王子の恋心
チャンバが引き起こしたクローン騒動は何とか終わりを迎えた。黒幕であるチャンバはデレラの手によって半殺しにされた後、城に送られ、チャンバは正式に大臣の座から降ろされ、その上革命や危険行為などの罪で逮捕された。
この事件はあっという間に全世界に広がり、世界中のマスコミがガラス王国の城に押し掛けてきた。
「ですから! 私たちはどうしてチャンバ元大臣がこんな事件を起こしたのか、知りたいだけなのです!」
「もう少し、もう少しだけ詳しい情報をください!」
「勇者シアンが今回の事件解決に携わったと情報があります。その辺を教えてください!」
城の兵士たちは、門の前で騒ぐマスコミを抑えながら叫んだ。
「と! に! か! く! 詳しいことはあとで会見を開きますので、それまで待っていてください!」
「会見はいつ開くんですか?」
「それは未定です! こっちだって騒動の後の掃除やチャンバの取り調べやらで忙しいんですから!」
「我々は国民の代表として、この国にきました! ですから、ちゃんとした情報をお伝えください!」
「あんたらマスコミが勝手に国民の代表を名乗るな! こっちにも事情ってのがあるので、落ち着いたら会見を開きます!」
と、兵士たちはマスコミを相手にいろいろと伝えていた。ベーキウとシアンは物陰からこの様子を見て、ため息を吐いていた。
「この様子じゃあ、当分城の中にいるしかないな」
「ねぇ。すでにジャオウたちがどこかに行ったから、早くこっちも動きたいっつーのに」
シアンはそう言って、深いため息を吐いた。ジャオウたちは巨大なクローン戦士を倒した後、どこかへ行ってしまったので、早くその後を追いかけて先にファントムブレードの素材を手にしたいとシアンは考えていた。しかし、今はマスコミがうじゃうじゃいる。そんな中で外に出たら、見つかって質問攻めにされると考えているのだ。
「はぁ、マスコミって本当にヤダ。自分勝手な奴しかいないんだもん」
「その通りだ。勝手に国民の代表とか名乗っているけど、誰もあんなのを代表に選ばないって」
そう話をしながら、ベーキウとシアンは部屋に戻って行った。
部屋の中では、クーアが部屋着でベッドの上で煎餅をかじり、キトリは雑誌を読んでいた。キトリはベーキウとシアンが戻ったことを知り、雑誌を置いて立ち上がった。
「どう? まだマスコミたちはいるの?」
「まだいるわよ。騒動が終わって三日、こっちは早く動きたいけど、あいつらのせいで動きは取れない」
「仕方ないから、休むしかないの。先走っても、いいことはないぞー」
と、クーアは食べかけの煎餅をひらひらと動かしながらこう言った。ベーキウはそれを見て、呆れてこう言った。
「煎餅のかすが布団の上に落ちるぞ。ちゃんと掃除しろよ」
「分かってます」
ベーキウの言葉を聞き、クーアは甘えた声でこう言った。
一方その頃、城の会議室では大臣や重役の人が今後のこと、マスコミ対処のことなどを話していた。サンラもこの会議に参加していたのだが、彼の脳裏には美しく暴れまわるデレラの姿があった。
「王子? どうかしましたか、王子?」
隣にいる大臣の言葉を聞き、サンラは我に戻った。
「ふぇ! あ、すみません! 少しぼーっとしてしまって」
「少しどころか、かなりぼーっとしてましたぞ」
「お疲れですか? 今回の事件で、ずっと解決のために動いていたから」
「大丈夫です。少し、考えごとをしていました」
「そうですか。もし、体調が悪かったら一言ください」
大臣の言葉を聞き、頷いたサンラは部屋から出た。その様子を見ていた大臣たちは、顔を見合わせて話を始めた。
「最近、王子の様子がおかしいな」
「ああ。あの大会の後だ」
「当り前だろう。あんな事件があったんだ、非常に疲れがたまる。まだ若いってのに」
「うーん、私はどうも疲れとかそういうものじゃないと思わないな」
この大臣の言葉を聞き、他の大臣たちがこの大臣を注目した。
「いや、どうして私の方を見るの? 驚いたじゃん」
「誰だってそんなことを言われたら、気になっちゃうよ。で、どうしてそんなことを言うの?」
「私の目には、恋で悩んでいるように見えたんだよね」
この言葉を聞き、大臣たちは少し納得した表情をした。
その頃、サンラは気を紛らわすために外を歩いていた。一応、マスコミにばれないように変装をしているが。
散歩の最中に、あの人と会うことができたらいいのだが。
と、サンラは心の中でデレラとの偶然の出会いを願った。そんな中、サンラは少し離れた所に重りを持って走っているデレラの姿があったのだ。サンラは思わず声を上げ、そのせいで周りの人がサンラに注目した。
「え……いやその……」
「どうかしましたか?」
と、デレラがサンラに近付いた。デレラはサンラの顔を見た瞬間に、正体に気付いたため急いで周りを見回し、サンラにこう言った。
「ここでは人目が多すぎます。少し離れた所でお話ししましょう」
「は……はい」
その後、デレラはサンラの手を掴み、ものすごい憩いで走り始めた。
数分後、デレラとサンラは城から離れた丘の上にいた。
「ここなら人がくることはないでしょう。ここは、私が勝手に作った秘密の道場です」
「ど……道場?」
サンラは息を切らせながら、周囲を見回した。そこには、とんでもない重さのバーベル、殴られ、蹴られすぎたせいでボロボロになったサンドバッグ、そして今までデレラが倒したであろうモンスターたちのはく製があった。
「う……うわぁ」
「他の人がこれを見たら、まぁその反応をするでしょう。でも、私はこれを自分の誇りだと思っています。これらがあるから、私の強さの元になったので」
そう言うと、デレラは雑に作られた椅子の上に座り、サンラも別の椅子の上に座った。
「こうして、ゆっくりあなたと話したかったです」
「あら、王子様とお話しできるなんておとぎ話見たいですわ。お茶がないですけど、いいですか?」
「はい。急な話だったので」
サンラは笑ってこう言うと、頭を下げた。
「まず、今回のチャンバ元大臣が起こした騒動の解決を手伝ってくださり、本当にありがとうございます。あなたや、勇者シアンたち、そしてトンカチ一家の力がなければ、騒動は解決しませんでした」
「そんなにお堅いことをしないでください。私は暴れたかっただけなんですから。はぁ、今後、あんな化け物と戦うことはないでしょう」
「え? またあんなのと戦いたいんですか?」
「もちろんです。私、強い奴と戦うことが一番大好きなんです」
と、デレラは笑顔でこう言った。サンラは笑った後、小さな声でデレラにこう言った。
「あの……恋とかって……考えたことはありますか?」
「恋ですか。うーん……まぁ、ちょっとだけ考えますね。ただまぁ、私の強さに耐えられる人がいれば、付き合ってあげてもいいですけどねぇ」
「あなたの強さに合う人ですか……」
サンラは少し考えた後、立ち上がってデレラの前に立ち、こう言った。
「もし、僕があなたと同じくらい強さになったら、付き合ってください」
サンラがこう言った瞬間、突如風が吹き、周囲の草木が揺れ、花弁が舞った。その言葉を聞いたデレラは驚き、口と目を開けていた。しばらくして、デレラは笑みを浮かべてこう言った。
「分かりました。では、あなたが私に追いついたら、考えましょう」
「え……」
「でも、私も常に毎日鍛えていますので、いつ追いつくか分かりませんけど」
この言葉を聞き、サンラは拳を強く握り、デレラにこう言った。
「大丈夫です! 僕も強くなります! そして、あなたと同じぐらい強くなります!」
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