海の国への行き方
その日の夜、宿に戻ったベーキウたちは食事をしながら話をしていた。
「あーあ、この刺身があのあばずれ人魚に肉だったらいいんだけどなー」
そう言いながら、シアンは刺身を食べていた。シアンと同じく刺身を食べいていたベーキウとキトリは嫌そうな顔をし、箸が止まった。
「シアン、私たちも刺身を食べているんだから、そういうことを言わないで」
「食欲が失せる……」
「ごめんごめん。刺身を見てたら、どーしてもあの人魚の顔が脳裏に浮かんでくるのよ。今度会ったらぶちのめしてやる」
「勇者さん。あまりかわいい生き物をいじめるのはよくありませんよ」
そう言いながら、ヤイバがやってきた。クーアは口の中の食べ物を流し込み、口を開いた。
「おぬしはヤイバ。なんじゃ、お前も同じ宿に泊まるのか」
「近くの宿っつったら、ここしかないからな。安くてうまい飯が食えるから。それよりも、人魚と遭遇したのか?」
ヤイバがこう聞くと、シアンは嫌そうな顔をして答えた。
「その通りよ。海のサファイアの話を聞こうとしたんだけど、先にあいつらがベーキウに発情して、襲ってきたのよ」
「ははは。そりゃー災難だったな」
「それで、そっちはハンガー海賊団の情報が手に入ったの?」
キトリがこう聞くと、ヤイバは小さく笑った。
「全然。手下が捕まったせいか、派手に動かない。ま、いずれあいつらも動くだろうし、そこを狙って俺も動こうと思っているけど……ここで会ったのも何かの縁だ。一つ、俺の話を聞いてくれ」
ヤイバの言葉を聞き、ベーキウたちはヤイバに近付いた。
「明日、俺は船を借りて海に出る。ハンガー海賊団を探すためにな。だけど、リゾート地から離れた海には危険なモンスターがたくさん生息する。俺の相手じゃないが、数が多いとかなり面倒だ」
「話が読めた。一緒に付いて行ってくれって言いたいんだな?」
ベーキウの言葉を聞き、ヤイバはベーキウに向かってウインクをした。
「ご名答。船のレンタル代は俺が持つ。あんたらはモンスターの相手をすればいい。それに、もしかしたら海の国にある海のサファイアのことを知っている人魚と遭遇できるかもしれないぜ。俺の話に乗るか?」
少しの間、シアンは答え絵を考えているのか、うなり声をあげていた。しばらくして、シアンはこう言った。
「分かった。あなたの話に乗るわ」
「オッケー。さっき言ったように、船のレンタル代は俺が出す。まぁ、予約したんだけどな」
「じゃあ、こっちもお金を払わないと」
と言って、キトリは財布を取り出そうとしたが、ヤイバは止めた。
「おいおい、俺は貧乏人じゃねーぜ。これでも、凄腕賞金稼ぎだ。たくさん悪人をぶっ倒して捕まえたんだ。金はたんまりある」
「そう。それじゃあ、あんたの船に乗るわね」
シアンは笑みを浮かべてこう言った。
翌朝、ベーキウたちはヤイバが借りた船の上にいた。
「どうだ? 結構いい船だろ?」
と、ヤイバは船を動かしながらこう言った。シアンは外に出て、風を浴びていた。
「気持ちいいー。あんた、剣の腕もあるけど船の腕もあったのね」
「そりゃーな。車やバイク、ヘリの免許も持ってるぜー!」
「意外といろいろな免許を持っているんだな」
ベーキウは小さくそう呟いた。その時、電子音が響いた。
「おっと、どうやらお客さんのお出ましだ」
「モンスターか」
クーアはそう言って、船の外に出た。その直後、巨大なナマズが海面から現れた。
「あいつはスパーキンナマズ。激しい電撃を体内から発する危険なナマズじゃ。こんな奴がいたのか」
「倒せるか?」
ヤイバの言葉を聞き、クーアは呆れてため息を吐いた。
「あんなのわらわの敵ではない。スパッとやっつけてやるのじゃ」
クーアは少量の魔力を開放し、切れ味が鋭い風の刃をスパーキンナマズに向かって投げた。風の刃はスパーキンナマズに命中した。二つに分かれたスパーキンナマズの体が海に落ち、周囲に激しい水しぶきが舞った。
「ちょっとー、あまりぬらさないでよー」
「しょうがないじゃろうが。でかいもんが海の上に落ちたのじゃ。激しい水しぶきが上がるのも当然じゃろうが。それよりも、まだまだモンスターはいるから用心しろ」
文句を言うシアンに対し、クーアはこう言った。その直後、ベーキウは海を見て何かを見つけた。
「なんか細長いイカが大量に現れたんだけど」
「あいつらはチームヤリイカ。常に集団で行動し、獲物を見つけたら数の暴力で攻撃を仕掛け、獲物を食っちまう危険なモンスターだ!」
ヤイバがこう言うと、チームヤリイカは海面から飛び出し、船の上にいるベーキウとキトリに向かって落下した。
「気を付けて。あいつらの頭は槍の先端のように固い。勢いを付けて落下してくるのなら、それなりの破壊力があるわ!」
「分かった。とにかく何とかしてみる!」
ベーキウはクレイモアを構え、落下してくるチームヤリイカを弾いた。それを見たヤイバは、大声でこう言った。
「あまり船に傷を付けるなよ。罰金取られるから」
「ああ、分かった」
返事をした後、ベーキウはクレイモアを振り回して飛んでくるチームヤリイカを海に向かって吹き飛ばした。シアンはベーキウに近付き、こう言った。
「あいつらを海に吹き飛ばしたら、また攻撃されるわ」
「それじゃあどうする? 船に傷を付けないであのイカを倒す方法はあるのか?」
「ええ。もちろん。私に任せて」
「それじゃあ、私も戦うわ」
キトリはシアンの横に立ち、空を見上げた。空には海面から飛び出したチームヤリイカが宙に浮いていて、シアンとキトリに狙いを定めていた。
「あいつらが襲ってきたら、同時に攻撃するわよ」
「ええ。シアン、あいつらを食べようって考えてないよね?」
「当り前よ。私は勇者よ。それなりにモンスターの知識はある。あいつらの体には、致死量の毒が流れている! だから、食べることができない!」
シアンがこう言うと、チームヤリイカがシアンとキトリに襲い掛かった。それに対し、シアンとキトリは同時に両手を前に突き出した。
「さぁ、行くわよ!」
「うん!」
掛け声の直後、シアンとキトリは魔力を放った。光と闇の魔力が一つにまとまり、チームヤリイカの群れを包み込んだ。数秒間の間、光と闇の魔力は放たれていた。攻撃が終わった後、チームヤリイカの姿はなかった。
「ふぅ。とりあえず倒したわね」
「ええ」
攻撃を終えたシアンとキトリは、魔力を抑えた。だがその直後、後ろから巨大な職種が現れ、シアンとキトリの体を包んだ。
「いぎゃあ!」
「しまった!」
シアンとキトリの背後には、巨大なイカがいた。それを見たヤイバは、船をオートパイロットにするように設定しながら叫んだ。
「あいつはゲスナゲソ! 獲物をその巨大な触手で弄んだ後、食っちまう最悪な野郎だ!」
ゲスナゲソは触手で捕らえたシアンとキトリの頭や体を撫でまわすように動かし、下種な笑みを浮かべていた。
「くっ! このエロイカ野郎!」
「ぬめぬめして気持ち悪い」
巨大な触手に捕まったシアンとキトリは、気持ち悪い感触のせいで力を出すことができなかった。クーアが助けようとしたのだが、その前にベーキウがクレイモアを構え、ゲスナゲソの目前に迫っていた。
「お前みたいな下種野郎、ぶった斬っても後悔しない!」
と言って、ベーキウは魔力を開放してクレイモアをゲスナゲソの額に突き刺した。攻撃を受けたゲスナゲソはシアンとキトリを離し、苦しそうに海の底へ落ちて行った。その前にベーキウは高く飛び上がって、船の上に着地した。
「ふぅ、何とかなったな」
「ベェェェェェェェェェェキウゥゥゥゥゥ!」
「ありがとう、助かった!」
シアンとキトリは、ベーキウに抱き着いてこう言った。クーアはその様子を見て羨ましそうに恨み、ヤイバは笑みを浮かべていた。
「これなら、楽に海の上を探索できるぜ」
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