかねなかったが、理性で、その本能を抑えきれた。
『やっぱり☆君って結構お堅い子なのね☆そういう子は一番好きよ』
杉原は輝から離れた。すると、エレベーターは止まり、無事6階へと到着した。
『ごめんなさいね☆少し、新人君がどういう子か試してみたかったのよ。でも、君は違うわね。君なら良い攻略者になれるわよ』
『俺を試したってどういうことですか』
『良い攻略者っていうのはね。色恋がちゃんとしている人のことを言うのよ。それは長年の攻略者をやっていて、分かるのよ。だから、こうして襲う紛いなことをしちゃったわけ☆』
『そういうもんなんですかね。もしかして俺以外にもこういうことしたのですか』
『そうね。何人か試してみたけど、ほとんどの人が私に手を出そうとしてきたわね。ただ、一人手を出す中で一番危険な人がいたわね』
『危険な人ですか?』
『ええ、最近入ってきた新人で、名前は確か松葉勝助って人だったかしら。いきなり"俺の女にならないか"とか言ってきたのよ。それで彼と一度、"あなたが勝てば、あなたの女になる。私が勝てば、その話はなかったことにしよう"っていうことで剣を交えた勝負をしたんだけど、彼はFランクにしては強すぎるわね。まあ、最終的には私の余裕勝ちだったけど、彼の強さはDランクあるいはCランクはあるんじゃないかしらね』
まじかそんな強いやつがいるのか…。
『まあそのぐらいかしらね』
松葉勝助…いったいどんな奴なんだ…。
『それじゃ、私はこれで、あっでも、これだけは言っておくわよ。あなたのことはタイプだから。気が変わったら、いつでも、私のところに来てもいいわよ~☆。私はこの棟の9階の919にいるからね~☆』
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「杉原さん、可愛かったな~。いやいや、確かに可愛かったけど、恋愛対象としてはレベルが高すぎる。まあ、異世界ライフは始まったばかりなんだ。ゆっくり進めていこう」
輝はとりあえず、腹が減ったため、飲食店で食べがてら普段着や薬草の購入も済ませておこうと思い、第1区画へと向かうため、寮を出た。寮のロビーから出ようとすると、急に前から人が来てお互いにぶつかった。
「いてて…ごめん、前を見てなかった俺が悪い。大丈夫か?」
「いえ、大丈夫です。お気になさらず」
輝はぶつかった相手を見ると、先ほど出会った杉原と同じくらいの美少女がそこにいた。しかし、杉原と違い年齢は輝と同じくらいに見え、妖艶で、しかも露出が少しあるメイド服装備で、男なら誰もが惚れてしまいそうな美少女であった。
「えっと、お前も攻略者なのか」
「はい、そうですが、今日なったばかりです」
「そっか。俺も今日なったばかりだからさ。何か困ったときは協力し合おう」
「は、はいそうですね」
「俺の名前は夜宮輝だ。よろしく」
輝はそう言って、手を差し伸ばした。
「雪姫奏です。よろしくお願いします」
この人もあの人達と同じくらいの実力でしょうね。私のご主人様には到底なりえない。
雪姫も渋々、差し伸ばされた手を取り、握手をした瞬間───
雪姫の全細胞に電撃が走った。それは今までにない感覚で、本能的に彼が強者の一人であると理解した。
今のは何?今まで握手をしてきたことは何回かありましたが、こんな感覚は初めてです。ただ、分かることはこの方は私よりも強い才覚を持っているということ…。
輝は握手をしたとき、しばらく雪姫は自分の手を離さないことに不思議がって思わず、聞いてみた。
「えっと…雪姫、どうしたんだ」
「はっ!いえっ!なんでもありません。それでは私は失礼します」
雪姫はすぐさま寮の中へと入っていった。
「雪姫奏か。俺とは縁がない美少女だな」
夜宮はそう言って、第1区画へと買い出しに向かった。
夜宮輝、あの人には何か可能性を感じた。彼と一度、ダンジョンに入り、見極めてみたいです。彼が私のご主人様になりえるかどうかを…。
雪姫は夜宮輝という存在に期待を込めた思いで、寮の部屋へと戻っていった。
区切りが良いので、メインの登場人物の挿絵をすぐ投稿しますので、お楽しみに。




