温泉回ってどの作品にも一回はあるよね
イエロースライムを採取したのは成功したが、汚れまくったベーキウたちは近くの町へ向かった。
「うわ、まだ臭いが漂っているのかな?」
町の中を歩くシアンは、町の人たちの視線を感じて腕の臭いを嗅いだ。
「ウオゲェッ! まだちょっとだけ臭う!」
「完全に汚れが落ちたってわけじゃないしな……まぁ、服は変えたからいいと思うけど」
ベーキウは今の服装を見てこう言った。沼に入った際に着ていた服は処分した。今の服に臭いは付着していないが、まだ臭いが体に染みついているのだとベーキウは思った。
視線を感じながらもベーキウたちは宿屋に到着し、すぐに部屋に案内された。
「さて、すぐにシャワーを浴びるか。先に浴びてもいいぞ」
ベーキウは部屋の隅に移動し、その場で座った。ベーキウと一緒にシャワーを浴びようと考えていたシアンたちはため息を吐き、話を始めた。
「誰が先にシャワーを浴びるのじゃ? 遠慮しないでいいならば、わらわから先に浴びてもいいか?」
「ここは歳下優先で」
シアンの言葉を聞き、クーアはどや顔で笑った。
「じゃあ肉体年齢が若いわらわからか? わらわは十七歳じゃからな」
「ドアホ。普通の年齢に決まっているでしょ? あんたは八十五だから、十八歳の私が先になるかもしれないけど……」
シアンはそう言いながらキトリの方を見た。まだ、シアンたちはキトリの年齢を知らないのだ。
「キトリっていくつだっけ?」
「私は十五歳」
この言葉を聞き、シアンとクーアは驚いた。
「この冷静さで十五歳? やけに大人っぽく見えるけど」
「魔王がちゃんとした人で、その人の影響を受けたんじゃろう。それよりも、先に入るのはキトリで次はシアン。わらわは最後か……」
クーアはそう言ってキトリに早くシャワーを浴びるように促した。キトリがシャワールームに入ったことを確認したクーアは、シアンの方を見た。
「シャワーを浴びるだけじゃから、すぐに終わるじゃろう。シアン、すぐに入れるように準備をしておけ」
「えー? まぁ、言われてみればそうだけど」
「とにかく支度をしておけ。手っ取り早く汚れを落とせるようにしたいのじゃ」
「そうだね。それじゃ」
と言って、シアンはシャワールームの前へ向かった。シアンとキトリがシャワーの方を集中していると察したクーアは、小さく笑いながらベーキウの元へ向かった。クーアは二人の隙を作り、ベーキウとイチャイチャしようと考えていたのだ。
「ベーキウー。わらわと一緒に庭を見ながらコーヒーでも」
笑顔でこう言いながらベーキウがいる部屋に戻ったクーアだったが、ベーキウは庭で筋トレを行っていた。
その後、シャワーを浴び終えたベーキウたちは宿の温泉へ向かった。
「さて、身も心も休めるとするか」
ベーキウはそう言いながら男湯へ向かおうとした。後ろにいるシアンとクーアも男湯へ向かおうとしたのだが、キトリが慌ててバカ二人を連れて女湯へ向かった。
「むー。ベーキウとお風呂の中でイチャイチャしようとしたのにー」
「女の子が男湯に入ったら大騒動になるのに……勇者ならその辺分かってほしい」
「あーあ、ここが混浴じゃったら問答無用でベーキウの体に触れられるのにのー」
「クーアも欲望を抑えてほしい」
発情寸前のバカ二人を見て、キトリは呆れてため息を吐いていた。服を脱いだシアンたちは、湯船へ向かった。
「うわぁ……大きい」
広い湯船を見て、キトリは目を丸くして驚いた。シアンとクーアはあくびをしながら蛇口へ向かい、お湯を桶に注いで体を流した。
「キトリ、最初は体を流さないといけないわよー。シャワーを浴びたとはいえ、まだ汚れが残ってるんだから」
「いきなり湯船に入るのは悪いマナーじゃと言われているぞ」
「うん。分かった」
キトリは蛇口へ向かい、シアンとクーアがやっているようにお湯を桶に注いだ。
それから数分後、十分に体を流したシアンたちは湯船に浸かった。
「あぁぁぁぁぁ……生き返るぅぅぅぅぅ……若返るぅぅぅぅぅ……」
湯船に浸かったクーアは、年寄りのような言葉を呟いた。その呟きを聞いたシアンとキトリは小さく笑った。
「あんた、そんなこと言うと本当にババアみたいよ」
「うっさい! はぁ、人がリラックスしているのに」
クーアは背伸びをし、肩まで浸かった。しばらく三人はリラックスしていたが、クーアは男湯の方を見てにやりと笑った。
「他の連中はいないようじゃの」
「いないけど……」
この時、シアンはクーアが何を考えているか把握した。
「まさか、ベーキウの元へ行くつもり?」
「フッ、誰が言うか」
と言って、クーアは大きく息を吸って温泉の中に潜った。シアンはクーアが何を考えているか察し、急いでクーアの尻を掴んだ。いきなり尻を掴まれたため、クーアは温泉の中で大きく口を開けてしまった。
「グアッバァァァァァ! 何すんじゃお前はァァァァァ!」
「そんなことしたら捕まるじゃないの!」
「前科が付いてもわらわはベーキウのスッポンポンを見たいのじゃ! じゃから、邪魔をするな!」
「ここで見なくてもいいじゃない。旅をするうちにベーキウのスッポンポンを見るチャンスはあるよ! もしくは、作ることができる!」
「チャンスを作るって何?」
冷ややかな目でキトリはシアンを見たが、シアンはそれを気にせず慌てるクーアの尻を再び掴んだ。
「シアン、邪魔をするな! ベーキウは多分わらわ好みの細マッチョじゃ! それを見たい!」
「私だって見たいわよ! 本当は今すぐ男湯へダイブしてベーキウのたくましい胸元に抱き着きたいわ!」
「お前だって性欲があるじゃないか! と言うか、お前も一緒に男湯へ行こうとしたじゃないか! まさか、お前……わらわとキトリをさっさと女湯から追い出した後、男湯へ入ってベーキウととんでもないことをしようと考えているんじゃないのか?」
「ギックー! べ……べべべべべ……ベベベーベ……ベーベベ……別にそんなことは考えていませんよー」
と言って、シアンはごまかすために口笛を吹いたのだが、息しか出なかった。その隙にクーアは魔力を解放し、高く飛び上がった。
「温泉の中から男湯へ潜入しようとしたが、やはりこうやって大胆に向かった方が楽じゃ!」
「あ! あのババア! 飛び上がって男湯へ入ろうとして!」
シアンはクーアの後を追いかけるために、魔力を解放して高く飛び上がった。
「ベーキウー! 待っておるのじゃー! 未来の嫁が覗きに向かうぞーい!」
「ほざけババア! ベーキウの未来のお嫁さんは私じゃァァァァァ!」
バカ二人はいがみ合いながら男湯と女湯の間にある柵の上に立ったが、男湯にベーキウはいなかった。
「キャアッ! 女の子が上にいる!」
「キャアッ! 覗きか?」
「キャアッ! 変わった変態もいるもんだな!」
シアンとクーアの存在を知った男たちが、かわいい悲鳴を上げながら股間と乳首を隠した。ベーキウがいないことを察したシアンとクーアは目を開けて驚いていたが、闇の魔力で手を作ったキトリが二人を掴み、女湯へ戻した。
先に温泉から出て、コーヒー牛乳を飲みながらマッサージチェアに座っていたベーキウは、安堵した息を吐いていた。
「アホな騒動になる前に風呂から出てよかった」
ベーキウは女湯からシアンとクーアの大きな声を聞き、バカなことをやろうと考えていると把握した。だから、ベーキウは早く風呂から上がったのだ。飲んでいるコーヒー牛乳の瓶を近くの机の上に置き、横に置いてあった雑誌を手にしたベーキウは、つかの間のリラックスタイムを楽しんでいた。
マッサージを終えたベーキウは、正座で店の人から叱られているシアンとクーアを見て、すぐに視線をそらした。そんな中、浴衣姿のキトリがベーキウに近付いた。
「ベーキウ、リラックスできた?」
「何とかな」
ベーキウは笑いながらこう言った。キトリは心配そうな顔をして、ベーキウにこう言った。
「明日から大変だから……明日はブラッドシーへ向かって、釣りをしないといけないから」
「そうだな。俺、釣りはしたことないからな」
ベーキウは明日の予定のことを思い出し、ため息を吐いた。次の目的はブラッドシーと言われる不思議な海域。素材の一つ、クレナイザメの目を取りに行かなければならないのだ。初めて行く海を思い、ベーキウは楽しさ半分、不安半分の気持ちとなった。
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