そして夜が明けるころ
ベーキウたちの手によって、巨大なクローン戦士は大きなダメージを受け続けた。それでも巨大なクローン戦士は根性を振り絞って立ち上がり、戦いに挑んだ。だが、一対多数の状況では分が悪かった。
ベーキウとジャオウは同時に渾身の力を籠め、下にあるアルムのナイフに向かって大剣を振り下ろした。二つの大剣の刃にあたったナイフは、爆発したのかと思うような音を鳴らし、すごい勢いで巨大なクローン戦士の額に向かって放たれた。
「うっひゃー、すごい音」
「でもこれで、終わってほしいわね」
クーアは耳を塞ぎ、キトリはナイフが飛んでいく光景を見ながらこう言った。その一方で、シアンは剣を鞘に納め、安堵の息を吐いた。
「大丈夫よ。この一撃で何もかも終わるわ」
シアンの言葉の直後、ナイフは巨大なクローン戦士の額を貫いた。攻撃を受けた巨大なクローン戦士は悲鳴を上げ、ゆっくりと後ろに下がった。しばらく後ろに下がると、巨大なクローン戦士は後ろに倒れた。
「これで終わったのか?」
「だといいんだが」
床の上に着地したベーキウとジャオウは、倒れた巨大なクローン戦士を見てこう言った。すると、倒れている巨大なクローン戦士の体から煙が発し、氷が蒸発するかのように皮膚が解け始めた。
「うっわぁ……気持ち悪い」
「えげつないもの見ちゃったわね」
この光景を見たアルムとレリルは、嫌そうな声を発してこう言った。数分後、巨大なクローン戦士の体は完全に溶け、床の上には溶けて泥のようになった巨大なクローン戦士の体だったものができた。
「と……とりあえず」
「終わったな」
戦いが終わったことを知り、ベーキウとジャオウは安堵の息を吐いてその場に座った。その瞬間、心配したシアンたちが、同時にベーキウに抱き着いた。
「やったァァァァァ! さすがねベーキウ! 私との愛の力であんな化け物を倒しちゃうなんて!」
「なーにがお前との愛の力じゃ! わらわのベーキウへの愛の方が勝っていたのじゃ! そのおかげで、このヘンテコなバケモンを倒すことができたのじゃ!」
「うるさいわよ。二人が大会に出ている間、私が頑張ったんだから」
と言って、シアンたちは言い争いを始めた。そんな中、ジャオウはゆっくりと立ち上がり、アルムとレリルの方へ向かって歩いた。
「行くぞ。このままここにいると、俺も騒動解決の立役者として残れと言われそうだ」
「そうだね」
「あんまり目立っちゃダメだったわね、私たち」
「忘れないでくれ」
ジャオウはレリルにそう言った後、ベーキウの方を振り向いてこう言った。
「また会う時に、確実に決着を付けよう。約束だ」
「ああ。俺は絶対に約束を守る」
ベーキウの返事を聞き、ジャオウは小さく笑った。その後、ジャオウたちは高く飛び上がってどこかへ行ってしまった。
一方その頃、チャンバは城から脱出するため、場内を走り回っていた。
「チャンバ元大臣を見つけたら、しばくんだ!」
「どんな方法でもいい! とにかくあの野郎をぶちのめせ!」
「ヒャッハー! 楽しい楽しい血祭りの始まりじゃー!」
などと、兵士たちは叫び声を上げながらチャンバを探した。そんな中、大会に参加していた屈強な戦士たちも、チャンバ捜索に加わっていた。
「あの野郎、俺たちを使ってクローンを作ろうとしてたんだって?」
「クローンを作ろーん。なんつって」
「おい誰か、くだらないことを言った奴をぶっ飛ばしてくれ」
屈強な戦士たちも、自分たちが訳の分からない実験の道具にされかけたことを知り、チャンバに対し怒りを爆発させていた。
オイオイオイオイ、こんな状況であいつらに居場所がばれたら、ワシはとんでもないことをされてしまうぞ!
と、チャンバは心の中でそう思った。
それからしばらく、チャンバは身を隠しながら城内を移動していた。城内には、関係者しか知らない秘密の隠し通路が存在する。もし、テロリストや犯罪者が現れた時のために、逃げるための通路なのだ。チャンバはその通路を利用し、外に出ようとしていた。
「えーっと、確かここに外に通じる通路の入り口があったはずだ」
小さく呟きながら、チャンバはワインの入ったタルが置かれている部屋の中を歩き回った。この部屋には、大量のタルがある。そのタルの中に、隠し通路への入り口が紛れてあるのだ。
「確かこれだ。そうそう。見た目はタルだが、小さく脱出用と書かれてある。よし、これで逃げられる」
チャンバはタルを開け、急いで隠し通路への入口へ入り、急いで入り口をふさいだ。その後、急いで外に出るためにチャンバは走り始めた。
よし、誰もおってこない。このまま逃げ切れば、何とかなる。次の逆転のチャンスが巡ってくるまで、しばらく身を隠そう。
そう思いながら、チャンバは息を切らせて走っていた。
数分後、チャンバは城から離れた小さな洞穴の近くにいた。タルの中の隠し通路は、ここで終わっているからだ。
「はぁ……はぁ……何とか逃げ切れた。あとは、身を隠すだけ」
安堵したチャンバが、そう呟いた瞬間だった。どこからか風を切る音がしたのだ。
「なっ!」
音に気付いたチャンバは、急いで後ろを振り向きつつ、その場から動いた。
「チッ、意外と勘がいいおっさんですわね」
そう言ったのはデレラだった。デレラの姿を見たチャンバは悲鳴を上げ、逃げようとしたんオだが、腰を抜かしてしまったせいで動くことができなかった。
「な……何でここに?」
「城の人から聞いたんです。この城にはいくつか外に出るための隠し通路がある。もし、あなたが城内にいなければ、それらを使って外に出た可能性があると考えたのよ」
説明しながら、デレラは指の骨を鳴らしてチャンバに近付いた。チャンバは逃げようとしたのだが、腰を抜かしたうえ、デレラがチャンバの右足を強く踏んづけていた。
「いっだァァァァァ!」
「さぁ覚悟しなさい。あなたがあのバケモンを作ったと素直に認めなさい。そうすれば、一発で済むかもしれません」
「済むかもしれませんってどういうことだ! それよりも! ワシがあんな化け物を作った証拠がどこにある? 証拠を出せ、証拠を!」
「あなたの部屋に巨大な水槽がありました。そして、ベーキウとジャオウと名乗った戦士の爪や体のほんの一部がありました。これが証拠です」
「クソッ……城の連中が、ワシの部屋に土足で入り込んだのか!」
「あなたみたいに無礼な人たちではないから、土足ではないと思います」
と言って、デレラはチャンバの顔面を殴った。チャンバは小さく悲鳴を上げ、後ろに倒れた。
「おい……止めてくれ、ワシはガラス王国の大臣だぞ! これ以上の無礼は許さん!」
「あなたみたいな犯罪者が大臣? そうだ、もう一つ言っておきますが、あなたはもう大臣の椅子から落とされましたわよ」
「な……何じゃと!」
「何じゃとではありませんよ。考えなさいよ、あんな騒動を起こした人が、大臣の椅子に座ったままでいられると思いますか? あなた、意外と間抜けですね」
驚く表情のチャンバに対し、デレラはもう一度その顔面を殴った。
「グッファッ! おい待ってくれ! 頼む、攻撃を止めてくれ! そうだ、取引しよう!」
「何を取引するんですか?」
「ワシに協力してくれたら、いろんなものをお前にやる。金でも地位でも名誉でも何でもいい!」
「悪役みたいなことを言いますわね、本当に呆れた」
デレラはそう言って、渾身の力でチャンバの顔面を殴った。攻撃を受けたチャンバは短い悲鳴を上げ、後ろに倒れた。デレラは血で汚れた右手を拭きながら、倒れているチャンバにこう言った。
「私が欲しいのは、強い敵! 戦って楽しいライバル! それだけですわ」
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