純白のガラス玉
騒動が終わり、約一か月が経過した。一か月となると、人々の間ではあんな事件もあった感じで過去の事件扱いとなり、マスコミも次の大きな事件を聞き、そちらの取材へ向かった。
「あーあ、やっと落ち着いたわねー」
シアンは背伸びをしながらこう言った。ベーキウは軽く肩を回し、周囲を見回した。
「とりあえずこれで自由の身になれるってわけか」
「一か月間、ずっとこのお城の中にいたからね。外が恋しい」
キトリは窓を見ながらこう言った。そんな中、一人だけ引きこもり生活をエンジョイしていた奴がいた。クーアである。ベーキウたちは冷ややかな目で、横になってドラマを見ているクーアを見た。
「あっひゃっひゃっひゃ! この俳優、顔の割に演技が大根じゃのー! 顔はいいけど、こんな演技じゃ飯食ってけねーぞー!」
「おいおばさん」
「えー? なーにー?」
そう言いながら、クーアはシアンの方を振り返った。クーアの口の周りには煎餅のカスが大量についており、その周囲には飲みかけのコーラが散乱していた。呆れたシアンはクーアの頭を叩き、こう言った。
「あんたねぇ! いくらなんでもなまけすぎよ! 一応あんたも勇者パーティーの一員ってことになっているんだから、自覚と誇りを持ちなさい!」
「わらわの持ち物はベーキウへの愛でいっぱいでーす。そんなくだらないもん持つことができましぇーん」
と、シアンを茶化すように手をひらひらさせてクーアはこう言った。ため息を吐いたベーキウは、クーアの方を見てこう言った。
「俺が嫌いなタイプはだらしない人間だ。片付けなどの身の回りのこともできず、だらだらしているような人はあまり好きではない」
この言葉を聞き、クーアの目が覚めた。クーアは電のような動きで身支度、片付けを始めたのだ。それを見ていたシアンとキトリは、ため息を吐いてこう言った。
「言わないとできないって」
「あまりよくないけど」
呆れたシアンとキトリはこう言うと、ベーキウはシアンとキトリの肩を叩いてこう言った。
「この手はあまり使いたくなかったんだけどな。ま、いざって時に使おう」
「そうね」
シアンが返事をすると、クーアは敬礼しながらこう言った。
「ベーキウ様! ただいま掃除が終わりました!」
「ああ。それじゃ、そろそろ旅立つ支度をしてくれ」
「その後、わらわとベッドインしてください!」
「そう。それならあんたは棺桶にインさせてやろうかしら?」
シアンは魔力を開放しながら、クーアを睨んだ。クーアはシアンを睨み、大声でこう言った。
「ハーッハッハ! 小娘の威嚇など怖くもなんともないわい! わらわの魔力を感じるがいい!」
と言って、クーアも魔力を開放した。だが、クーアの周りから出てきたのは小さなオーラだけだった。
「あ……あれ? おかしいなー。いつものように強い魔力が出ないぞー」
「さぼっていたから、弱くなったのよ」
キトリの言葉を聞き、クーアはショックを受けた。
「そんな……まさか……たった一か月、前みたいなニート生活していただけで、こんなに弱くなるなんて」
「だったらまた修行して強くなればいいだろう」
慰めるようにベーキウがこう言った。クーアはその言葉を聞いて小さく頷き、立ち上がった。シアンは再びため息を吐き、こう言った。
「それじゃ、次の大陸に行くわよ」
その後、ベーキウたちは王様に挨拶するため、王の間へ向かった。その途中、キトリがシアンにこう聞いた。
「ねぇ、純白のガラス玉はどうするの?」
「お金で買おうと思う。足りなければ、近くのモンスターでも狩って、素材を売ればなんとかなると思うし」
「時間がかかるぞー」
嫌そうな顔でクーアはこう言ったが、シアンは言葉を返した。
「いいじゃない。特にあんたは弱くなったんだから、修行するいい機会だと思いなさい」
「この周辺の雑魚を相手にして、修行になるかー?」
「相手を甘く見ていたら、逆にやられるわよ。とにかくあと少しで王の間だから、静かにしててね」
その後、ベーキウたちは王の間に入った。その瞬間、サンラが飛んできた。
「おわっと!」
「あなたは確かベーキウさん……すみません、いきなり吹っ飛んで」
「構いませんけど、何をしているんですか?」
「王子を鍛えているんです」
と、道着姿のデレラがこう言った。サンラは立ち上がり、デレラに向かって走り出した。その様子を見て、シアンは近くにいた兵士にこう聞いた。
「あの、何やってるんですか?」
「修行です。サンラ王子はデレラさんに告白したんですよ。で、その身に合った人間になるため、鍛えているんです」
「はへー、あんな物騒な女に王子は惚れたのか。趣味が変わっとるのー」
「人が誰に惚れるのかはその人の自由よ」
キトリがクーアにそういうと、シアンは王様の前に立った。
「王様、一か月間マスコミたちから守ってくださりありがとうございます」
「いえ、礼を言うのはこちらの方だ。チャンバの騒動を解決してくれてありがとう」
と言って、王様は頭を下げた。その後、王様は部下にある指示をし、少し待ってくれと伝えた。数分後、指示を受けた部下がキレイなガラス玉を持ってやってきた。
「きれいなガラスですけど、これは?」
「これが純白のガラス玉だ。君たちには世話になった。これを探しているのだろう? 持っていきなさい」
王様は笑顔でこう言った。シアンは礼を言う中、心の中でただで手に入ってラッキーと思っていた。そんな中、王様がこう聞いた。
「君たちがファントムブレードを作るために動いているのは知っている。次に手に入れようとするのは何かね?」
「えーっと、近い場所から攻めています」
「近い場所か。なら、リトマメ大陸にある海のサファイアが近いわね」
と、ユージロコがこう言った。
「おわっ! いたのね!」
「デレラの修行を見にね。私もファントムブレードのことは知っているわ。武と戦いの道を歩む者として、一応武器のことにも知識があるのよ」
ユージロコはそう言うと、笑みを浮かべてこう言った。
「これを持っていきなさい。私の紹介状よ」
「あなたの紹介状? これは一体何に使うんですか?」
「お答えするわイケメンさん。私はこの大陸では名の通った格闘家。私の紹介があれば、どんな奴でも喜んであんたたちを船に乗せてくれるわ」
「ありがとうございます! 船代が浮かびました!」
シアンは笑顔でこう言うと、ユージロコは笑った。
「ハッハッハ! なーに、勇者パーティーを助けたって言えば、いい話のネタになるからね! あんたらの活躍、期待しているわよ!」
ユージロコはベーキウたちを見回しながら、こう言った。
その後、ガラス王国から旅立ったベーキウたちは、町の人たちから声を掛けられていた。そんな中、城から一つの影が高く飛び、ベーキウたちの前に着地した。
「お待ちください!」
その陰の主はデレラだった。デレラはシアンとクーアに近付き、こう言った。
「旅立つ前に、一回だけ喧嘩をするのは不可能でしょうか?」
「この人、相変わらずぶっ飛んだことを言うなぁ」
デレラの言葉を聞いたキトリはそう呟いた。シアンとクーアはため息を吐き、デレラにこう言った。
「すみません。一か月も遅れてしまったので、急がないと大変なことになるのです」
「いつかまた、ここにきたらリベンジする。お楽しみはそれまでとっておくのじゃ」
シアンとクーアの言葉を聞き、デレラは拳を前に突き出した。
「約束。私の拳をあなたの拳で軽く突いてください」
「拳同士を突くのね。これが、約束の交わし?」
「ええ、その通りです」
デレラの言葉を聞き、シアンとクーアは拳を作り、軽くデレラの拳に当てた。
「約束成立です。また会った時、本気の喧嘩をしましょう」
「ええ」
「次は負けぬぞ」
そのやり取りを見ていたベーキウとキトリは、やれやれと思いつつ、笑顔で見ていた。
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