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この作品の主人公って捕まってばかりだなとか思わないで


 アユたち人魚はベーキウを見に、わざわざ海からやってきた。アユはベーキウを見て一目で心を奪われ、無理矢理ベーキウを連れ去ろうとした。


「うわァァァァァ!」


 飛びかかったアユを見て、ベーキウは悲鳴を上げた。一応美人の部類に入るアユなのだが、この時のアユは欲望に取りつかれた邪悪な笑みを浮かべていた。ベーキウは後ろに下がってアユから逃げたのだが、地面にへばりついたアユは、手を動かして這うようにベーキウに近付いた。


「うわァァァァァ! 化け物!」


「私は化け物じゃないわよ。いいから捕まって!」


 アユはものすごい勢いで両腕を動かしながら、ベーキウに近付いた。あまりの恐怖により、腰を抜かしたベーキウはその場から動けなかった。今がチャンスとアユは思ったが、ベーキウの前にシアンが立った。


「おい! そこのあばずれモンスター! あんたみたいな万年発情期に私のベーキウはやらないわよ! さっさと海へ帰れ!」


 と言って、シアンはアユの横腹に向かって蹴りを放ち、アユを海へ蹴り飛ばした。


「ああ! アユ様!」


 蹴り飛ばされたアユを見て、人魚たちは悲鳴を上げた。アユは海の中に落ちたのだが、その直後にアユは再び高く飛び上がり、ベーキウの元へ着地した。


「はーっはっは! そこのちんちくりん! 私が魚の部類に入るってことを頭の中に入れておかなかったようだねぇ。一応私は魚の仲間……だと思うのよ! だから、海に入れば力を取り戻す!」


「そんな設定知らないわよ! つーかそもそも、人魚の設定っていろいろあるから定まってないじゃない!」


「うっさい! とにかく! このイケメンは頂いたァァァァァ!」


 アユはベーキウの片腕を掴み、高く飛び上がって海に戻った。ベーキウを手に入れたと把握した人魚たちは、急いで海の中に戻って行った。


「あああああ! あの発情期集団、ベーキウをさらいやがった!」


「このまま海の底まで追いかけて、全員焼き魚にしてやるのじゃァァァァァ!」


 海の中に戻ったアユたちを見て、シアンとクーアは魔力を開放し、海の中へ潜った。それを見たヤイバは慌てた。


「おいちょっと! 装備をせずに深い海に潜るのは危険だぞ!」


「魔力でどうにかなると思うわ。ベーキウを取り戻したら、速攻で戻ります!」


 キトリは魔力を開放しながらヤイバにそう言うと、海の中へ潜った。ヤイバはどうしようかなと思っていたのだが、遠くから船の姿が見えた。それを見たヤイバは、望遠鏡をのぞいた。その船のマストには、ハンガー海賊団のマークが描かれていた。




 攫われたベーキウを取り戻すため、シアンたちは海の中へ潜った。魔力を開放したおかげで、長時間の潜水ができるのだ。シアンたちが追いかけてくることなんて知らないアユたちは、笑いながら話をしていた。


「うっしゃー! こんなイケメン見たことないわ!」


「やっぱり地上のイケメンは最高! 海の連中はほとんど魚顔だもん」


「やっぱり男は顔よねー!」


 アユや人魚たちは嬉しそうにはしゃいでいたのだが、ベーキウの顔がだんだんと青くなっていくのを見て、顔を見合わせた。


「やべ、確か人間って海で呼吸できないのよね」


「そうだった。そこんとこは人魚と比べて不便よね」


「何とか早く海の国に戻って、薬を飲ませましょう!」


 そう話をする中、上からシアンの蹴りがアユの頭に命中した。


「あっだー! 何? あ! あいつら、ここまで追いかけてきやがった!」


「しつこい女ね、しつこい女は嫌われるわよ!」


 人魚たちは次々とシアンに対して罵倒をしたが、シアンはその罵倒に対して言葉を返さず、代わりにやってはいけない指のジェスチャーをした。


「このガキ! 人魚をバカにすると酷い目に合うって教えてやるわ!」


「あんたを海の藻屑にしてやるわ、覚悟しなさい!」


 人魚はそう言ってシアンに襲い掛かった。シアンは上に向かって泳ぎ、人魚の攻撃をかわした。


「人間のくせに、泳ぎが速い!」


「相当な手練れのようね。でも! 所詮は人間! 海の中で人魚に適うわけがない!」


 アユはどや顔でそう言うと、尾びれでシアンの腹を叩いた。攻撃を受けたシアンは体を回転させながら上へ飛んで行った。


「やっぱりね。私の攻撃をかわせない! 大人しく地上に戻ることをおススメするわよー!」


 と、勝ち誇ったかのようにアユはこう言った。だが、上から現れたクーアが襲い掛かった。


「おっと、別の仲間がくるなんてね」


「こいつも相当魔力が強いわ。油断しないように戦いましょう」


 アユはそう言って、人魚たちに注意を促した。クーアは両手を前に出し、大きく目を開いた。


「何今の?」


「変顔で私たちを倒そうなんて、バカじゃないのー?」


 人魚たちは笑っていたのだが、アユはかすかにクーアの前の空間が少しだけ歪んだことを目にしていた。


「皆! 上か下に移動して! 今すぐに!」


 アユの声を聞き、人魚たちは動いた。次の瞬間、後ろにあった大きな岩の上半分が、何かで斬られたかのようにずり落ちた。


「うわ……今のは?」


「風の魔力。さっきのちんちくりんが、私たちに攻撃を仕掛けたのよ。一瞬だけ、あいつの前の空間が歪んだわ」


「風の刃。目に見えないから海の中でも使えるってわけね」


「風だけじゃないわよ」


 そう言ったのはキトリだった。キトリは闇のバリアを周囲に張り、海水が入らないようにしていたのだ。キトリのバリアを見たシアンとクーアは、その手があったかと思うような顔をし、バリアを張った。


「ふっひー。魔力で呼吸を抑えるよりも、バリアを張って移動する方法があったのー」


「サンキューキトリ。おかげで楽に戦えそうだわ」


 シアンとクーアはそう言うと、猛スピードでベーキウを連れているアユに向かって移動した。


「あ! あいつら直接イケメンを奪うつもりよ!」


「そうはさせないわよ! あのイケメンは、私たちのだし!」


 人魚たちはアユの前に移動したのだが、キトリが闇の手を作り、人魚を捕まえた。


「ギャァァァァァァァァァァ!」


「つ……捕まっちゃった」


 捕まった人魚は、苦しそうにこう言った。アユは動きを止め、キトリを睨んだ。視線に気付いたキトリは、嫌そうな顔をしてこう言った。


「強引な手は使いたくないけれど、ベーキウを取り戻すんだったら何でもするわ」


「人質のつもり?」


「あれを人と言っていいのか?」


 アユの言葉を聞いたクーアはシアンにこう聞いたが、シアンは分からないと答えた。そんな中、キトリとアユの会話は続いた。


「ベーキウを離さないなら、私もこの人たちを離さない」


「卑怯よ! そんな手を使うなんて!」


「あなたに罵倒されたくないわ。人の仲間を、自分の欲のために連れ去ろうとした人だもの」


 キトリの言葉を聞き、アユは言葉を返せなかった。歯ぎしりしているアユを見て、キトリは続けてこう言った。


「この人たちを開放させたかったら、ベーキウをこちらに渡すこと。そして、海のサファイアのことを知っている人……この際だから魚でも海の生物でも何でもいいわ。その人を紹介すること」


 キトリの言葉を聞き、シアンとクーアは驚きの声を発した。


「キトリ、海のサファイアのことまで頭に入れておったのか」


「たまたまこの状況になっただけだと思うけど、やるわね」


 シアンとクーアが驚く中、アユは口を開いた。


「そんなの卑怯よ! 私たちが一つ手放して、あなたたちは二つ手に入れるなんて!」


「残念だけど、交渉決裂ね」


 キトリは嫌そうな顔をし、闇の手に力を込めた。握られている人魚たちは、痛々しい顔をして叫んだ。


「イギャァァァァァ!」


「まずいって、これマジでやばいって!」


 人魚たちの悲鳴を聞き、アユは怒りの形相を見せた。そんな中、キトリは心の中でこう思っていた。


 悪役ムーブみたいで、なんか嫌だな。


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